読みもの
2021.06.08
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その52

トレモロ:イタリア語でゆらめく! トリルとの違いは?

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

朝靄のドナウ川から眺めたウィーン。J.シュトラウス2世のワルツ《美しく青きドナウ》は、ドナウ川でよく見られる朝靄のようなトレモロから始まります。
©︎neptune

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トレモロとは、ある1つの音、もしくは距離のある2つの音との間を、何度も素早く反復させる奏法のことを指します。トリルとは言葉も演奏法も似ていますが、実はちょっと違います。隣り合った音との反復であるトリルに対して、トレモロは、同じ音か、隣り合わない音との反復を意味します。

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この言葉は、イタリア語で「ゆらめく微かに震えるという意味の動詞tremolareの名詞形で、tremoloと書かれます。英語の動詞trembleと同じ語源をもつ言葉です。

トレモロという言葉が音楽史に登場したのは1517年、イタリアの作曲家ヴィンチェンツォ・カピローラのリュート曲集に収められたパヴァーヌにおいてです(カピローラは、強弱記号のピアノを初めて使った人です!)。

カピローラ:リュート曲集〜パヴァーヌ(Padoana descorda)

カピローラ リュート曲集よりパヴァーヌ。曲の前書きでトレモロと紹介されている部分。数字の2の右に書かれた「3」の数字が点線で書かれていますが、これは2つ音をトレモロで弾くことを表しています。曲の前書きにも、その奏法の説明が書かれています。

しかし、ここでのトレモロは、隣り合った音との1〜2往復程度の反復を想定されています。

さらに、カッチーニの曲集《新しい音楽》(1602年)の中では、歌唱法として、同じ音の反復が「トリル」と書かれています。

「どっちだよ!」と思われた方……本当にその通りです。このときのトレモロやトリルは、かなりあやふやなもので、トレモロをトリルと呼ぶこともありましたし、その逆もまた然りでした。

1624年、モンテヴェルディの《タンクレディとクロリンダの戦い》の弦楽器において、同音反復のトレモロ(同じ音を弓で反復する奏法)が使われました。弦楽器によるトレモロの最初の曲です。この曲は、ピツィカートが初めて使われた曲でもあります!

モンテヴェルディ《タンクレディとクロリンダの戦い》
同じ音を細かい音価で反復させています。

のちに、この奏法によるトレモロは多くの曲で用いられ、ざわめきを表したり、焦燥感を掻き立てるための効果として登場するようになりました。

ほかにも、ヨハン・シュトラウス2世のワルツ《美しく青きドナウ》の冒頭などで見られる朝靄のような、まるでヴェールに包まれた雰囲気を出す美しいトレモロなど、トレモロの先に広がる世界は実に広いのです!

トレモロを聴いてみよう

1. モンテヴェルディ:タンクレディとクロリンダの戦い
2. ベートーヴェン:交響曲第6番《田園》作品68〜第4楽章「雷雨、嵐」
3. パガニーニ:24のカプリス〜第6番 ト短調
4. ウェーバー:歌劇《魔弾の射手》〜序曲
5. ヨハン・シュトラウス2世:ワルツ《美しく青きドナウ》作品314
6. ドビュッシー:牧神の午後の前奏曲(ラヴェルによる4手ピアノ版)

ベートーヴェン:交響曲第6番《田園》作品68〜第4楽章「雷雨、嵐」
ヴァイオリンとヴィオラパートは、嵐の騒々しさをトレモロによって表しています。
パガニーニ:24のカプリス〜第6番の自筆譜。
大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...

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