
食わず嫌いは損をする? 私が魅了されたブリテン作品とは!?

2026年は、イギリスが誇る20世紀の作曲家ベンジャミン・ブリテンの没後50年。名前は知っていても作品はあまり知らないような……。一見とっつきにくさも感じる彼の作品の魅力とは!? ブリテン音楽にハマるプロセスをご紹介!

東京藝術大学作曲科首席卒業、同大学大学院修了。作品はオペラ、管弦楽、声楽、合唱曲など幅広く、編曲にも定評がある。また多くのソリストに楽曲を提供しており、共演ピアニスト...
この原稿を書きながら、パソコンからはブリテン最後のオペラである《ヴェニスに死す》が流れている。
ヴェニスに死す
海辺の街に住んだブリテンは、海の描写に長けていたと評されるが、このオペラの冒頭も船の汽笛のようなもの、海鳥の鳴き声のようなものが不思議な光景と幻想を作り出している。
ブリテン音楽への入口となる作品
私にとってのブリテンは多くの人と同様だと思うのだが、《青少年のための管弦楽入門》から始まった。荘厳で劇的なこの曲の開始のインパクトは、少年の心を惹きつけるのに十分なキャラクターだった。
しかし、この音楽はイギリス・バロック時代の作曲家パーセルの音楽。ブリテンのオリジナル性はむしろその後に展開される楽器紹介の変奏に現れるのだが、それらの変奏は素直なハーモニーや音楽の進行が聴こえない印象で、あまり興味を惹かれなかった。作品の後半、全楽器が順番に登場するフーガと、終盤の高らかに鳴るパーセルのテーマの再現によるクライマックスを待ちわびるばかりだった。
青少年のための管弦楽入門
他に聴く機会があるブリテン作品といえば《シンプル・シンフォニー》Op.4と、ごく初期のピアノ曲くらい。調性を常に用いていて、聴き手にわかりやすいそれらのキャッチーさは、ブリテンという作曲家は現代音楽とはまったく立ち位置が違う、古典的で保守的な作曲家という印象を私に抱かせた。
シンプル・シンフォニー
そんな私がブリテンの他の作品に触れるようになるのは、音大に進学したあとのことだ。オーボエとピアノのための《2つの昆虫の小品》。バッタと蜂の描写であるこの作品のリアリティ、リズム的な面白さはとても新鮮だった。
2つの昆虫の小品
戦前の日本との関係でも話題になる《シンフォニア・ダ・レクイエム》Op.20。レクイエムで書かれる「怒りの日」は、作曲家の手腕を見る注目の一曲になる。
多くの作曲家が爆発的なエネルギーを込めるこの場面の音楽で、ブリテンはなかなか発火しない装置のように、短い発火の繰り返しを反復させる。それまでの「怒りの日」像とはまったく異なる音楽を創始していて驚いた。
シンフォニア・ダ・レクイエム
オーディションの伴奏を頼まれたプロコフィエフの「ヴァイオリン協奏曲」のために借りたCDに、カップリングでブリテンの「ヴァイオリン協奏曲」が入っていた。ついでに聴いてみると、その出だしも展開もこれまでのヴァイオリン協奏曲には聴いたことのない新しい印象で、不思議なハーモニーで展開する場面などはプロコフィエフ以上に私を虜にしてしまった。
ちなみにCDを貸してくれたオーディションを受けた学生は、ブリテンの協奏曲は出だしを少し聴いただけだった。「協奏曲っぽくない」と言っていた。その通りだ。
ブリテンの音楽はある意味で、最初は聴き手の期待や予想を外すものが多いのかもしれない。彼のヴァイオリン協奏曲も、多くのヴァイオリン協奏曲の名曲がもつ派手さ、華やかとは異なるスタンスを全体にもつし、「怒りの日」だって本来ならもっと破滅的なくらいに大きなエネルギーを味わいたいのかもしれない。
しかし、その通俗的な装いとは違う世界がなんとも新しい感覚であり、いわばこの新しい味覚のようなものをどうしても味わってみたくなってしまう。それが私のなかのブリテンの魅力になっていった。
ヴァイオリン協奏曲
今、《ヴェニスに死す》では、ヴィブラフォンが不思議で官能的なパッセージを奏でている。これは少年タッジオの描写の場面で流れるが、その描写のためにこの楽器を選択するセンス、同じようなパッセージを繰り返すだけのシンプルな音型のテーマなのだが、ランダムな音の連打や音型の音の選択の妙に、独特なキャラクターが浮かび上がっている。
前出の《青少年のための管弦楽入門》。いつのまにか私は、冒頭のパーセルの音楽ではなく、各楽器紹介になるその後の変奏の部分に惹きつけられていた。
変奏曲というのは、元になる主題(テーマ)にさまざまな形で変奏を加えて、テーマのキャラクターを変えていく様相を味わう音楽であるが、変奏のパターンを楽器のキャラクターを生かすものにし、変奏を通じて楽器の個性も強く印象づける。そして、オーケストラの楽器のそれぞれが個性的であることを裏ぢけるように、それらは実に多種多様で、古典的な変奏の形を取りながらも、既知感のない音楽と展開を施す手腕を発揮する。
だんだんじわじわとくる? ブリテンの魅力
ブリテンはおそらく比較的速書きであり、感覚的に書いているところも大きいと思われるのだが、結果、生み出される音楽は独特の即興性と相まって、彼ならではの不思議なフレーズと世界を生み出す。
ブリテンの音楽、彼の音楽の面白み、それらは決して初見でわかりやすいものではないのかもしれない。しかし、苦手な味覚、食材が次第にハマると手放せないものになるのと同様、彼の音楽はある種の中毒性があるのだと思う。
ブリテン没後50年。今、世界中で彼の音楽がさかんに演奏、上演されているのは、彼の作品の魅力が死後の期間をかけて、世界中の音楽家、聴衆に浸透してきたのかもしれない。私と同様に。
食わず嫌いも、コアなファンにも、今年はブリテンに触れてみる機会に恵まれる、まさにアニバーサリーな年だ。
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