10連休の過ごし方:頭木弘樹の場合 ~本と音楽の「黄金の日々」
10連休となった今年のゴールデンウィーク。ONTOMOナビゲーターや編集部が「10連休だからこそ」の目標を立てて、毎日の計画を発表!
第4弾は、文学紹介者の頭木弘樹さんの、本と音楽に囲まれる黄金の日々。インドア派のみなさんにオススメしたい本やCDをたくさんご紹介していただきました。
この機会に積読を消化しようかな? 大好きなあの本を再読してみようかな? これぞ大人の休日!
筑波大学卒業。大学三年の二十歳のときに難病になり、十三年間の闘病生活を送る。そのときにカフカの言葉が救いとなった経験から、『絶望名人カフカの人生論』(飛鳥新社/新潮文...
フリーランスというのは、仕事先から「連休明けまででいいですよ(=こっちが休んでいる間にちゃんと進めておいてね)」という、お言葉を頂戴する。
なので、連休に休んだことはほとんどないが、1度だけ、お正月の三が日、まるまる仕事を休んで、ずっと家で、音楽と本だけの日々を過ごしたことがある。それはもう幸せな日々だった。今でもときどき思い出すほどだ。
もし10日間もそんな日々を過ごすことができたら、どんなにいいだろう! 現実には仕事をしているだろうが、計画してみるだけでも楽しい。
私だったら、こんな「黄金の日々」を過ごしたい。
4月27日(土曜日)「現代音楽の日」
私は現代音楽が好きなので、まずは最近出たCDや本を。
・CD『仮想空間 ジャン・バラケ初録音集』ジャン=ピエール・コロ
大好きな作曲家。作品に非常に厳しい上に、若くして亡くなっているので、残された作品が少ない。
ところが、このCDには、初録音の楽曲が、なんと7曲も!
さらに、代表曲の「ピアノソナタ」も、バラケの手書きの譜面から書き起こした際の間違いを修正した改訂版(2019年末に発売される予定)による初録音が収録されている!
・CD『VEGA録音全集(1956-1963) 』イヴォンヌ・ロリオ
作曲家メシアンの弟子であり妻。
古い録音だが、この人はやっぱり特別なピアニストだと思う。
いまだにこの人の演奏がいちばんいいと思える曲がたくさんある。
このボックスセットには、初CD化の音源も多数含まれている。
・本『エドガー・ヴァレーズ 孤独な射手の肖像』沼野雄司
ヴァレーズ(フランスに生まれ、アメリカに帰化した作曲家)の本を出して、儲かるわけがない。それでも出してくれる出版社があるのだから、ありがたい。
定価がすごく高いが、少部数しか出せないと、どうしてもこうなる。買う人が増えれば安くなるのだが……。
単行本: 560ページ
出版社: 春秋社; 四六版(2019/1/7)
価格: 5,184円
ケージやシュトックハウゼンら戦後の前衛音楽のみならず、フランク・ザッパやチャーリー・パーカーなど、ロックやジャズの世界にも大きな影響を及ぼした20世紀前衛の旗手エドガー・ヴァレーズ。その激動の生涯を追う日本語初の本格的評伝。詳細な年譜、主要楽曲への解説つき。
・本『シュトックハウゼンのすべて』松平敬
こちらも同じで、「儲かる作品ではないが、やらなくてはならない作品だ」というカーク・ダグラスの言葉を思い出す。
感謝しながら読みたいと思う。
単行本(ソフトカバー):364ページ
出版社::アルテスパブリッシング:A5版(2019/2/25)
価格:3,024円
処女作『ドリスのための合唱曲』から電子音楽の金字塔『テレムジーク』、『少年の詩』70年代の傑作『シリウス』、超大作オペラ『光』、そして絶筆にいたるまで―全作品を網羅した詳細な解説に加え、「モメント形式」「フォルメル技法」といったシュトックハウゼンが用いた作曲技法、幼少期のエピソード、大阪万博、9.11での発言など氏を取り巻いた周囲の状況までをも詳述した日本初のシュトックハウゼン入門書にして決定版。作品を収録した公式CDの情報や独・シュトックハウゼン財団協力のもと、多数の譜例・図版・写真を掲載。
4月28日(日曜日)「ジャズの日」
・DVD『ケン・バーンズJAZZ』(10枚組)
ジャズの歴史を全10章で描く壮大なドキュメンタリー。昔、NHKで放送されたときに見て、とても感動した。
いつかDVDでまたじっくり見直したいと願っていた。
4月29日(昭和の日)「落語の日」
昭和と言えば、私の場合は、落語の「昭和の名人」たち。
江戸落語だと、古今亭志ん生、三遊亭圓生、八代目桂文楽、三代目桂三木助、八代目三笑亭可楽、五代目柳家小さん、十代目金原亭馬生など。
上方落語だと、いわゆる四天王。桂米朝、六代目笑福亭松鶴、五代目桂文枝、三代目桂春團治など。
DVDやCDで堪能したい。
とくに、もう何百回も聴いているけれど、いまだにいちばん好きなのが、このCDボックスセット。最高としか言いようがない。
・CD『桂米朝 上方落語大全集』第一期~第四期
・本『落語と私』桂米朝
子どもでも読めて、大人にも深い、私の理想とする本。何回も読み返して、お手本にさせてもらっている。
4月30日(天皇陛下が退位) 「自分にとっていちばん大切なものの日」
平成最後の日。
元号の変わり目に生きているというは、貴重な体験だ。
こういう特別な日は、自分にとっていちばん大切な音楽や本と向き合いたい。
・音楽 ウェーベルン
いろんな音楽を聴いても、いつもまたウェーベルンに戻ってくる。
・本 カフカ
いろんな文学を読んでも、いつもまたカフカに戻ってくる。
ウェーベルンもカフカも、音楽や文学の流れに、決定的な変化をもたらした。そういう意味でも、時代の変わり目に味わうのに、ふさわしいのでは。
文庫:267ページ
