インタビュー
2020.03.22
横浜を中心に活動中!

N響メンバーによるNPO「ハマのJACK」、子どもも大人も楽しめるオペラ《カルメン》を制作

8月9日に横浜みなとみらい大ホールで行われるオペラ《カルメン》。ビゼーの代表作を、子どもにもわかりやすく、だけど本質を失わずにまとめた抜粋版は、この夏のファミリー向け企画として注目されています。制作は、「NPO法人ハマのJACK」。代表理事を務め、NHK交響楽団のヴァイオリニストでもある三又治彦さんに、《カルメン》への意気込みや、N響の活動の傍ら運営している「ハマのJACK」への想いを伺いました。

取材・文
山﨑隆一
取材・文
山﨑隆一 ライター

編集プロダクションで機関誌・広報誌等の企画・編集・ライティングを経てフリーに。 四十の手習いでギターを始め、5 年が経過。七十でのデビュー(?)を目指し猛特訓中。年に...

メインビジュアル:木村敬一

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ワークショップも楽しい《カルメン》と、同日上演のオペラ版『大きなかぶ』

三又 ファミリー向けのオペラは、3年前に《魔笛》を35分ほどにまとめたオリジナル抜粋版を上演し、ご好評をいただいて、昨年は再演を行ないました。歌は原語でやるかわりに、ナレーションをつけることによって、作品の本質を失わず、かつ子どもたちにとってもわかりやすくしています。《魔笛》は小ホールでの上演だったのですが、8月の《カルメン》は大ホール。約1時間ほどに構成して、キャストも各劇場で主役級を演じている期待の若手たちを集めました。オケはN響のメンバーを中心に構成されていますので、大人も満足できる本格的な演奏が楽しめますよ。

「NPO法人ハマのJACK」の代表を務める三又治彦さん(NHK交響楽団ヴァイオリニスト)

「NPO法人ハマのJACK」の代表を務める三又治彦さんは、NHK交響楽団に所属するヴァイオリニスト。2008年にハマのJACKを設立し、横浜地区を中心に地域密着型のコンサートや未来の音楽家支援事業「金の卵」シリーズ、そして夏休みには横浜みなとみらいホールでファミリー向けの企画を制作している。みなとみらいでは、オペラ公演に付随したワークショップやイベントも「楽しい!」と評判だ。

三又 作品をより楽しむために、《魔笛》では、衣裳や森の動物たちを子どもたちと一緒に作ったり、パンフルート作りもしました。今年は、《カルメン》にちなんで、スペインを感じていただけるようなイベントを企画中です。リハーサル見学をはじめ、フラメンコ教室や〈闘牛士の歌〉のレッスンなどを行うほか、シェリー酒と生ハム、オレンジジュースとチョコレートといったスペインの特産を親子で楽しんでいただけますよ。この日、みなとみらいホールにいらした方は、とても濃い時間を過ごしていただけるはずです。

《魔笛》公演の様子 ©AYANO(Costume)
パンフルートを工作している様子

また、《カルメン》の前に上演する絵本『おおきなかぶ』のオペラ版も大きな目玉だ。

三又 ここではヴァイオリン属の楽器の音色をいろいろ楽しめますよ。例えばおじいさんのテーマはコントラバス、おばあちゃんはチェロ、孫がヴィオラ……と続き、最後のねずみは1/10のヴァイオリン、といった感じに。小さい楽器を演奏するのは『金の卵』のオーディションを通過した子たち。子どもたちにとっては、自分に近い年齢の演奏家を目の当たりにするわけで、大人が演奏するよりも興味を持っていただけるはず。ぜひこちらにも足を運んでいただけたらうれしいです。

