読みもの
2022.06.29
ON BOOKS advance

クラシック音楽ガイドの書籍新シリーズ「もっときわめる! 1曲1冊シリーズ」新創刊!

昭和~平成前半に200巻超を刊行した音楽之友社の入門者向け人気シリーズON BOOKSが、advanceの名を冠して「新創刊」しました。6月29日に①第九②春の祭典③トリスタンとイゾルデの3点同時刊行。メインライターの一人で、《春の祭典》を執筆するとともに総監修的な役割も担った満津岡信育さんと、シリーズ企画開発担当の編集の青野泰史さんにお話を伺いました。

ONTOMO編集部
ONTOMO編集部

東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

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かつての若者向けのコンセプトを 中高年向けにチェンジしました

――今回の「新創刊」のいきさつを教えてください。

青野 しばらく刊行がなかったON BOOKSをリスタートしようと考え、元々の読者層である若者向けに企画のプロトタイプを作ってヒアリングを行なったんです。しかし、反応はさっぱりでした。

――さっぱりですか。

青野 考えてみれば当然ですが、YouTubeやサブスクで音楽を聴くのが普通の環境の若者で、音楽を聴くためのガイドとしてお金を払って書籍を買おうという人は多くないことを実感しました。そこで発想を変えて、かつてON BOOKSによってクラシック音楽を楽しむようになった世代で、引き続き今も音楽を楽しんでいる層をターゲットとしてみました。

――すると、中高年層ですね。

青野 在京オーケストラの定期演奏会に行くと、私を含めて中高年、とくに男性の比率が圧倒的です。話を聞くと音楽書も読むし、それを参考に以前ほどではないもののCDも購入する。この層に向けて「刺さる」企画を考えていたときに、あるコンセプトがひらめいたんです。

選曲は全容を掴むハードルが高いが いつか極めたいと思われている曲

――それが「1曲1冊」だったと。

青野 はい。みなさん、好きで親しんでいる楽曲がある。しかし曲によってはその全容を掴むのにハードルが高い。皆さん忙しいながらも、いつか極めたいと思っている。

そんな方に向けて、「1.楽曲の魅力」「2.楽曲解説」「3.演奏史・録音史・名盤」の3部構成によって、各曲を多方面から極められるような構成を考えました。

――選曲が気になるのですが。

青野 何が楽曲理解のハードルとなるかというと、詩や神話などの文学、宗教、何らか込み入ったストーリーなどだと思います。

選曲はいわゆる人気曲よりもそれを含む長い曲を優先させています。その上でターゲット層のおよそ20名にヒアリングを重ねながら決めていきました。

――カバーも色あざやかですね。

青野 デザインコンセプトを「アーティストのファンクラブグッズ」としました。その曲が好きなら持っていたい、と思わせるようなプレミアムなイメージですね。

青野泰史(あおの やすし):1960年東京都世田谷区生まれ。編集者、著述家。1984年早稲田大学卒業。音楽之友社にて『週刊FM』、書籍、ムック等の編集、その後数社を経てフリーランス。本名で編集、マーケティング、青山通(あおやま とおる)名義で執筆を行う。著書に『ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた』(新潮社)、『ウルトラ音楽術』(集英社)ほかがある。

1冊で1曲と聞いて最初は驚きましたが、 非常に意欲的な企画だと思いました

――満津岡さんは、企画を聞いたときにどう思われましたか?

満津岡 ON BOOKSがしばらく途絶えていたので、おもしろい展開だと思いました。1冊で1曲というのは自分としてはまったく考えたことがなかったので最初は驚いたのですが、非常に意欲的な企画だと感じましたね。

――《春の祭典》のご執筆はいかがでしたか?

満津岡 《春の祭典》の作曲年は同時刊行の《第九》や《トリスタン》よりも時代が新しいので、資料が残っているんです。

その内容自体もおもしろいのですが、時系列に沿って整合性を取りながら書いていくと矛盾点が出てきて、それをあれこれ調べながらつぶしていくのもまたおもしろかった。

本人が書き残した資料もありましたが、それすらも正確ではないですからね。

――あらためて演奏も聴き直されたと思いますが、印象に残ったことはありましたか?

満津岡 この曲は演奏自体も難しいのですが、異なる版があるので本当にそれがミスなのかどうか判別するのも難しかったですね。

珍盤・レア盤で取り上げたグーセンスの演奏の最後の「いけにえの踊り」では、ティンパニが初期のパート譜に基づいて叩いているのですが、ある評論家の方が、「間違いに気づかずに延々と叩かせているのはいただけない」といった評を書いている例もあります。なかなかやっかいな曲なんです。

ストラヴィンスキー:《春の祭典》(満津岡信育・著)

次作の執筆も開始しています どうぞ楽しみにお待ちください

――ご執筆された「名盤30選」のなかでとくに印象に残っている演奏はありますか?

満津岡 サロネン指揮、ロス・フィル盤でしょうか。楽譜に忠実でエキサイティングな演奏です。

サロネンのその前のフィルハーモニア管の録音はホルンが目立つすごい演奏で、ロス・フィル盤を初めて聴いたときはサロネンも大人になって後退したのかと当時は思いました。

しかし今あらためて聴くと、バランスが取れていていい演奏だと思いました。

――満津岡さんは、今後もこのシリーズのご執筆を続けていかれるのですか?

満津岡 はい。曲名はまだ言えないのですが、シリーズの特設ページ(下記ご参照)に、「今後の候補曲」として掲載されているなかの1曲をすでに書き始めています。ぜひ楽しみにしていてください。

満津岡信育(まつおか のぶやす):1959年東京都杉並区生まれ。音楽評論家。コピーライターを経て、40歳を目前にして名刺に音楽ライターと刷り込んで以来、音楽誌やCDのライナー・ノーツの執筆を中心に活動中。内外の音楽家へのインタヴューも数多く手がけている。『レコード芸術』誌では、新譜月評で交響曲を担当。編著に『200DVD映像で聴くクラシック』(学習研究社)がある。2016年からNHK-FMの『名演奏ライブラリー』で案内役を務めている。
第1期刊行のご案内

6月29日3点刊行(以下、続刊予定)

ON BOOKS advance もっときわめる! 1曲1冊シリーズ

①ベートーヴェン:交響曲第9番(相場ひろ・著)

基本的な《第九》の魅力を押さえつつ、名盤12選のうち5点を21世紀の録音から選出するなど、ここ数十年の《第九》の新しい潮流も意欲的に扱う。

②ストラヴィンスキー:《春の祭典》(満津岡信育・著)

初演以来100年を過ぎても革命的であり続ける本曲の辿った歴史を一望、モントゥーからヤルヴィまでの「名盤30」、《春祭》が得意な指揮者、珍盤・レア盤、バレエのDVDも注目。

③ワーグナー:《トリスタンとイゾルデ》(広瀬大介・著)

なぜ本曲が音楽史において孤高の輝きを放ち続けているのかを解くとともに、鑑賞に適切な楽曲解説や、「上演史」「名盤10選」「映像作品6選」による上演・録音史も圧巻。

各巻1,320円(本体価格1,200円)/並製・全書判・104p/音楽之友社・刊

特設ページのご案内

本シリーズ「ON BOOKS advance もっときわめる! 1曲1冊シリーズ」の特設ページを設けています。続刊の状況、今後のご希望曲のアンケートなどはこちらをご覧ください!

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