レポート
2018.07.02
来日公演レポート

コリーヌ・ベイリー・レイの豊かな歌声を堪能

クラシック・ヴァイオリンを学び、教会で歌うことを経験し、歌手を夢見てきたコリーヌ・ベイリー・レイ。2018年6月の来日公演はピアノとギターのみという最小限のセットで行なわれたが、コリーヌの柔らかい歌声に、ジャンルを超えて虜になるファンも増加したことだろう。

森朋之
森朋之 音楽ライター

J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』など。

ⓒBrian K

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ソウル、ジャズをベースにしたオーガニックな音楽性、そして、しなやかなグルーヴと豊かな情感を併せ持った歌声によって、世界中の音楽リスナーを魅了し続けているコリーヌ・ベイリー・レイが、6月8日、9日、10日の3日間、ビルボードライブ東京で来日公演を開催した(6月6日はビルボード大阪で公演)。

筆者は彼女の来日公演をすべて見ていて(2007年の恵比寿ザ・ガーデンホール、2010年のフジロック、2011年の渋谷AX、2017年の赤坂BLITZ)、そのたびに彼女の音楽が変化し、深みを増していることを実感してきたが、今回も然り。ギタリストのジョン・マッカラム、キーボーディストのステェファン・ブラウンを含めた3人で繰り広げられたステージは、最小限の音数によるアンサンブルとともに名曲の数々を堪能できる、本当に素晴らしい内容となった。

ディープな紫色のワンピース姿で登場したコリーヌは、まず「クローサー」(2ndアルバム「あの日の海」収録)を披露。ソウルフルとしか言いようがない濃密で美しいボーカルが広がり、一瞬にして惹きつけられる。ギター、キーボードのみのアレンジも秀逸。リズムセクションがなくても、楽曲、ボーカルに内包されたグルーヴによって心地よい“ノリ”が感じられるのだ。

 

さらにコリーヌがアコギを持ち、1stアルバム「コリーヌ・ベイリー・レイ」から「ブレスレス」「ティル・イット・ハプンズ・トゥ・ユー」。すべてのフレーズ、すべての音を丁寧に紡ぎ出し、観客に手渡すようなステージングは、リラックスした雰囲気のなかにも凛とした緊張感と心地よい高揚感が存在している。

この日はコリーヌ自身の意向により、フードは開演の30分前、ドリンクは開演の15分前でオーダーストップ。これはもちろん「演奏に集中してほしい」ということだが、この素晴らしい音楽を体感していると「確かにドリンクを注文している場合じゃないな」と思う。

 

ライブ前半のハイライトは、最新アルバム「ザ・ハート・スピークス・イン・ウイズパーズ」に収録された「グリーン・アフロディジアック」。曲が進むにつれて徐々にテンションを上げ、コリーヌが観客にフィンガー・スナップとコーラスを要求すると、会場全体にナチュラルな一体感が生まれる。オフマイクで美しいフェイクを響かせる姿も印象的。そこにあるのは「この場所にいる人達と音楽を共有したい。音楽によって確かなつながりを実感したい」という彼女の真っ直ぐな思いだ。

 

2006年にデビューし、「プット・ユア・レコーズ・オン」「ライク・ア・スター」のヒット曲によって瞬く間にブレイクしたコリーヌ・ベイリー・レイ。順風満帆だったはずの彼女に悲劇が訪れたのは、2008年の春。サックス奏者だった夫、ジェイソン・レイが亡くなったのだ。1年以上も悲しみに暮れる日々を送った彼女は、2010年に2ndアルバム「あの日の海」を発表。深みを増した歌とソングライティングには、絶望に向き合いながらも、音楽によって立ち直ろうとする彼女の姿を色濃く反映されていた。

さらに2016年には約6年ぶりとなるアルバム「ザ・ハート・スピークス・イン・ウイズパーズ」をリリース。ジャズ、R&B系の気鋭のアーティストたちとともに作り上げたこのアルバムは、彼女の音楽世界がさらに広がっていることを実感させてくれた。さまざまな人生の出来事と直面しながら、音楽的な深化を続けてきたコリーヌ。この日のステージからも、彼女自身の経験に裏打ちされたリアルな感情、そして、そのなかから導き出された真に豊かな音楽をたっぷりと感じることができた。
 
ライブ中盤では、チャカ・カーンの「スウィート・シング」(1976年)をカバー。コリーヌのルーツにつながるネオソウル的なアレンジも強く心に残った。

 

さらにコリーヌがエレキギターを弾くロックテイストのセクションを挟み、代表曲「プット・ユア・レコーズ・オン」「ライク・ア・スター」へ。エヴァ―グリーンな色合いとポップな手触りを兼ね備えた楽曲は、まさに名曲と呼ぶにふさわしい。

アンコールに応えた彼女は、深遠な響きをたたえたバラードナンバー「ナイト」を歌い上げ、ライブは終了。オーディエンスへの感謝、日本に来て歌えることの喜びを――少し恥ずかしそうな笑顔を浮かべながら――延べ、彼女はステージを去った。スガシカオをはじめ、日本のアーティストからも絶賛された今回のライブによってコリーヌは、その尽きぬことのない才能を改めて見せつけた。ルーツミュージックに独自の解釈を加えたサウンド、抑制と奔放を共存させたボーカル、そして、真摯な姿勢と愛らしい表情を兼ね備えたキャラクター。本当に愛すべきアーティストだと心から思う。

森朋之
森朋之 音楽ライター

J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』など。

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