絵本コンサート(絵本投影+朗読+弦楽合奏)の様子。2020年の公演では、オペラ版(歌+合奏+大道具による舞台演出/投影なし)が上演される予定

N響メンバーが演奏することで保たれる圧倒的なクオリティ

ハマのJACKの歴史は、三又さんがNHK交響楽団に入団し、横浜に住み始めた2006年にまでさかのぼる。

三又 横浜の開港記念会館でコンサートシリーズを行なっていたNPOがありまして、僕も演奏の依頼を受けたんです。それで2回ほど出演したところで、そのNPOの代表者がご不幸に遭われて……。当時すでに60回以上もコンサートを開催していたのですが、それもやめてしまわれると聞いて、だったら僕が引き継ごう、やってみようと決心したのがそもそもの始まりです。

国の重要文化財にも指定されている開港記念会館。その時計塔は「ジャック」の愛称で親しまれている。つまり「ハマのJACK」という名称は、三又さんの活動の原点を象徴するものなのだ。

三又 その後、みなとみらいホールと協業するのにあたってNPO法人として設立しました。夏休みに『みなとみらい遊音地』と称してさまざまなワークショップを企画していて、オペラの上演もその一環です。また、同時に18歳以下の音楽家を発掘するオーディション『金の卵』シリーズも始めました。みなとみらいは今年のオリンピック・パラリンピック閉幕後に改修工事に入ってしまうのですが、『金の卵』はフィリアホールで来年以降も継続してやっていけることになっています。

『金の卵』春公演の様子 写真:木村敬一

どの企画も、三又さんをはじめN響のメンバーが演奏に参加することで高いクオリティを保っているのが大きな特徴。特に『金の卵』シリーズは、オーケストラの弦楽五重奏アレンジとともにコンツェルトを演奏できるという、とても贅沢なもの。そこにも三又さんの経験が反映されている。

三又 僕は宮城県の出身で、ヴァイオリンをやっていたけれど観客の前で演奏する機会なんてほとんどなかった。そして、もしどこかのコンクールで入賞したとして、その後1年間ぐらいはコンクールに付随する演奏会に出演できるけれど、それだけで終わってしまいますよね。『金の卵』では、入賞者はずっと演奏会に出ていただきます。そういう気持ちで、コンサートがある度に、過去の入賞者全員に声をかける。そうしてN響メンバーと共演してもらって、すでにN響に入団した子もいるし、日本音楽コンクールをはじめ、コンクールの上位入賞者も多く輩出しています。彼らのこれからの活躍が本当に楽しみですね。

ウィーン留学で体験したことが《魔笛》そして《カルメン》につながった

さて、話はオペラに戻るのだが、この企画には三又さんがヨーロッパ留学で体験したことが大きな影響を与えているのだという。

三又 2015年に、1年間ウィーンに行かせていただいたんです。家族で現地に住んで、その間にウィーンはもちろん、ザルツブルクやバイロイト、ベルリンなど、さまざまな街の劇場で娘と一緒に子ども向けプログラムに参加しました。それまで企画することはあれど、参加者の立場になることはなかったんですよね。

ウィーンでは、楽友協会とコンツェルトハウスに行きましたが、楽友協会には子どものプログラムを作るプロが常駐して年間の計画を立てていて、コンツェルトハウスには、例えばヨーロッパ中をツアーして回るようなプロのワークショップ集団を招聘するなど、それぞれに特色がありましたね。

ザルツブルクではオペラの、確か《セビリヤの理髪師》だったと思いますが、ワンシーンを子どもたちと一緒に作った後、改めて観劇しました。うちの娘も、最初はドイツ語ができないから大丈夫かな、と思って見ていたのですが、やっているうちに現地の子どもたちとも話せるようになって。音楽はコミュニケーションなんだな、と改めて思いましたね。

この1年間で得たものを、日本の土壌に合わせて形にしたのが《魔笛》であり、今回の《カルメン》である。

三又 ウィーンではオペラハウスにも通いました。子どもがいると安くチケットも手にはいりますので。子どもはオペラやバレエのように、音楽だけでなく歌や動きのあるものに食いつきますよね。『サロメ』みたいにちょっと怖いものでも惹き込まれるように観ている。そんな娘の様子を見ていいて、音楽を届けることを自分のライフワークにするのだとしたら、ヴァイオリンだけだと限界があるのだろうな、と感じました。

どんな企画であれ、「音」を届けるのがプロの演奏家としての使命

三又 僕、いろいろ企画を考えるのが好きなんですよ。まるで居酒屋で飲んでいるときにパッと思いつくようなことを企画としてまとめていくんです。

そう言って笑う三又さん。桐朋学園大学に在学中は、いまでも桐朋祭の名物として受け継がれている「超絶技巧選手権」を立ち上げた。そんな発想力は、ワークショップでもいかんなく発揮されている。

三又 みなとみらいホールでもいろいろやりました。お客様にいちばん喜ばれたのは大ホールのP席から会場の外の楽器までを糸電話でつないでアンサンブルを聴いてもらう企画でしょうか。

あと、実現はしなかったんですけど、お父さんのためにジャケット貸し出しコンサートなんて面白いな、と思いましたね。いくらクラシックのコンサートといったって、夏の暑いときに家からジャケット着てくるのは辛いじゃないですか。まぁ、サイズをどれだけ揃えればいいのか見当もつかなくて断念してしまい……誰かやりませんか(笑)。

ヴァイオリンを制作するワークショップ

どんな企画であれ、まず自分が楽しまないと突き詰めることもできない、という三又さん。ハマのJACKの運営もまた然り、ということだろうか。

三又 秋には作曲家を切り口にしたコンサートを行なっています。昨年はプロコフィエフをテーマにしました。彼は横浜に滞在したこともあって、演奏会もしています。そうしたことから日本で演奏した曲をはじめ、珍しいレパートリーで構成したのですが、集客的には苦戦してしまいました。今年はその反省を生かし、素直にベートーヴェンでいくのか、それとも記念イヤーなどお構いなしにヒンデミットみたいなマニアックなもので攻めるか(笑)。検討すべき課題ですね。

運営の資金源はチケットの売り上げが中心。今後は県の助成金等を得ることも検討課題だ。企画内容的には、たとえどんなものだろうと、最終的には「音」を届けることが三又さんの、プロの音楽家としての矜持である。

三又 近年は社会に対して音楽家は何ができるのか、みたいなことも語られていますけれど、音楽家だったらまずは『音』ありきですよね。作曲家が、人のため、世の中のために作った曲、そこに込められた気持ちを、音として聴き手に伝え、心を動かす。作曲家の『音』を伝えていくのが演奏家の仕事だと思いますので、そこは見失わないようにやっていきたいですね。そのうえで、聴いてくださった方、僕たちの活動に参加してくださった方が、クラシック音楽を人生の中での選択肢のひとつとして認識してくださったら、これほどうれしいことはありません。

公演情報
ハマのJACKオペラシリーズ第3弾 オペラ「カルメン」

日時 2020年8月9日
会場 横浜みなとみらい大ホール

チケット S席 大人4,000円 子ども2,000円/A席 大人3,500円 子ども1,500円/B席 大人2,500円 子ども1,000円

ご予約
ハマのJACK事務所 045-567-2353(10時~18時)

hamajack@msn.com
または予約フォームから

金の卵を見つけました!

日時 2020年6月14日(日)
会場 横浜みなとみらいホール小ホール

出演予定
金の卵達によるアンサンブル
・Duo Chatty
Vl 前田妃奈 Pf 馬場彩乃
・ジェンティーレトリオ
Vl 橘和美優 Vc 泉優志  Pf 黒澤優芽

 
オーケストラ伴奏による名曲
Vc 平井祐心
Vl 関朋岳
Vl 東亮汰

第10回『金の卵を探しています』オーディション合格者3名

開場13:30 開演14:00
※要チケット予約
 
チケットについて 詳細が決まり次第公表いたします

取材・文
山﨑隆一
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山﨑隆一 ライター

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