
服部譲二が総裁の野外イヴェント「オペラの夏」 ウィーンの街中で幻想的な《カルメン》

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回は7月のオーストリアの音楽シーンから、夏の野外オペラ二つをレポートします。
7月になり、歌劇場や音楽ホールが休館すると、オーストリアの音楽界では全国各地のフェスティヴァルが日々の話題の中心になる。まずは4日に、ウィーン3区ホイマルクトで開催された野外イヴェント「オペラの夏」を訪れた(開催期間は7月1~18日)。
創設されて3年目となる今年はビゼー《カルメン》で、コンツェルトハウスの外壁を背に、噴水や彫刻などで飾られた瀟洒な舞台が迎えてくれる。開演前には例年通り、総裁の服部譲二が挨拶したが、スペイン国旗が随所にはためくセットを指して「オーストリア人のみなさまが一昨日の(サッカーワールドカップ・スペイン戦の)敗北から立ち直られて、あれらの国旗が目障りにならないことを祈ります」と言ったのには大笑い。
服部指揮ウィーン室内管弦楽団による「第1幕への前奏曲」から、踊りや演技でオペラの世界にいざなわれ、その最後の音が鳴ると同時に顔を見せた謎の男は、作曲者のビゼー(ホゼア・ラートシラー)。昨年の《椿姫》でのヴェルディ同様、場面ごとに筋を教えてくれるのだが、本物のビゼーが語っているかのように音楽にまで踏み込んだ解説なので、オペラ通の人が聴いても興味深いものに思われた。
あたりが暗くなってきた前半の最後には、スペインふうの装飾で舞台がライトアップされ、休憩時間の恰好の記念撮影スポットに。後半初め、第3幕への間奏曲ではそのライトアップが暗い岩場を造りだし、ミカエラがカンテラを手にホセを探して回る演出となる(ドミニク・アム・ツェーンホフ=ゼンス)。冷たい夜風が吹きすさび、背景の上方には白く輝く月の画像が…… いままで観てきた歌劇場の舞台以上に幻想的だった。
この日の主な配役は、ナーマ・ゴールドマン(カルメン)、オレステ・コジモ(ドン・ホセ)、ダニエル・グートマン(エスカミーリョ)、ガブリエラ・フルジェニャク(ミカエラ)。時代が変わり、クラシックの存在感が薄れていくウィーンで、多くの人がオペラに出会い、街に美声が流れる機会はじつに貴重だ。2027年には7月1~17日に、ヴェルディ《アイーダ》が上演される。
歴史ある修道院の中庭で観る《サムソンとデリラ》

7月11日には、ウィーン近郊にあるクロスターノイブルク修道院の中庭で上演されたオペラ、サン=サーンス《サムソンとデリラ》を取材した(開催期間は7月7日~8月1日)。このフェスティヴァル「operklosterneuburg」では、昨年から総裁がバリトン歌手のペーター・エーデルマンになり、今年からは独自のオーケストラ「オーパークロスターノイブルク管弦楽団」を擁するなど、多様な変化が起きている。
同じ野外オペラでも、「オペラの夏」との大きな相違は、歌手がマイクを使わない点。壁に四方を囲まれた、840席ほどのこぢんまりした会場なので、生の美声と臨場感を堪能できる。オーケストラが野外のピットにいることは、楽器に対する雨の危険を考えると理想的ではないのだが(雨天の場合は屋内に移るとはいえ、急に降りだして間に合わず、コントラバスを逆さにしたら水がザーッと出たという話を聞いたことがある)、この日は幸い気持ちのよい晴天で、指揮者トーマス・レスナーのもと、素敵な響きを届けてくれた。
マリオ・パヴレ・デル・モナコの演出は、ハンス・クートリッヒの簡素な舞台を最大限に利用して、サムソンが巨大な岩を放り投げたり、神殿の柱を倒したりするスペクタクルを表現していた。今年はフェスティヴァル史上初の大規模なバレエシーンも取り入れられて、きらびやかな衣裳(アンナ=ソフィー・リーンバッハー)とともに、第3幕の〈バッカナール〉を盛り上げた。
デリラ役のマルガリータ・グリツコヴァ、ダゴンの大祭司役セルバン・ヴァシレなど、歌手たちの質も高い。サムソン役のクリスティアン・ベネディクトは、ときおり声が出にくいときがあったようだが、怪力の持ち主に合った容姿と演技によって、観客たちを旧約聖書の不思議な世界にいざなった。2027年7月3日~8月1日の、ヨハン・シュトラウス2世《こうもり》も楽しみだ。





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