
「譜読みができない!」の苦しみをどう解決する? 教本「ピアチャレ」 シリーズ著者、山本美芽さんに聞く

ピアノのレッスンは、いつの時代も人気の習い事。でも、さまざまな理由でやめてしまった、挫折してしまったというケースも少なくありません。ONTOMOでは、一度やめてしまったピアノファンの子どもたちにも大人たちにも、また挑戦していただきたい! と、特集「楽器リスタート入門」に合わせて、ピアノの先生の事情にも詳しく、ご自身もピアノ指導をされている山本美芽さんにお話をうかがいました。

東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
最近のピアノレッスンにまつわる気になる話題から、前編「ピアノレッスンに親は付き添うべき?」に引き続き、後編では「『譜読みができない!』の苦しみをどう解決する?」というテーマについて、人気急上昇中のピアノ教本『はじめてのピアチャレ』シリーズの著者、山本美芽さんに、現場の事情を詳しく紹介していただきます。
※本記事はポッドキャスト番組『ONTOMO Radio』で語られた内容を再構成しています。

音楽ライター、ピアノ教本研究家、ピアノ講師、ピアニスト。東京学芸大学教育学部音楽科卒業、同大学院教育学研究科音楽教育専攻修了。埼玉県の中学校(音楽)、養護学校教諭学校勤務を経て、1997年より音楽ライターとして執筆開始。ジャズ・フュージョン・ピアノ教育を軸に、国内外の音楽家数百人にインタビュー。ピアノ教本研究家として全国のピアノ講師が集う「山本美芽ライティング研究会」をfacebookで主宰。次世代のピアノ教育の在り方を研究し、著書多数。全国の楽器店でセミナーに登壇。導入教材「はじめてのピアチャレ」シリーズが大反響となり5冊を出版、続刊を刊行中。ピアノを故・多喜靖美氏、根津栄子氏、佐藤勝重氏に師事し、演奏活動も行っている。山本美芽オフィシャルサイト https://mimeyama.
jimdoweb.com/
©井村重人
ピアノで挫折する原因は譜読み?
――ピアノが上達しない、あるいは途中でやめてしまう子どもたちは、実態としてどれくらいいるのでしょうか。まずは、子どもたちがどこでつまずいたり、離脱したりしてしまうのか、という具体的なケースから伺えますか。
山本 やはり「譜読み」は最初の大きな関門ですね。譜読みがうまくいかないことが、ピアノを続けられるかどうかの分かれ道になるということは、昔から言われています。
以前、私が譜読みに関する本を執筆した際、広島大学の先生が付属中学校の生徒を対象に実施した調査論文を目にしました。それによると、譜読みができた生徒は全体の約半分。その全員がピアノや電子オルガンを習っている子どもたちだったのです。「学校の音楽の授業だけでは、譜読みができるようにはならない。鍵盤楽器を習うと譜読みができる」という結論でした。
しかし、「ピアノ教室に通っている子は全員が楽譜を読めるのか」というと、決してそうではありません。その調査は、たとえば1段のメロディ譜が読めるというレベルのことだったと思いますが、ピアノの初見では、右手と左手の2段を同時に読めたほうがいいですよね。サクサクと読みながら同時に両手で弾くとなると、難易度は上がってしまう。なかには、「耳コピ」を併用して必死に暗譜したり、迷いながら手探りで弾いたりと、多くの人が苦労をしていて、決して簡単に身につくものではないと言えると思います。
――譜読みでつまずくと曲が進まなくなり、悪循環に陥ってしまいますよね。「新しい曲に挑戦する楽しさ」を味わえないまま離脱してしまうケースも多いそうです。「ピアノは好きだけど練習は嫌い」という子もいますよね?
