優れた俳優は、言葉の力によって、いかに優れた歌をうたうことができるか
ONTOMOエディトリアル・アドバイザー、林田直樹による連載コラム。あらゆるカルチャーを横断して、読者を音楽の世界へご案内。今回は、公演直前のミュージカル『リトル・ナイト・ミュージック』から、ブロードウェイのレジェンドであるソンドハイムの魅力に迫る!
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
スティーヴン・ソンドハイムの名作「リトル・ナイト・ミュージック」 が豪華俳優陣でいよいよ上演!
スティーヴン・ソンドハイム(1930-)といえば、一般的には、映画やミュージカルで有名な「スウィーニー・トッド」の作詞作曲の人、と言えばいいだろうか。
クラシック音楽ファンには、あのバーンスタインの「ウェスト・サイド・ストーリー」(1957)の作詞を手掛けた人、と言った方がいいかもしれない。
演出家の宮本亜門が世界進出するきっかけとなった「太平洋序曲」。同じく亜門版の「コメディ・トゥナイト」(片岡愛之助主演)。ディズニーによって映画化もされた「イントゥ・ザ・ウッズ」の名を挙げてもいい。
すべてソンドハイムの作詞作曲によるミュージカルである。
ソンドハイムの魅力は、言葉と緊密に結びついたメロディの美しさだけではない。複数の役柄によって歌われるとき、それはあたかもモーツァルトやリヒャルト・シュトラウスのオペラに匹敵するような重層性をもち、複眼的なドラマとして音楽と歌が進行していく、そのスリリングさがいいのだ。
かつて世界文化賞を受賞して来日したソンドハイムに記者懇談会で質問したことがある。あなたの音楽はクラシックに通じるものがあるのではないか、と。そのときソンドハイムはモーリス・ラヴェルの名前を挙げて、こう付け加えた。
「ラヴェルこそはすべてのポピュラー・ミュージックの元祖ではないか」と。
これには異論のある人もいるかもしれない。だがある意味とてもソンドハイムらしい考え方だと思った。ラヴェルの音楽にある都会的洗練と知性、それは彼のミュージカルに通じるものがあるからだ。
ソンドハイムの名曲「センド・イン・ザ・クラウンズ」が劇中歌として大人の恋愛のスパイスに……
今年88歳、いまやブロードウェイのレジェンドであるソンドハイムの作品のなかで、その代表的な名作として知られているのが「リトル・ナイト・ミュージック」(1973)。
これが実に日本で19年ぶりに上演される。
この題は、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」(小夜曲)の英訳であり、その名の通り、大人の愛の物語であると同時に、格調高い音楽劇でもある(実際にニューヨーク・シティ・オペラで上演されたことさえあるくらい)。
ソンドハイムの作った劇中歌のなかで、もっとも有名な代表曲として知られるのが、「センド・イン・ザ・クラウンズ」(悲しみのクラウン)。
これは単独のスタンダード曲として、たとえばジュディ・コリンズ、バーブラ・ストライザンド、フランク・シナトラ、あるいは元ロキシー・ミュージックのブライアン・フェリーなど、多くの歌手が歌っている。
ジャズやポップスの世界におけるスタンダード・ナンバーとしてすっかり定着しているこの「センド・イン・ザ・クラウンズ」、もともとは今回上演される「リトル・ナイト・ミュージック」の劇中歌である。
ドラマのなかでどう歌われるのかで、大人のラブソングとして知られるこの歌の本当の意味が何なのかを、今回の舞台で実感とともに知ることができるに違いない。
大竹しのぶ、風間杜夫の豪華キャストの言葉の力と優れたパフォーマンスに期待!
ところで、日本におけるミュージカルの上演は、日本語による訳詞がほとんどである。原語字幕付き上演が通常となっているオペラとはここが大きく違う。
音楽と一体となった原語の響きや発声法よりも、俳優が母語である日本語で歌う強み、観客の即時的な反応こそが優先される。どちらにもそれぞれの良さがある。
ミュージカルがオペラよりも、活気のある大衆的エンターテインメントとして、ロングラン公演を打ちやすいのは、他ジャンルで活躍している強力な俳優をキャスティングすることができるからだ。
今回も、大竹しのぶ、風間杜夫を中心とした豪華キャストが組まれている。
こういうとき、私が興味を持つのは、優れた俳優は、言葉の力によって、いかに優れた歌をうたうことができるか、という点にある。
言葉と音楽との関係を知る上でも、現代のアメリカのミュージカル界のレジェンドによる最高傑作に触れる上でも、今回の「リトル・ナイト・ミュージック」は見逃せない。
なお、演出を担当するマリア・フリードマンは、ソンドハイム作のミュージカルを中心に実績ある女優・歌手であるだけに、おそらく本場ブロードウェイの雰囲気ある舞台が楽しめるのではないだろうか。
ブロードウェイの最高峰・トニー賞に輝いた
ソンドハイム最高傑作ミュージカルが公演!
<STORY>
20世紀初頭のスウェーデン。18歳のアン(蓮佛美沙子)と再婚した中年の弁護士フレデリック(風間杜夫)はなかなか妻に手が出せず、結婚して11ヶ月経った今もアンは処女。フレデリックと前妻の息子、ヘンリック(ウエンツ瑛士)も密かに義母アンに恋心を抱いていた。
ある日、芝居を観に行くことになったフレデリックとアン。主演女優のデジレ・アームフェルト(大竹しのぶ)は実はフレデリックの昔の恋人なのだが、何も知らないアンは無邪気に喜ぶ……。
●4月8日(日)~30日(月・祝)/日生劇場
●主催・企画制作 東宝 ホリプロ
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