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2018.07.06
日本上陸! 《エビータ》オリジナル演出版 7/29(日)まで上演

聖女か、悪女か? 実在したアルゼンチン大統領夫人の生涯を描く歴史ミュージカル《エビータ》

実在のアルゼンチン大統領夫人の生涯を描くミュージカル《エビータ》。アンドリュー・ロイド=ウェーバー作曲、ティム・ライス作詞の本作が、東急シアターオーブで上演されている。“リアルでありながらオペラ的”な存在、エヴァ・ペロン(エビータ)を演じるのは、卓越した歌唱力をもつエマ・キングストン。彼女と、音楽監督、ルイ・ザーナーマーの言葉に触れながら、ミュージカルの魅力をお伝えする。

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小田島久恵
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小田島久恵 音楽ライター

岩手県出身。地元の大学で美術を学び、23歳で上京。雑誌『ロッキング・オン』で2年間編集をつとめたあとフリーに。ロック、ポップス、演劇、映画、ミュージカル、ダンス、バレ...

© 2017 DIP. 2017 Evita International Tour Company photographs by Pat Bromilow-Downing and Christiaan Kotze.

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1978年初演時のオリジナル演出版

アンドリュー・ロイド=ウェバー作曲、ティム・ライス作詞の歴史ミュージカル《エビータ》のオリジナル演出版(ハロルド・プリンス演出)が日本上陸を果たす。
1979年に初演され、翌年のトニー賞で7部門を受賞した本作は、日本ではマドンナとアントニオ・バンデラスが主演した1996年の映画版が有名だが、オリジナルのミュージカル版は、舞台ならではのライブなマジックが幾度も巻き起こる。音楽の圧倒的な力と、映像をふんだんに使ったジャーナリスティックな演出で、観る者に大きな衝撃を与えてくるのだ。ミュージカルがエンターテイメントにとどまらない、哲学的な価値をもつ表現に昇華されているという点で、恐ろしくユニークな作品である。

貧しい境遇に生まれながら、モデルや女優として活動し、アルゼンチン大統領夫人にまで上り詰めた歴史上の人物エヴァ・ペロン。手段を択ばない野心家で、とことん女であることを武器にのし上がったエヴァは、最後はファーストレディでは飽き足らずに副大統領の地位を求めつつ、子宮頸癌で33歳の生涯を閉じる。貧しい人々を救う基金を設立し、労働者階級から圧倒的な支持を得たが、集めた資金を私財に使うなどの悪事にも手を染めた。アルゼンチンのシンボルともなった彼女は聖女だったのか、悪女だったのか……。

エマ・キングストン演じるエヴァ・ペロン(エビータ)
© Emma Kingston as Eva - Evita International Tour - Photograph by Pat Bromilow-
Downing.
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娘時代から女優、ファーストレディを経て亡くなるまでを歌い上げるエマ・キングストン

このオリジナル演出版のシンガポールでのツアー・パフォーマンスを、日本上陸の前に観た。
主役のエビータを演じたエマ・キングストンは圧倒的な歌唱力の持ち主で、娘時代から女優、ファーストレディを経て亡くなるまでのエビータの様々なキャラクターの歌を完璧に歌い切った。
このプロダクションをクラシック・ファンに勧めたい理由のひとつが、エマの歌唱力の凄さだ。ジャンルを超えて、すべての歌手の中でも卓越したレベルにある。一体どのように作り上げていった芸術性なのか、まったく想像がつかなかったが……とにかくこの歌手は真剣な努力家なのだ。

「歌のレッスンを始めたのは11歳のときです。クラシックのスタイルでずっと声楽を学んできて、プロを目指して18歳で演劇の大学に入りました。そこでは1日12時間、歌の勉強をしていたんです。その積み重ねが今につながっていると思うし、クラシックの基盤は舞台でのスタミナを作るためにも重要なものなんです。でも、ミュージカルは最終的にエモーションを伝えるものですから、感情をリードさせていかなければお客さんには理解してもらえない。そこでリアリズムというものを取り入れて、綺麗なだけの歌にはしないようにしています」(エマ・キングストン)

キャスティング・スタッフは最初30代後半から40代前半のベテランを探していたが、南アフリカでのオーディションではクオリティを満たす歌手が見つからず、ロンドンで新人のエマが発掘された。彼女は20代半ばで、それまでのキャリアを積んでいたとはいえ、かなり若いが、アンドリュー・ロイド=ウェーバーもティム・ライスも太鼓判を押して彼女を主役に抜擢したという。

「エヴァの役はずっと歌いたかった……というのも、私の母親はアルゼンチン人で、エヴァのことは子どものころからよく聞かされて育ったんです。ミュージカルの役どころとしても、大きな魅力がありました」(エマ)

最後に病魔に襲われたエビータが亡くなるシーンでは、死因となった子宮頸がんの患者にインタビューをして役作りをした。

「私は一度も癌にかかったことがなかったので、どういう痛みなのかを知る必要があったし、自分の役の中でどう痛みを感じ、表現するかを創り上げていくプロセスが欠かせなかった。大げさに痛がったり苦しがったりするだけの役にはしたくなかったんです」(エマ)

エビータについての膨大な資料も読み、ありとあらゆる知識やエピソードを学んでいたエマ。歌唱は、オペラでいえばロッシーニの難しいアジリタ(速いパッセージのこと)に似た節回しもあれば、ベルクの「ルル」を想起させる調性の歌もある。ストイックな歌手でなければこなせない役を、彼女は完全に征服していた。