山本 たくさんいると思いますよ。
和田 その原因が譜読みではないかと思っているのですけど……。

山本 それはあると思います。自分で譜読みができないと、耳コピで補おうとしてもいずれ限界がきてしまいますし、譜読みの力が追いつかないことがボトルネックとなって、成長が頭打ちになって進まなくなる、ということはあると思います。
なので、日本のピアノ教育では、「音楽的自立のために譜読みの力を育てましょう」と、がんばって取り組んできたのですが、どうしても「読めない子」が出てしまうのが現状です。
忙しい現代っ子には童謡も使ったアプローチを
――譜読みのトレーニングはされるわけですよね。得意になる子もいると思うのですが、どのような練習やトレーニングをされているのでしょうか。
山本 定番の教材として、呉暁先生の『4才のリズムとソルフェージュ』(音楽之友社)がオススメで、使っているピアノ指導者も多いです。使い方は、以前、私もお手伝いした『練習しないで上達する 導入期のピアノ指導』(呉暁 著/山本美芽 構成・文/音楽之友社)という本に書いてあります。
この教本は、前半で「リズム打ち」を学び、後半で「ドレミを読む」という2系統に分かれています。まずは「タン、タン」と声に出しながらリズムを叩き、それからドレミ(音名)を読んでいく。ピアノを弾く前段階のトレーニングとして非常に効果的です。
呉先生は、「30分のレッスンのうち、15分はソルフェージュに充てるのですよ」「ピアノよりも、ソルフェージュのほうが大事なのよ」とよくおっしゃっていたし、先ほどの呉先生の本にも書いてありまして、確かにそれでうまくいく場合も多かったです。でも最近では、これだけでは対応できない状況が出てきました。
――それは子どもたちを取り巻く環境に変化があるのでしょうか。
山本 生徒が非常に忙しくなっていて、「月に2回しか来られません。家でも忙しいからあまり練習もできません」という場合がある。そうなると、レッスンで教えたことを次のレッスンで忘れていて、なかなかテキストが進まないから飽きてしまいます。このテキストを作ったときに想定していたシチュエーションと違ってきているのです。
こういう場合は、「少しずつ、丁寧にゆっくり進めればいい」という単純な問題ではなく、実際の曲や童謡を歌うなかでリズムを覚えるなど、教え方を根本的に変えなければいけないのです。
――童謡を教材にするというのは、すでに子どもの中にメロディが定着している曲を活用する、ということでしょうか。
山本 そうですね。たとえば3拍子の曲を教えたいとき、教材として『かっこう』を取り上げるとします。子どもたちは歌うときには自然と「かっ、こう、ウン」と3拍子で歌えるのですが、いざピアノで弾く段階になると、「かっ、こう、ウン、ウン」と4拍子になってしまうんですよ。
和田 わかる! なんでですかね?
山本 これは「あるある」なんですが、3拍子は奇数なので難しいのです。歌は言葉のイントネーションがそのまま音楽になっていて、言葉がガイドになって助けてくれます。
なので、「かっ、こう」という言葉そのものが3拍子なわけですが、この言葉がなくなって「ソ、ミ」と音符になった瞬間、「ソ、ミ、ウン、ウン」と拍感がなくなってしまいます。こういった言葉がもつ重要性は大きいので、指導にうまく取り入れたほうがよいと感じています。
小4で習う算数と譜読みの関係
和田 学校では年齢に応じた教科の進め方があると思いますが、譜読みにも「この年齢なら、これくらいの譜面を初見で読めるでしょう」というような基準はあるものですか?
山本 昔のテキストには割と年齢の基準が書かれていましたが、最近その基準がかなり崩れてきて、一概には言えなくなっています。
昔は子どもの数が多くて、ピアノ教室側も「きちんと家で練習して、ついてこられる子」を中心に教えていました。同じような環境や熱量の子どもたちを集めていたので、「〇歳ならこのレベル」という基準が成立していたのですが、今は、全然練習してこない子と、ものすごく練習してすごい勢いで上達していく子が入り乱れています。
——年齢による基準にフィットしなくなっていると。
山本 ただ、あるピアノの先生が「小学3年生で算数の『分数』を習う前に、音楽の『8分の6拍子』を教えても、理屈がよくわからないよね」とおっしゃっていたのですが、その9歳くらいが「保存の概念」などがわかるようになって認知能力が大きく育つ年齢。そのあとに譜読みがだいぶできるようになるんです。その前は特に男子はあまりできない傾向がどうしてもあって、そのときにお母さんが「どうしてうちの子だけ読めないの?」とカリカリするのは「愚の骨頂です!」とよくお伝えしています。
