イベント
2019.01.10
北欧とケルト、暮らしと音楽 Vol.6

インパクト大の伝統楽器・ニッケルハルパを中心に、ワイルドに疾走するスウェーデンのアンサンブル「ヴェーセン」

スウェーデンの伝統楽器、ニッケルハルパを中心に構成されるバンド「ヴェーセン」が今年2月に来日! インパクトある見た目のニッケルハルパから繰り出されるのは、一体どんな音? 疾走感のあるアンサンブルは、一度聴くと虜になってしまう。
ヴェーセンの音楽とともに、遠いスウェーデンの大地へ、いざ! 漕ぎ出そう。
5回連続公演を記念して開催されるオープニングパーティーに、ONTOMO読者3名を特別にご招待します。

ナビゲーター
野崎洋子
ナビゲーター
野崎洋子 音楽プロデューサー

1966年千葉県生まれ。日本大学文理学部出身。 メーカー勤務を経て96年よりケルト圏や北欧の伝統音楽を紹介する個人事務所THE MUSIC PLANTを設立。 コンサ...

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1300年代が起源? スウェーデンの伝統楽器「ニッケルハルパ」

北欧スウェーデンにニッケルハルパ(Nyckelharpa)という楽器がある。その歴史はヴァイオリンよりも古く、首都ストックホルム沖にあるゴットランド島の教会のレリーフに奏者の姿が確認できることから、起源は1300年代ではないかと想像されている。2015年に新しい紙幣が発行されて変更となってしまったが、それ以前は50クローナ札にも堂々とその姿が印刷されていた。またストックホルムの北にあるウップランドという地方の教会にニッケルハルパを持った天使の壁画が多く発見されていることからも、このエリアを中心とした伝統だということも伺える。

英語ではKeyed Fiddleと呼ばれており、その名の通りネックの下についたキーを持ち上げるようにして音階を決定し、それをヴァイオリンの弓の3分の2程度の長さの短めの弓で弾く。楽器学分類上では、ハンガリーなどで演奏されるハーディ・ガーディと同じ機械楽器に分類されるらしい。たくさん弦があるように見えるが、実際に演奏する弦は4本程度。ヴァイオリンに音色は似ているものの、共鳴弦が多いので教会で聴いているような自然な残響感がある。

ニッケルハルパ奏者のウーロフ・ヨハンソン
(上)実際に演奏に用いる弦は4本で、残りは共鳴弦
(左)美しい装飾が施されている

今年結成30年をむかえるヴェーセン、5回連続公演を実施!

2004年4月、この楽器を中心にしたアコースティック・トリオの「ヴェーセン(Väsen)」が初めて日本にやってきた。とにかく楽器のルックスが強烈なので、音楽雑誌のインタビューで「ムカデのような、軍艦のような」という形容詞でこの楽器が紹介されていたのも懐かしい思い出だ。

そして今年2月、ヴェーセンの10回目の来日公演が、東京オペラシティ近江楽堂で5回に渡って行なわれる。今年結成30周年をむかえるヴェーセンの歴史を巡る公演となる予定だ。この30年、ヴェーセンは、ニッケルハルパを中心に、12弦ギター、ヴィオラが奏でる圧倒的な音楽で、多くのファンを魅了してきた。最近ではベッカ・スティーヴンス(アメリカのジャズ、ポップス、フォーク系シンガー)&スナーキー・パピー(アメリカのジャズバンド)との共演、パンチ・ブラザーズによるカバーにより、伝統音楽ファン以外にも注目されている。

ベッカ・スティーヴンス&スナーキー・パピーとの共演

パンチ・ブラザーズがカバーした曲を、リーダーのクリス・シーレと共演

スイング、リズム、スピード。伝統音楽のハイレベルなアンサンブル

しかしヴェーセン最大の魅力は、フロントを張るこの楽器の存在ではなく、伝統音楽グループのアンサンブルのあり方だと筆者は考えている。具体的に彼らの演奏を1つ聴いてみよう。

ギターのローゲル・タルロートが娘のために書いた比較的単純なメロディの曲だが、2ラウンド目(1:08ごろ)の豊かなふくらみ、3ラウンド目(2:08ごろ)のダイナミックな面白さと、どんどん楽曲の印象が変化していく様が最高に気持ちよい。特に2ラウンド目に突入するところなど、あまりの快感に何度も何度も繰り返し聴いてしまうほどだ。

