イベント
2018.07.30
高橋彩子の「耳から“観る”舞台」第4回

音楽とは切っても切り離せないダンスの祭典を楽しもう Dance Dance Dance@Yokohama 2018

音楽を奏でれば踊り出し、踊れば音楽が生まれるーー。
そんな切り離せない2つの芸術の関係をたっぷり味わえる催し「Dance Dance Dance@Yokohama 2018」が8月開幕します。横浜が踊りと音楽に染まる2か月間。見どころを高橋彩子さんが紹介してくれました。

高橋彩子
高橋彩子 舞踊・演劇ライター

早稲田大学大学院文学研究科(演劇学 舞踊)修士課程修了。現代劇、伝統芸能、バレエ、ダンス、ミュージカル、オペラなどを中心に執筆。『The Japan Times』『E...

photo:Kiyonori Hasegawa

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古来、切っても切り離せない存在だった音楽と舞踊。ほとんどの神事ではこの両方が重要な役割を担ってきたし、ギリシャ神話のテレプシコーラ、エジプト神話のハトホルやバステト、ヒンドゥー教のサラスヴァティ、アステカ神話のマクイルショチトルやウェウェコヨトル、天台宗の摩多羅神など、その属性に音楽・舞踊両方の要素を含む神も少なくない。

また、どちらも時間芸術であり、形が残らないという特性ももつ。特に舞踊にとって、音楽は今も極めて大きな存在だ。今回は、3年に一度開かれる、日本最大級のダンスフェスティバル「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA」の上演演目を、音楽との関わりから見ていこう。

東京バレエ団「横浜ベイサイドバレエ」

8月4日から9月30日まで、さまざまな公演を上演するDance Dance Dance @ YOKOHAMA。その開幕を飾るのが、東京バレエ団の「横浜ベイサイドバレエ」だ。

横浜港近くの象の鼻パークに設えられた野外ステージで、フェリックス・ブラスカ振付『タムタム』、マリウス・プティパ/アレクサンドル・ゴールスキーに基づくウラジーミル・ワシーリエフ振付『ドン・キホーテ』第3幕より、モーリス・ベジャール振付『ボレロ』の3演目が上演される。

『ドン・キホーテ』は、17世紀のスペインの作家セルバンテスの長編小説からエピソードを抜き出してバレエ化したもの。主役はドン・キホーテではなく、彼が出会う宿屋の娘キトリとその恋人で床屋のバジルになっている。音楽は、レオン・ミンクスがこのバレエのために作った曲。音楽と蜜月関係にあった古典バレエの楽しさは格別だ。今回上演されるのは、キトリの父親に交際を反対されていた二人がめでたく結ばれる結婚式の場面。一点の曇りもない華やかで幸せな情景が、踊りと音楽とで表現される。

また、『タムタム』は、トムトムをはじめさまざまな打楽器の生演奏で踊られる作品。打楽器の音とダンサーの身体が共鳴していくさまは、躍動感いっぱい。観ていて心弾む作品だ。

そして『ボレロ』。言わずとしれたモーリス・ラヴェルのバレエ曲で、多くの振付家によって作品化されているが、もっとも有名なのはこのベジャール版だろう。赤い円卓の上にいる“メロディ”役とその周囲を取り囲む“リズム”役たちの踊りが、音楽と一緒に高まっていくさまは圧倒的。

横浜ベイサイドバレエ 上野水香主演『ドンキホーテ』
photo:Kiyonori Hasegawa
横浜ベイサイドバレエ 上野水香 主演『ボレロ』
photo:Kiyonori Hasegawa】
横浜ベイサイドバレエ『タムタム』
photo:Kiyonori Hasegawa

ロレーヌ国立バレエ団「トリプルビル」

さて、同じバレエでも、より前衛的・実験的に、音楽と関わった振付家たちもいる。ジョン・ケージとの共同作業も多く、偶然性を取り入れたケージの「チャンス・オペレーション」も自作に用いたマース・カニングハムはその筆頭だ。

Dance Dance Dance @ YOKOHAMAの一環として来日公演を行なうロレーヌ国立バレエ団の「トリプルビル」では、そんなカニングハム振付『SOUNDDANCE』を上演。この作品は、電子音楽のパイオニアと言われ、ケージの《4分33秒》の初演者としても知られる現代作曲家デイヴィッド・チューダー(テュードア)の書き下ろし曲に振り付けたもの。チューダーはマース・カニングハム舞踊団に設立当初から参加し、ケージからその音楽監督の任を引き継いだ人物だ。『SOUNDDANCE』では、エレクトリックながらどこか自然界を想わせるサウンドとともに、ダンサー達が複雑な動きを繰り広げる。

