読みもの
2021.09.17
【9月23日(木・祝)全国公開】坂本龍一の美しい音楽とキャサリン・ジェンキンスの歌声が彩る

ジョニー・デップが敬愛する写真家の不屈の精神を描く映画『MINAMATA―ミナマタ—』

1950年代、熊本県水俣市で起こって以来、今も収束をみていない4大公害病のひとつ「水俣病」。この悲劇をフィルムで世界に伝えた報道写真家、ユージン・スミスを描いた映画が公開されます。プロデュース・主演を務めたのは名優ジョニー・デップ。坂本龍一やキャサリン・ジェンキンスが参加した音楽も印象的なこの作品、ジョニー・デップが伝えたかったこととは......?

NAOMI YUMIYAMA
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE Japon(エル・ジャポン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...

© Larry Horricks

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ジョニー・デップが水俣病を題材にした映画をプロデュース・主演

“ジョニー・デップが新作映画で水俣をとりあげるらしい”

そんな噂を耳にしたのは数年前のことだった。なぜジョニーが水俣を? そう思った人は多かったはず。その理由はしばらくして判明する。ジョニーは、敬愛する写真家ユージン・スミスが水俣で撮った写真集に感銘を受け、自らプロデュース・主演して1本の映画を製作したのだ。

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映画『MINAMATA~ミナマタ~』

1971年、アメリカきっての報道写真家として知られたユージン・スミス(ジョニー・デップ)は、戦場でのトラウマからアルコール依存に陥り、荒れた生活を送っていた。そんなある日、CM撮影の依頼にきたアイリーン(美波)から、日本の4大公害病のひとつ“水俣病”の取材を頼まれる。現地の写真に衝撃を受けたユージンは、最後の仕事としてアイリーンと共に水俣に滞在。工場が海に流した水銀の被害者を次々にカメラに収めていく。

水俣病を世界に伝えた報道写真家・ユージン・スミス

映画『MINAMATA―ミナマター』は、今も被害者の訴訟が続く“水俣病”を、伝説的な報道写真家・ユージン・スミスの奮闘を通して描く、感動の人間ドラマだ。映画の中で、ジョニーが演じるユージン・スミスは、病に苦しむ人々の真実を世界に伝えようと、どんな場所でも危険をかえりみずにシャッターを切る。

「写真は撮る者の魂の一部を奪う。だから覚悟をもって撮れ」。ユージンは彼の生活を支え、一緒に写真を撮り始めたアイリーンにそう語る。

そう、この作品は稀代の報道写真家の哲学を垣間見せてくれる。やがて被害者と対立する企業との壮絶な闘いを乗り越えた彼は、ただ一つの武器である写真で、この地の悲劇を世界に伝えることに成功する。

ユージンの妻を演じた美波とジョニー・デップ
© Larry Horricks

映画『MINAMATA—ミナマタ—』のハイライトは、ユージンが撮影したピエタ像(ミケランジェロ作のキリストを抱く聖母マリア像)のような母娘の写真を世界が目撃するところにある。

過酷な現実をアートに変えたユージンの作品は、後日、アイリーンの作品とともに写真集として出版され、今もなお人々に真実を伝えている。

ナイーブで人間味溢れる役を演じ、成熟した演技を見せたジョニー・デップ

主役のユージンを演じるジョニー・デップ(58歳)は、『パイレーツ・オブ・カリビアン』でアカデミー賞を受賞したハリウッド・スターだ。ジョニーの役者としての魅力は、これまで「風変わりだが愛すべきアウトサイダー」を演じたときに発揮された。その真骨頂は、なんといってもティム・バートンと組んだ『シザーハンズ』や『エド・ウッド』のような作品にあるだろう。

発明家によって、両手がハサミのまま残された心優しいアンドロイドを演じ、ジョニー・デップの出世作となった『シザーハンズ』(1990)

日本という異国の地で奮闘する外国人を演じる本作は、そんなジョニーの本来の魅力を蘇らせた作品だ。自分と同じネイティブ・アメリカンの祖先をもつユージンを心から敬愛し、「この悲劇を伝えたい」という彼の想いがスクリーン越しに伝わってくる。

一見、破天荒な男だが、実はナイーブで人間味溢れるユージンに、俳優として成熟したジョニーの素顔が重なるのだ。

坂本龍一、キャサリン・ジェンキンスの音楽と脇を固める名優たち

実際に起こった悲劇にリアリティを与えるのは、日本人の役者たち。ユージンの妻アイリーン役の美波をはじめ、真田広之、國村準、加瀬亮や浅野忠信など、国際的に活躍する俳優たちの熱気にひきこまれる。ユージンの復活を願う『LIFE』誌の編集長役で登場するビル・ナイは、盟友ジョニーと息のあった演技で観客を魅了する。

真田広之
© Larry Horricks
國村準
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浅野忠信
© Larry Horricks
ビル・ナイ
© Larry Horricks

音楽を手掛けたのは、『ラストエンペラー』でアカデミー賞を受賞した坂本龍一。水俣の人々に深く寄り添い、心に染み入るような旋律は、「この悲劇は決して過去のものではない」と語る名匠の祈りを感じさせる(サウンドトラックは9月22日(水)にCD盤とデジタル配信でリリース開始)。

世界的に有名なソプラノ歌手、キャサリン・ジェンキンスも『LIFE』誌の編集者役で出演。平和への願いをこめた「One single voice」で美しい歌声を響かせる。

キャサリン・ジェンキンス「One single voice」

左から劇中歌を担当したキャサリン・ジェンキンス、『Life』誌編集長役を熱演したビル・ナイ、ジョニー・デップ。
© Larry Horricks

1978年、ユージン・スミスは、アリゾナで亡くなった。原因は水俣での紛争に巻き込まれたときの怪我で、まだ59歳だった。

人間を愛し、不屈の信念をもったひとりのアーティストが、犠牲を払ってでも伝えたかったものとは何か。映画『MINAMATA―ミナマタ—』は、その答えを知るきっかけをくれるはずだ。

公開情報
『MINAMATA―ミナマタ—』

 

9月23日(木・祝)TOHOシネマズ 日比谷他全国公開

製作: ジョニー・デップ

監督: アンドリュー・レヴィタス 脚本:デヴィッド・ケスラー

原案: 写真集『MINAMATA』W.ユージン・スミス、アイリーンM.スミス(著)

 

出演:ジョニー・デップ、真田広之、國村隼、美波、加瀬亮、浅野忠信、岩瀬晶子、

and  ビル・ナイ

 

音楽: 坂本龍一

 

提供: ニューセレクト株式会社、カルチュア・パブリッシャーズ、ロングライド 

配給:ロングライド、アルバトロス・フィルム

2020年/アメリカ/英語・日本語/115分/1.85ビスタ/カラー/5.1ch/

原題:MINAMATA/日本語字幕:髙内朝子

 

© 2020 MINAMATA FILM, LLC   

© Larry Horricks

NAOMI YUMIYAMA
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE Japon(エル・ジャポン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...

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