ヴェーセンの演奏でまず注目してほしいのは、音楽のスイング感、リズム感が、ギターではなくメロディ楽器(=ニッケルハルパ)の中に力強く存在していることだ。
70年代以降、伝統音楽シーンにギターが参加するようになってから、本来ユニゾンで演奏されてきた伝統音楽は、ギターや打楽器にそのリズム的表現を頼るようになってきてしまった。しかしヴェーセンにおいては、伝統音楽のメロディ奏者が本来手放してはいけないはずのダンスのリズムが力強く存在している。

そして重要なのは、3つの楽器がまったく同レベルでワイルドに疾走することだ。
ニッケルハルパの裏メロディとも言うべきヴィオラのミカエル・マリンの、この自由な演奏はどうだ。主旋律とはまったく別のメロディを弾きながら、自由自在に動きまわり、その動きはメンバー間でも想像できないほどだと言う。
ローゲルの12弦ギターも、1ストロークたりとも同じコードがないのではないかというくらい自由に羽ばたいている。この3人の伸びやかで自由な二等辺三角形のアンサンブルが、ヴェーセンを唯一無二の存在にしていると私は考えている。
両脇の2人がウーロフから目を離さないのも良いし、そしてウーロフが両脇の2人に滅多に視線を送らないのも興味深い。聴衆が演奏者間の化学反応を視覚で確認できるのも、3人というミニマムな編成の素晴らしさならでは、だ。このミュージシャンとしてバンド内のメンバーを完全に信頼し、かつ自分も自由に羽ばたく……という言ってみれば当たり前のことが実現できているバンドは、伝統音楽業界広しといえども2つとして存在しない。

初来日から15年。初来日当時「日本には30台くらい輸出されたらしい」とされていたニッケルハルパも、現在では日本ニッケルハルパ協会が設立され、この楽器を演奏する複数のバンドが活躍。ウーロフが教鞭を執る学校に留学する日本人奏者も多いようだ。近江楽堂にて音響設備なしで行なわれるこの5回連続公演は、ヴィオラのミカエル・マリーンの音楽監督のもとヴェーセンの歴史を辿るスペシャルな公演となる。

なお公演会場において開場から開演までの時間、このユニークな楽器ニッケルハルパが無料体験できるので楽器に興味がある読者も是非注目してほしい(協力:レソノサウンド)。

また、この5回公演を記念して1月31日(木) 19:30より、ボルボスタジオ青山にてパーティが行なわれる。もちろんヴェーセンの生演奏もある予定。司会を、ラジオDJのピーター・バラカン氏が務める。
このパーティに読者3名様をご招待します。ONTOMOへの感想もお書き添えの上、ご連絡ください。

イベント情報
読者3名様ご招待! 「ヴェーセン」5回公演記念オープニングパーティ

日時 1月31日(木)19:30~
会場 ボルボスタジオ青山
司会 ピーター・バラカン

※本パーティは、一般でチケット販売はしておりません

公演情報
ヴェーセン30年の軌跡

会場 近江楽堂(東京オペラシティ)

日時
熱血ボート漕ぎ 1989-1994
2019年2月1日(金) 開演 19:00

ボトルトップ隊長 1997-1999
2019年2月2日(土) 開演 14:00

サトウキビ畑で迷子 2003-2007
2019年2月2日(土) 開演 17:00

ヴェーセン・ストリート 2009-2013
2019年2月3日(日) 開演 17:00

クラフト・ビールおたく 2017〜
2019年2月4日(月) 開演 19:00

チケット料金 前売 5,500円(全自由席)/5回公演セット 前売23,000 円(全自由席)

詳細はこちら

出演
ヴェーセン Väsen

ウーロフ・ヨハンソン(ニッケルハルパ)
ミカエル・マリーン(ヴィオラ)
ローゲル・タルロート(ギター)

音楽監督  ミカエル・マリーン 

ナビゲーター
野崎洋子
ナビゲーター
野崎洋子 音楽プロデューサー

1966年千葉県生まれ。日本大学文理学部出身。 メーカー勤務を経て96年よりケルト圏や北欧の伝統音楽を紹介する個人事務所THE MUSIC PLANTを設立。 コンサ...

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