他に、バッハ作曲《シャコンヌ》に乗せてダンサー達が空間を切り裂くように踊るウィリアム・フォーサイス振付『ステップテクスト』や、フィリップ・グラス作曲《アナザー・ルック・アット・ハーモニー パート4》でユニークな動きを展開するフランソワ・シェニョー&セシリア・ベンゴレア振付『DEVOTED』を上演。

『SOUNDDANCE』
©Laurent Philippe
『ステップテクスト』
©Arno Paul
『DEVOTED』
©Arno Paul

森山未來×ヨン・フィリップ・ファウストロム×及川潤耶『SONAR』

ダンサーで俳優の森山未來とノルウェー人ダンサーのヨン・フィリップ・ファウストロムが、作曲家・音響空間作家の及川潤耶とコラボレーションで送る新作『SONAR』も、音が重要な鍵となりそうな作品だ。

日本とノルウェーに共通する捕鯨文化からイメージを膨らませ、鯨同士が交信に使う超音波や、その鯨を惑わせて大量座礁や大量死を招くこともある船のソナーなど、音・振動をテーマにクリエーションするという。幾つものイメージが重なっていく刺激的なパフォーマンスになりそうだ。

『SONAR』主演の森山未來
©Takeshi Miyamoto

DAZZLE『ピノキオの嘘』

また、ストリート・ダンスやジャズ・ダンスをベースに、耽美的で物語性豊かな世界を見せる、長谷川達也主宰のDAZZLE『ピノキオの嘘』にも、ぜひ注目したい。

アンドロイドが人間らしさとは何かを追い求めて旅をする物語で、ダンサーが人形を文楽のような三人遣いで操作したり、ミュージカル『CHICAGO』でお馴染みのフォッシースタイル風なショータイムがあったり、ミニチュアの飛行機を用いたチャーミングなシーンがあったりと、創意工夫に富む作品だ。

メインテーマ制作と全体の音楽プロデュースを手がけたのは、これまでにもDAZZLE作品を手がけている作曲家の林ゆうき。元新体操選手という異色の肩書をもつ彼の音楽センスとDAZZLEのスタイリッシュなダンスが、観客を異世界へ誘う。

ピノキオの嘘
©Takahiro Iino

アクラム・カーン・カンパニー『チョット・デッシュ』

小品だが、アクラム・カーンカンパニー『Chotto Deshチョット・デッシュ』も見逃せない。本作は、バングラデシュ系イギリス人振付家アクラム・カーンが自身のルーツを辿っていくソロ『DESHーデッシュ』を、大人も子どもも楽しめるよう改作したもの。

ティム・イップの美術・映像、ジョスリン・プークの音楽とともに、ユーモアや痛みや悲しみの入り交じるノスタルジックなファンタジーが紡がれていく。出演はカーンではなくカンパニーのダンサー。

 

©Jean Louis Fernandez
©Jean Louis Fernandez
©Richard Haughton

このほかにも、魅力あるダンスが目白押しなDance Dance Dance @ YOKOHAMA。舞踊と音楽の連携の形は、作品の数だけある。その可能性はいまだ開拓され尽くしていないのだ。

躍動する横浜を観に行こう
Dance Dance Dance@Yokohama 2018

舞台は“横浜の街”そのもの! 3年に1度のダンスの祭典「Dance Dance Dance @ YOKOHAMA」が2018年8月4日から9月30日まで開催! 躍動する横浜を観に行こう。

 

東京バレエ団『横浜ベイサイドバレエ』

2018年8月4日(土)・5日(日)
場所:神奈川県 象の鼻パーク 特設ステージ
出演:東京バレエ団

 

アクラム・カーン・カンパニー『チョット・デッシュ』

2018年8月22日(水)~25日(土)
場所:神奈川県 横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール
振付:アクラム・カーン
出演:デニス・アラマノス、ニコラス・リッチーニ

 

DAZZLE『ピノキオの嘘』

2018年9月8日(土)・9日(日)
場所:神奈川県 横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール
振付:DAZZLE
出演:DAZZLE、公募ダンサー

 

ロレーヌ国立バレエ団『トリプルビル』

2018年9月16日(日)・17日(月・祝)
場所:神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 ホール
出演:バレエ・ロレーヌ

 

『SONAR』

2018年9月25日(火)~29日(土)
場所:神奈川県 横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール
振付・出演:森山未來、ヨン・フィリップ・ファウストロム
音楽・出演:及川潤耶

 

高橋彩子
高橋彩子 舞踊・演劇ライター

早稲田大学大学院文学研究科(演劇学 舞踊)修士課程修了。現代劇、伝統芸能、バレエ、ダンス、ミュージカル、オペラなどを中心に執筆。『The Japan Times』『E...

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