左:エマ・キングストン
アルゼンチンの大統領フアン・ペロンの妻、エヴァ・ペロンを演じる

右:ラミン・カリムルー
チェ・ゲバラをモデルにしたキャラクター、チェを演じる
ロバート・フィンレイソン
アルゼンチンの大統領、ホワン・ペロン役を演じる
アントン・レイティン
タンゴ歌手・マガルディを演じる

音楽監督、ルイ・ザーナーマーが見る《エビータ》――ロック・オペラの最高峰であり、前衛オペラの要素もある

「《エビータ》は“ロック・オペラ”なのです。ロック・オペラとはロイド=ウェバーが確立したジャンルで、音楽によってのみ物語が展開していくミュージカルのこと。演劇のようなセリフがありません。ロック・オペラの最高峰のひとつが《エビータ》なのです」

こう語るのは、音楽監督でミュージカルの指揮者をつとめるルイ・ザーナーマー。彼も南アフリカのケープタウンではピアノを学び、オペラ指揮者を目指していたというクラシック畑の人間だ。

「シューベルト、シューマン、ブラームス……それが私の青春時代でした。若いころからピアニストとして活動していましたし、将来はオペラの指揮をしたいと思っていたのです。奨学金を返すために4年間教員をやったり、ピアニストとして活動していましたが、当時暮らしていたロンドンで身体を壊してしまい、医者に南アフリカに帰って太陽の光を浴びるように言われたのです。そんなときにミュージカルの仕事と出会って、今の自分があるんです」(ルイ・ザーナーマー)

 ルイ・ザーナーマーは陽気で優しい人柄の人物で、ある種の稀有の素直さがある。クラシックを学んでいた彼がミュージカルの世界に来たことで、《エビータ》は豊かな音楽として観客の前に差し出されることになった。指揮をする側から音楽の魅力を語ってもらうと……。

「20世紀になってから作られた前衛オペラのような要素があります。スコア自体に、オペラ的なクオリティを要求している部分があり、このプロダクションではオペラ歌手のバックグラウンドをもつ歌手たちも参加しています。非常にラッキーなことです。楽器編成もユニークで、クラシカルなトランペットやトロンボーンの隣で、ロック・ギターが演奏をしているんですよ。ロックだけでなく、ジャズやラテンもミックスされていて、打楽器セクションはとてもバラエティに富んでいます。リズムの取り方もとても前衛的ですね」(ルイ)

そんな中でハイライトの《アルゼンチンよ、泣かないで》の美しいメロディが流れると、よりミュージカルの魅力が際立つ。

「あの美しい曲は、食後のミントのような感じですね(笑)。人々がこのミュージカルに魅力を感じるのは、エヴァという人物が結果的に聖女だったのか悪女だったのか、最後までよくわからないからでしょう……実際、どちらともとれる描き方をしていると思います。ロイド=ウェバー作品がすごいのは、まさにそういう主人公の“弱み”を魅力に変えているところなんですよ」(ルイ)

エマ・キングストンと、2017年エビータ・インターナショナル・ツアー・カンパニー
© Emma Kingston & 2017 Evita International Tour Company - Photograph by Christiaan Kotze.

エビータの33歳の人生を貫いていたのは、恐らく本人にもわけがわからなかった激しい衝動で、彼女はひたすら地位を求め、自己の存在を世に訴え、最後は政治を動かそうとして息絶えた。身体中を電気が駆け抜けて、憑りつかれたように凝縮された時間を生きたのだ。そうした稀有の人物の物語は、奇妙な魅力にあふれている。《マノン・レスコー》や《椿姫》のように、エビータという女性もまたリアルでありながらオペラ的な存在だったのだ。
オリジナル版では実際のエヴァ・ペロンの姿もふんだんな映像で見ることができ、巨大なカリスマ性をもっていた女性の特異な存在感を目撃できる。作曲家自身が手放しで絶賛したというエマ・キングストンの奇跡の歌唱をぜひ聴いてほしい。

ミュージカル エビータ
イベント情報
ミュージカル エビータ

公演日時: 2018/7/4(水)~7/29(日)
会場: 東急シアターオーブ

 

強く逞しい女性の象徴としてエビータの愛称で慕われた実在の女性、エヴァ・ペロン。恵まれない境遇に生まれながらもモデルや女優を経て、アルゼンチン大統領夫人にまで昇り詰めた彼女の33年にわたる短くも劇的な生涯を描いたミュージカルが、1978年初演時のオリジナル演出版として遂に初来日を果たす。

アンドリュー・ロイド=ウェバー作曲、ティム・ライス作詞、ハロルド・プリンス演出という、ミュージカル界の巨匠トリオによって誕生したミュージカル『エビータ』は、1980年のトニー賞で最優秀作品賞を含む7部門を受賞。1996年にはマドンナ主演で映画化され、世界中で大ヒットを記録した。

また、記念すべき初来日に華を添えるべく、国際的に活躍する実力派ミュージカル俳優のラミン・カリムルーが出演決定!物語の案内役であるチェ役として、日本公演限定で特別出演を果たすことで話題を集めている。
 この夏、注目度№1のミュージカル『エビータ』。奇跡の来日公演をお見逃しなく!

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小田島久恵
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小田島久恵 音楽ライター

岩手県出身。地元の大学で美術を学び、23歳で上京。雑誌『ロッキング・オン』で2年間編集をつとめたあとフリーに。ロック、ポップス、演劇、映画、ミュージカル、ダンス、バレ...

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