ここで親が我慢できずに、小学1〜2年生で「もう、やめさせます!」と見切りをつけてしまう場合もあれば、そのまま「まぁ、いいか」と見守っていると、小学4~5年生くらいになって急に芽が出てくることもあります。指導経験が豊富な先生なら「男の子はみんなそんなものだから、時期が来れば大丈夫」と大らかに構えています。
でも最近、「低空飛行でお月謝払うのはどうなのよ」とコスパ(コストパフォーマンス)を求められがちなんです。「お稽古事の整理整頓をします」とか、よく聞きます。
――ピアノって、一見コスパ、タイパ(タイムパフォーマンス)がよくないものじゃないですか。前編でもおっしゃっていましたが、ある程度の積み重ねと時間を必要とするものですよね。そこで親の側が我慢できなくなってしまうと、もったいないかもしれない。
山本 いつもセミナーでお話ししているのですが、算数の時間に「折れ線グラフ」が出てくるのは、小学4年生です。X軸とY軸が同時に動いていく、これは楽譜にもありますよね。ということは、この頃になってようやく譜読みができるようになるケースも珍しくはないんです。
みんな「幼稚園で楽譜が読める子どももいるじゃない」と思うんですけど、それは「漢字がものすごく読める幼稚園児」と同じなんです。じゃあ、それができない幼稚園児はダメなのかというと、別にダメではないですよね。かつては譜読みができる幼稚園児だけ集めて教室をしていたので、それが普通になって、それをスタンダードに教本なども作られていたのですが、そこに入れないからと言ってダメではないんですよね。
音符の玉の「中」にドレミを書く
――譜読みが苦手な子が、楽譜の音符に「ドレミ」を書くのをNGにしている指導者もいると聞きましたが、これについてはどうお考えですか。
山本 小学校の器楽の合奏だと、先生がカナを振ったものをプリントにして配り、それを見て演奏していたりするのですが、ドレミの文字を書いてしまうと、字だけ見てしまって、音符の「高さ」を見なくなるのです。いつまでたってもドレミの音符の高さを見分けられなくなるので、字を書くのはやめましょうということで来ていたと思います。実際、そのとおりなんですよね。
教科書を音読するように、初見で楽譜をスラスラとピアノで弾けるようになるのが理想ですが、文字を読んでいると、音符の玉の高低が判別できない。だから「なるべく音符の玉を読ませよう」となったのだと思います。
――音楽に親しんでいくのにも、必ず役立ちますものね。楽譜が読めるって、一つの違う言語がわかるような、すごいスキルだと思うので、それをサポートするために作られたのが、この「ピアチャレ」シリーズだと聞きました。
山本 そうなんです。私もドレミを書くのはずっとNGだと思っていたのですが、ずっと読譜ができない子もいるので、このモチベーションが上がらない状況を何とかしたくて。
実は、音楽の教科書を見てみると、小学2年生の鍵盤ハーモニカのページなどでは、ずっと前から音符の玉の中にドレミの文字が入っていて、このスタイルがいいのではないかと思ったんです。あと、19世紀のヨーロッパでは、一般庶民向けに、文字や数字を用いた「簡易楽譜」が広く使われていたそうです。
専門家を目指すような優秀な子どもであれば、最初から五線譜を読ませるスパルタ方式でも通用します。しかし、もっとカジュアルに、趣味として音楽を楽しみたい層に対して、最初からハードルの高い五線譜を強いるのは無理があります。
日本の唱歌の教科書でも「数字譜」が載っていたんですよ。ドレミが1・2・3になっているもので、読むときは昔の123がヒフミだからヒフミ~って読んでいました。数字譜のメリットは、「上下の高さ」がなく、横に流れていく数字を読むだけでよいところ。大正琴の楽譜に今も数字譜が使われているのは、その名残りです。
ですから、導入期はやはり文字を併用しようと、「ピアチャレ」シリーズでは、音符の玉の「中」にドレミを入れたわけなのです。楽譜にドレミのカナふりを書くのは、譜読みができる子なら小学生でもできますが、音符の中にドレミを白抜きで書くのはとても難しいですよね。印刷して売ってくれれば買うでしょ、と思ったのです。
これを作るのが音楽之友社さんのミッションだと思いまして(笑)、19世紀から現代の音楽教科書まで続く簡易楽譜の歴史も調べ上げて、学術的なバックグラウンドも完璧に整えました。安心して使ってほしいので。

山本 このデザインにすると、子どもの視線は必ず音符の玉に向きます。自然と音符を見る習慣が身につくのです。
実際に「ピアチャレ」を使用してみると、多くの子どもたちに「初見力」が育つことがわかりました。慣れて読めるようになった音から、徐々に文字を塗りつぶしていく。このステップを踏むことで、無理なく、五線譜へと着地できるようになります。
――最初の段階で「え、読めない……」というストレスもなくなって、ピアノが嫌になることも減るかなと想像できます。