出版社:新潮社 (2014/10/28)
価格:562円
「いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」これは20世紀最大の文豪、カフカの言葉。日記やノート、手紙にはこんな自虐や愚痴が満載。彼のネガティブな、本音の言葉を集めたのがこの本です。悲惨な言葉ばかりですが、思わず笑ってしまったり、逆に勇気付けられたり、なぜか元気をもらえます。誰よりも落ち込み、誰よりも弱音をはいた、巨人カフカの元気がでる名言集。
5月1日(皇太子さまが即位) 「日本の音楽と物語」
純邦楽を聴く人が少なくなっているのが、とても残念。
こういう日くらいは、純邦楽にひたりたい。
・CD『人間国宝 山口五郎 尺八の神髄 ― 尺八本曲 ―』12枚組
山口五郎が亡くなったとき、図書館にこのCDボックスセットをリクエストしたら、「リクエストの数の多い順だから」と断られた。当時、モーニング娘。のCDは、同じものが何十枚も入れてあった……。
NASAはボイジャー1号に、モーツァルトなどと共に山口五郎の演奏も搭載したというのに。
・本『日本の昔話』全5巻セット 小澤俊夫
日本の昔話は、じつは世界とつながっている。遠くアフリカからやってきた話が、日本の昔話になっていたりする。
そういう意味でも、昔話というのは、面白い。決して子どものためのものではなく、本来は大人の楽しみだった。
小澤俊夫は、「昔話大学」も主宰している、昔話の専門家。小澤征爾のお兄さんで、小沢健二のお父さん。
出版社:福音館書店(1995/10/1)
5月2日「民族音楽の日」
大学で関東に出てきたとき、民族音楽というものを初めて知った。すごくいろんな音楽があって、目からウロコだった。
考えてみると、それまでは、日本の音楽と欧米の音楽しか聴いていなかった。
世界には、他にもさまざまな地域があり、さまざまな音楽がある。なぜそのことをこれまで考えなかったのかと、不思議な気さえした。
以来、ときどきは意識的に聴くようにしている。
・CD『密林のポリフォニー イトゥリ森ピグミーの音楽』ビクターエンタテインメント
ビクターエンタテインメントから民族音楽のCDのシリーズが出ていて、それらは本当に素晴らしい。
・本『アフリカのことわざ』アフリカのことわざ研究会(東邦出版)
最近出た本。アフリカのことわざは、ものすごく面白い。笑えるし、深いし、意味不明なものもあって、それもまた楽しい。
5月3日(憲法記念日)
・DVD『獅子の時代』
山田太一脚本のNHKの大河ドラマ。明治維新を、薩摩藩の武士と、会津藩の武士の両方の視点から描いている。
もう何回も見ているが、その都度、はまり、感動する。
最後のほうで、憲法の話が出てきて、とても感動的。
憲法記念日に見るのにふさわしい作品。
5月4日(みどりの日) 「自然音の日」
私は自然音のCDもとても好き。もちろん、自然音の本当のよさは、CDではわからないのだけど。
・CD『Canoe Trip』ジョー奥田
四万十川をカヌーで下っていくというCD。自然音もそれにつれて変化していく。
パドルで水をかく音も入っている。それが邪魔になるかと思ったら逆で、むしろそれがいい。川を下ったり遡ったりする小説や映画がよくあるが(カルペンティエールの小説『失われた足跡』や、コンラッドの小説『闇の奥』や、コッポラの映画『地獄の黙示録』など)、何か人の琴線にふれるものがあるようだ。
・本『Little selections あなたのための小さな物語』全8巻 赤木かん子編(ポプラ社)
自然音は、水音や鳥の声や風の音や木々のざわめきなど、いろんな音が混じっているところがいい。
というわけで、合わせて読むのは、アンソロジー。
私は、筒井康隆さんと赤木かん子さんのアンソロジーが大好き。その影響で、自分でもアンソロジーを出している。
とくにこの『Little selections あなたのための小さな物語』全8巻は、1冊ごともアンソロジーだが、シリーズ全体として大きなアンソロジーという面白い試み。入っている作品も、何度読んでも面白いものばかり。
5月5日(こどもの日) 「仁木悦子の日」
子どもが主人公の大人のミステリーというのを仁木悦子は書いた。でも、子ども向けと間違われて、あまり読まれていない。
ものすごくよくて、私は大好き。せつなくてたまらない。
・本『子供たちの探偵簿』全3巻(出版芸術社)
この3冊に集めてある。
・CD『アローン・イン・サンフランシスコ』セロニアス・モンク
モンクのピアノソロ。仁木悦子にはこれがぴったりと勝手に思っている。
5月6日(振替休日) 「大島弓子の日」
最終日は、大好きな大島弓子の漫画で。大学生のときに初めて出会った。こういう漫画もあるのかと、それまで知らなかったことがショックだった。どの作品もいい。
・CD『TRACY CHAPMAN』トレイシー・チャップマン
大島弓子には、トレイシー・チャップマンがすごく合う。これはぜひ試してみていただきたい。
どのアルバムもいいが、とくにファーストアルバムがいい。
休みが終わるというせつなさを、大島弓子と共に過ごして、10日間の「黄金の日々」の終了。
関連する記事
-
現代も古典も一緒に楽しめる!時を超える音楽祭「フェスティヴァル・ランタンポレル」
-
チェリスト中木健二の新境地。熱狂するチェロの音色に浸る
-
現代音楽界のレジェンド、I.アルディッティにきく 作曲家との50年を振り返るプロ...
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly