
ピアニスト務川慧悟が語る ワインと音楽#2 ワインづくりから演奏をみる

ピアニストの務川慧悟さんが、ワインを知ることの奥深さ、そして音楽にも通じる点を3回にわたって語る連載。第2回は、「自然」と向き合うワインづくり、「芸術」と向き合う演奏を比較しながら、思索が紡ぎ出されていきます。
ワイン製造家と演奏家が向き合う 絶対的な存在
――クラシック音楽とワインには、「歴史」と「文化遺産」という共通点があります。そして、演奏家には偉大な作曲家の意志、楽譜を尊重するという使命が、一方ワイン製造家はその年の気候や自然環境、畑の位置など、人力の及ばない部分と折り合いながら、いかに品質良く美味なワインを製造するかという課題があり、双方の仕事に個人の思惑を超えた絶対的な存在がある点も共通しているように思います。演奏家の立場から務川さんはどのようにお考えですか?
務川慧悟(以下M) 確かに、ワインは人がコントロールできない条件の中で製造されていると言えますが、音楽の場合はどうでしょうか……。
僕は常々、演奏家とは本当の意味で芸術家といえるのだろうかと思っているのです。演奏は、創造芸術ではありません。自分がクリエーターでない以上、やはりもっとも大切なのは「作品が語るメッセージ」です。演奏において、僕の個人的な思いは、極端に言えば一切重要でない。自己表現、自己主張をしたいのだったら、自分で作品を創ればいいし、それがいちばん早いと思うのですね。
素晴らしい作品を前にして、僕は「どんな風に弾こうか」などと迷う余地を感じたことがありません。楽譜をよく見ていれば、どのように解釈してどのように演奏するべきか、自然にわかってくる。これこそが作品の持つ力ではないでしょうか。
もちろん、楽譜に向き合っている過程で、「この曲はこういうメッセージを発するべきだから、このように弾こう」という気持ちは出てきますし、聴衆の方々に自分の頭にある理想像が伝わるかどうかを、いつも考えています。実際に音にしていく過程での試行錯誤と工夫が、“個性”となって滲み出ることもあるのかもしれませんが、自分にその意識はありません。

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