山本 『はじめてのピアチャレ 1』は、両手の楽譜の左手が一冊通して全部「ソ」だけなんです。一人で練習したときに「できた感」が得られるように、とにかくシンプルにしました。
和田 それが今の時代に対応していますね。親が練習に付き合えないと第一関門をクリアできないのではなく、自分で「簡単そう!」と思ってできる、難しそうと思わせない、ということは大事です。
山本 『はじめてのピアチャレ 1』はドレミファソだけ、『はじめてのピアチャレ 2』はソラシドレだけ。一冊の途中で発展していくのは、大人が付き合ってくれないと厳しいので、第2巻をもらったときに、「今日から私はソラシドレなんだ!」とわかって、その音の範囲で曲が進んでいって、いろいろなメロディが弾けるようにしました。
もし褒めてくれる親御さんがいなくても、一人で弾いて、一人で「え、弾けた。わたし、すごい」とニヤニヤできるように作ったんです。自分で「すごいかも!?」と思えないと、テンションが上がらないと思うんですよ。
――最後にお伺いしたかったこととして、子どもも大人も楽しくピアノを続けられるようにするには、どんなことが大切でしょうか。
山本 昔のピアノ教育は「こうじゃなきゃいけない」という「お約束」がたくさんありましたが、今は時代も変わっています。全部が古いわけじゃないけれど、そのお約束はいまも守るべきなのか、仕分けは必要です。もはや意味のなくなったお約束を守ってピアノが嫌いになっても残念ですから。コツコツと積み重ねることも大事ですが、どれだけ柔軟な発想ができるかも、同じぐらい大事なのです。
――「ピアチャレ」のデザインも、昭和のピアノ教室ではタブーだったかもしれないけれど、一曲を弾きとおせる喜び、自分でできることの自己肯定感をもってもらうことのほうがよほど大事と発想されたもの。ぜひ大人も試してみてほしいですね。
ONTOMOレコメンド: 好きな曲を弾きたい! を叶える一冊
――「ONTOMOレコメンド」のコーナーです。「ピアチャレ」のシリーズ最新刊として『ピアチャレクラシック』をご紹介します。「ピアチャレ」シリーズは累計4万2000部を突破したとのことですが、この新刊にはどのような特徴があるのでしょうか。
山本 ピアノ教室に入ったばかりの生徒から、「『ラ・カンパネラ』を早く弾きたいです!」「いつになったら弾けるの?」と聞かれ、先生方が対応に苦慮するという話をよく耳にします。そんなときに、「この楽譜なら今すぐ弾けるよ」と渡せる教材を作りました。

これまでも、クラシックの名曲を初心者向けに簡単にしたアレンジ楽譜はたくさんありますが、多くは弾きやすくするために「移調(キーを変えること)」がなされています。
私は「原調(作曲者が書いたオリジナルのキー)」にこだわりがあるので、その曲がもつ本来の響きや雰囲気が違ってしまったり、YouTubeなどで原曲の音源を聴きながら合わせようとしても音が合わなかったりするのはクリアしたかった。そうすると、シャープやフラットが多くなって難しくなりますが、そこは「ピアチャレ」なので、「音符の中のドレミ」が助けになります。
みんな結構楽しんで使ってくれていて、たとえば、シューベルトの『魔王』なら印象的な冒頭の同音連打の部分だけ、ブルクミュラーの『アラベスク』なら最初のほうだけ、あとはリストの『愛の夢』といった名曲の超ショートバージョンが入っています。「ここを弾いてみて楽しかったから、次は本当の楽譜、フルバージョンに挑戦しよう」というクラシックへの入り口になってくれればいいなと思っています。
――全部で31曲入っているので、みなさんが気になる曲、好きな曲が1~2曲は必ず入っていると思います。ぜひチェックしてみてください!
ポッドキャストの視聴はこちら
日時:2026年6月26日(金)10:00~12:00
会場:愛知県犬山市 真和楽器
問合せ:真和楽器 TEL: 0568-62-2273
日時:2026年7月15日(水)10:30~12:30
会場:岐阜県高山市 コサカ楽器 カルパティオ店 2階
問合せ:コサカ楽器 カルパティオ店 TEL: 0577-33-1031
日時:2026年7月16日(木)10:30~12:30
会場:愛知県半田市 ピアノガーデンマツイシ
問合せ:ピアノガーデンマツイシ TEL: 0569-26-3330
~グルーヴとハーモニーの美学
ピアノで辿るクラシックとジャズ、ポップスの境界線
[東京公演]
日時:2026年9月26日(土)16:30開場、17:00開演
会場:東京・渋谷ホール
https://teket.jp/13478/69883
[名古屋公演]
日時:2026年10月11日(日)16:30開場、17:00開演
会場:愛知県・アーク栄サロンホール
https://teket.jp/13478/69884
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