レポート
2026.08.10
海外クラシックNEWS~from イギリス

BBCプロムス開幕~アメリカ合衆国建国250年を記念する曲目が多く登場

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回はイギリスの7月の音楽シーンから、BBCプロムスのプログラム内容を中心にお届けします。

原田 真帆 Maho Harada
原田 真帆 Maho Harada ヴァイオリニスト・博士(音楽)

多様性のあるレパートリーの構築を目指して、日本と英国を拠点に活動。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て同大学音楽学部器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修...

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

ヨン・ストルゴールズ(指揮)とBBCフィルハーモニックが7月21日にロイヤル・アルバート・ホールで、R・シュトラウス《ツァラトゥストラはかく語りき》を演奏 © BBC/Chris Christodoulou

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夏のロンドンはシーズン・オフで、演奏会はBBCプロムスに集中する。本稿ではプロムス全体のプログラムを見渡しつつ、閑散期の隠れた名演をレポートしたい。

今年のプロムスではアメリカ合衆国建国250年を記念して、アメリカ系の作品が例年より多く登場する。しかしガーシュウィンやコープランド、バーンスタインら一部の作曲家に偏っていることは否定できまい。なお山田和樹は、バーミンガム市交響楽団とジョン・アダムズの合唱作品《ハルモニウム》に臨む。

プロムスらしく随所に散りばめられた現代作品のなかには、ベッツィ・ジョラス(『音楽の友』2026年8月号でレポート)ジェシー・モンゴメリー、ジョーン・タワーなどアメリカ系作曲家の作品も見受けられる。しかし作曲家のジェンダー比率の均衡を図った結果、存命の作曲家では女性表象のアーティストが多い。権力勾配の不均衡を是正するクオータ制のやりかたでいえば、マイノリティ属性の人数をいったん増やすのは正解だが、西洋クラシック音楽の場合には「死んでいる作曲家」の扱いも工夫できるはずだ。平たくいえば、もっと「歴史上の女性」と「いまを生きる男性」を入れないと不都合をこうむる世代ができてしまう。

本来プロムスが始まって間もない20世紀前半は、エセル・スマイスの歌劇《The Wreckers》やドロシー・ハウエルの交響詩《Lamia》が人気を博すなど、女性作曲家は「そこに普通にいた」。歴史を踏まえて見ると2026年のラインナップは生ぬるい。

むしろ今年頻出するのはR・シュトラウスで、《ツァラトゥストラはかく語りき》、《死と変容》、《アルプス交響曲》や「歌劇《ナクソス島のアリアドネ》」に「《ばらの騎士》組曲」、そして《英雄の生涯》、《4つの最後の歌》と充実。またベルリオーズが「序曲《ローマの謝肉祭》」、《幻想交響曲》、「レクイエム」、《ファウストの劫罰》と並ぶのは珍しい。

プロムスといえば、大編成の金管や打楽器を浴びるように聴くのが醍醐味で、先の2巨頭に加え、エルガーやヴォーン・ウィリアムズ、ウォルトンの交響曲、そして初日に奏でられたフィンジ《聖チェチーリアのために》といった英国の大規模作品は、この音楽祭ならではの聴き応えがあろう。

また今年はマーラーも交響曲が5曲とたっぷり聴けるが、ブルックナー作品がゼロで寂しい。なおプロムスはBBCのサイトでラジオ中継を配信しており、日本からも無料で再生可能だ。

ロイヤル・アルバート・ホール ©原田真帆
BBCプロムスのメイン会場、ロイヤル・アルバート・ホール ©原田真帆

ロンドンを拠点とする楽団の首席奏者たちが室内楽を奏でる「チェンバー・プリンシパルズ・オブ・ロンドン」

そんなプロムス開幕前夜。ウォータールー駅の高架のふもとにある 1901 Arts Club にて、チェンバー・プリンシパルズ・オブ・ロンドンの演奏会を聴いた。この団体はロンドンを拠点とする楽団の首席奏者によって構成されており、メンバーたちがふだん奏でる大規模な管弦楽曲とは打って変わって、より親密な室内楽の公演を実施している。

この夜はロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団のコンサートマスターであるセルゲイ・レヴィティンと第2ヴァイオリン首席のヤン・シュモルクが、2台ヴァイオリンのために書かれた楽曲で鮮やかに魅せた。

まずは定番のルクレール「ソナタ」から「第4番」で開始。日ごろバレエ・ダンサーを支えているだけあって、舞踏家ルクレールの音を絶妙に引き出していく。かと思えば、シュポア「デュオ・コンチェルタンテ第2番」では、まるで管弦楽を聴いているような錯覚に陥る。

そしてシュニトケ《Moz-Art》ではコントさながらの演技力を見せる。演奏の前に奏者が台詞を言っていたのだが、楽器を鳴らしてもそれが言葉の続きのようで、ふだんから共に演奏しているからこその音のせめぎ合いは演劇のごとし。

終曲のハルヴォルセン《ノルウェー民謡による演奏会奇想曲》は、ふたりが代わるがわる協奏曲の独奏と伴奏を務めているかのようだ。通常は歌劇場のピットのなかで繰り広げられる職人技に、45人弱の小規模会場で間近に触れる贅沢な時間だった(7月16日)

原田 真帆 Maho Harada
原田 真帆 Maho Harada ヴァイオリニスト・博士(音楽)

多様性のあるレパートリーの構築を目指して、日本と英国を拠点に活動。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て同大学音楽学部器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修...

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