
シューベルトはなぜオペラで成功しなかったのか? ピアニスト・佐藤卓史がその理由に迫る

シューベルトといえば、「歌曲の王」として《魔王》や《冬の旅》などの代表作が挙げられるほか、数々のピアノ曲も愛されています。しかし、実は約20作ものオペラに取り組んでいたことはあまり知られていません。
しかも、シューベルトは14歳で最初のオペラを書き始め、亡くなる前年まで創作を続けるほど、このジャンルに情熱を注いでいました。それほど力を入れながら、なぜシューベルトは「オペラ作曲家」として成功できなかったのでしょうか。
シューベルトのピアノ作品全曲演奏をライフワークとするピアニスト・佐藤卓史さんのお話をもとに、その理由を探ります。

東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
※本記事はポッドキャスト番組『ONTOMO Radio』で語られた内容を再構成しています。

第11回シューベルト国際コンクールでの優勝と、その後の世界的な演奏活動を通して“現代随一のシューベルト弾き”の名声を確立。展開中のライフワークプロジェクト「佐藤卓史シューベルトツィクルス」では、未完成作品の補筆を含む前人未踏のシューベルトのピアノ曲全曲演奏に取り組み、注目を集めている。
秋田市生まれ。高校在学中に日本音楽コンクールで優勝。東京藝術大学を首席で卒業後渡欧、ハノーファー音楽演劇大学、ウィーン国立音楽大学で研鑽を積む。その間、ミュンヘンARD国際コンクール特別賞、シューベルト国際コンクール第1位、シドニー国際コンクール第4位・ショパン特別賞、エリザベート王妃国際コンクール入賞、カントゥ国際コンクール第1位、メンデルスゾーン国際コンクール最高位など受賞多数。ウィーン楽友協会をはじめとする欧州各地のコンサートホールに出演のほか、2011年にはシリア・ダマスカスのダール・アル・アサド文化芸術劇場でソロリサイタルを開催。
NHK交響楽団、東京交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、山形交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、大阪交響楽団、広島交響楽団、ベルギー国立管弦楽団など内外のオーケストラと多数共演。「トリオ・ジャパン」(with石田泰尚・西谷牧人)、「トリオ・スペリオール」(with泉原隆志・上森祥平)各メンバーを務めるなど、アンサンブルピアニストとしての活躍は特に知られており、著名アーティストから絶え間ない共演オファーが寄せられ続けている。
近年は作編曲の分野でも活動を本格化させるほか、放送・配信・執筆・レクチャーなど幅広いフィールドで音楽の“楽しさ”と“奥深さ”を伝える活動に力を注いでいる。
www.takashi-sato.jp
シューベルトが本当に目指していたのはオペラ作曲家
シューベルトが最初にオペラを書いたのは14歳のとき。その後も生涯を通して創作を続け、完成作だけでも8作品ほど、未完作なども含めると約20作品に及ぶといわれています。
佐藤さんによると、シューベルトは生涯で使った五線紙の約3分の1をオペラに費やしたともいわれるほど。紙そのものが高価だった時代に、友人が五線を引くのを手伝ったという逸話まで残っています。
それほどまでにオペラへ情熱を注いだ背景には、当時の時代事情がありました。19世紀初頭、オペラ作曲家は作曲家の中でも‟花形”の存在。成功すれば名声も経済的な成功も得られる、憧れの職業だったのです。シューベルトもまた、歌曲だけでなく、オペラで成功することを大きな夢としていました。
シューベルト:オペラ《鏡の騎士》
なぜオペラでは成功できなかったのか
しかし、その夢は生前には叶いませんでした。最大の理由として挙げられるのが、当時のウィーンではイタリア・オペラが圧倒的な人気を誇っていたことです。
ロッシーニをはじめとするイタリア人作曲家の作品が劇場を席巻し、ドイツ語によるオペラは観客を集めるのが難しい状況でした。シューベルト自身もドイツ語によるオペラを書き続けましたが、時代の流れはあまりにも厳しかったのです。
さらに、佐藤さんは「ドイツ語オペラそのものがまだ発展途上だった」と指摘します。イタリア語は母音が多く、劇場でも歌詞が伝わりやすい言語です。一方、ドイツ語は子音が多く、オペラとして歌うための表現方法がまだ十分に確立されていませんでした。
のちにワーグナーらが切り開いていくドイツ語オペラの世界は、まだ始まったばかりだったのです。
31歳という早すぎる死も大きかった
もう一つ見逃せないのが、シューベルトが31歳という若さで亡くなったことです。歌曲は仲間たちの前で演奏し、その反応を受けながら作品を磨いていくことができました。
しかしオペラは違います。上演には劇場や歌手、大人数の演奏家が必要で、作品を書いても実際に舞台にかかる機会はほとんどありませんでした。
佐藤さんは、「経験を積み、上演を重ねることでオペラ作曲家として成長する時間が足りなかったのではないか」と話します。
また、シューベルト自身の性格も影響していたのかもしれません。目立つことを好まず、初演で舞台に呼ばれても表に立つことを断ったという逸話も残っています。
華やかな劇場文化の中心で活躍するオペラ作曲家という存在は、もともとの気質とも少し距離があったのかもしれません。
シューベルトオペラ入門におすすめなのは《アルフォンソとエストレラ》と《フィエラブラス》
かつては「台本が弱い」「劇的な展開に欠ける」と評されることも多かったシューベルトのオペラ。しかし近年では、その穏やかな物語運びや美しい旋律、ロマン派へとつながる和声の豊かさが再評価され、ヨーロッパでは上演機会も少しずつ増えてきています。
「これまで欠点と考えられていた部分が、実はシューベルトらしさだったのではないか」という見方が広がってきたのです。
そこで佐藤さんがシューベルトオペラ入門としておすすめする作品は、《アルフォンソとエストレラ》と《フィエラブラス》の2作品。
《アルフォンソとエストレラ》は、全編が音楽でつながる意欲的な構成を持ち、のちのワーグナーにも通じるような先進性を感じさせます。
シューベルト:《アルフォンソとエストレラ》
一方、《フィエラブラス》は中世の伝説をもとにした壮大な作品で、合唱を効果的に用いたドラマ性が魅力です。
どちらも生前には劇場で成功を収めることはありませんでしたが、現在ではシューベルトの新たな魅力を知る作品として注目されています。
シューベルト:《フィエラブラス》
日時: 2026年9月13日(日)14:00開演
会場: 音楽の友ホール
出演: 佐藤卓史、尾崎未空(ピアノ)
曲目: シューベルト/イタリア風序曲 ニ長調 D592、歌劇《アルフォンソとエストレッラ》序曲 D773、英雄的大行進曲 D885、イタリア風序曲 ハ長調 D597、歌劇《フィエラブラス》序曲 D798、エロルドの歌劇《マリー》の主題による8つの変奏曲 D908
詳しくはこちら
連弾で共演する尾崎未空はミュンヘン在住のピアニストで、日本ではPTNA特級グランプリでおなじみのほか、国際的に活躍中。2人だけでの共演は今回が初めて。
ポッドキャストの視聴はこちら
後編もお楽しみに!





関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
新着記事Latest


















