
音楽の深掘りは無限にできる! 〜クラシック音楽ファシリテーターの飯田有抄さんにきく

クラシック音楽を聴いていると、「もっと深く聴けるようになりたい」と思うことがあるかもしれません。一方で、作曲家や作品について調べ始めると、歴史や音楽理論など、知らないことが次々と出てきて途方に暮れてしまうことも……。
では、1つの楽曲を深く聴くためには、何から始めればいいのでしょうか。『クラシック音楽への招待 子どものための50の扉』『子どものための40の楽曲たち』の著者、飯田有抄さんに教えてもらいました!
※本記事はポッドキャスト番組『ONTOMO Radio』で語られた内容を再構成しています。
まずは「気になる」を大切に!
——クラシック音楽って、あまりに歴史が長くて壮大なので、もう少し知識を広げたいとは思うんですけど……
飯田 途方に暮れちゃう?
——そうなんです! もっと楽曲を深く聴くには、どんなところから始めればいいでしょう?
飯田 クラシック音楽は400年もの歴史があるので、すべて網羅するなんて絶対にできないんです。
——できないってことで、いいですよね?
飯田 はい。すべて知ることはできない。だから、「シューベルトの歌曲の専門家」とか専門家が細分化されているし、彼らは日夜研究を重ねていて、未だに新発見がある、そういう情報過剰と言ってもよいものなんです。
じゃあどうしたら? というところですよね。みなさん、音楽といろいろな出会いかたをすると思うのですが、まずは、「ピアノを習っていたので、バッハやショパンに親しみがある」とか「ショパンってロマンチックで好き」とか、「年末に街角で流れてくる第九って、すごいのかな」とか……自分のなかにある気になるところ、「フック」を大切にしてほしいんです。
たとえば、映画やドラマで聴いた曲が気になった、ベートーヴェンの名前は知っている、ショパンの音楽がきれいだと思った……そういうところからでいい。
もしもベートーヴェンの「交響曲第9番」が気になったら、YouTubeや音楽配信サービスでもよいので、まずはどれか1つ聴いてみる。
——そのとき「好きな曲のはずなのに、正直、つまらないな」と思うこともあるのですが……
飯田 「ちょっと長いな」「あまりピンとこないな」と思ったら、無理をしないことです。同じ曲の別の演奏家を、5人聴いてだめなら6人目を聴いて、それでもだめなら、同じ作曲家の別の曲にいってもいい。
それはサブスク時代の恩恵なので、違うと思ったら、すぐその下にいる誰かのアルバムの第九を聴いてみてください。そうすると、ピンとくるものがあるんですよ。
5人の指揮者、5つのオーケストラを聴いて、もうだめかもしれないと思ったら、じゃあ、第九は1回置いておこう、有名な第5番の《運命》ならいけるかもしれない、または弦楽四重奏やピアノにいってみたりと切り替えてみる。
フックとなった曲の周辺を、いろいろウロウロしてほしいんです。
そうすると、だんだん「この人、こういうことをやるよね」という、作曲家の「手ぐせ」のようなものが感じられてくるんです。

クラシック音楽ファシリテーター。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquarie University通訳翻訳修士課程修了。音楽専門誌や演奏会プログラム等に執筆・翻訳、市民講座講師、音楽イベントのナビゲーター等を行う。書籍に「ブルクミュラー25の不思議」(共著、音楽之友社)、「ようこそ!トイピアノの世界へ」(カワイ出版)、「さぁはじめよう!オーディオのある暮らし」(音楽之友社)等がある。オーディオブック「心が育つ だれなにクラシック」(全26巻、パンローリング)が好評。
聴き続けると「作曲家の手ぐせ」が見えてくる
——「手ぐせ」というのは?
飯田 ベートーヴェンっぽい「節回し」があるんですね。
作曲家はスコアに書くので、「書きぐせ」とも言うべきものがあります。最初から「わかろう」と思って聴かなくても、いろいろな作品を聴いているうちに、「あ、ベートーヴェンっぽい」という瞬間が来る。
——私は父と車の中で「この作曲家だーれだ?」とクイズをしていたのですが、「ベートーヴェン」と「モーツァルト」と答えが分かれるときがありました。似ている曲もありますよね?
飯田 それはすごく楽しいヒントで、近い世代の人の曲は正直わからなかったりするんですよね。モーツァルトの最後のほうはベートーヴェンに近い感じがある。
だから、ベートーヴェンから、同時代のハイドンや、少しあとのシューベルトにも広げて耳を向けてみると、作曲家同士のつながりや違いも少しずつ見えてきて、今度は、その「時代の空気」も感じられてきます。
さらに知りたくなったら、音楽史の本を1冊読んでみるのもいいでしょう。「なぜハイドンには朗らかでユーモラスな音楽が多く、ベートーヴェンにはあれほど熱量のある音楽が生まれたのだろう?」と、新しい疑問が生まれてくる。
歴史や時代背景を知ると、今まで「ベートーヴェンってなんかすごい」としか言えなかったものに、「熱」「エネルギー」「革新的」といった言葉を使って、自分の思いに輪郭を与えられるようになります。
「わからない」は、次に進むための入口
——音楽史のほかに、理論も知っておいたほうが、見える世界が違ってきますよね?
飯田 それはそうですね。でも、コンサートで曲目解説を読んでいて、知らない言葉がたくさん出てくるのは普通のことだと思います。
それは火付け役みたいなもので、たとえば「第1楽章はソナタ形式で……」と書いてあったら、「ソナタ形式って何?」と、今ならAIに聞いてみるのもいいと思います。一度説明されてわからなかったら、「まだわからない。もっと簡単に説明して」と聞けばいい。「ソナタ形式は何となくわかった」「ロンド形式や変奏曲形式というものもあるらしい」と、一つずつ自分の持ち駒を増やしていけばいいんです。

飯田 クラシック音楽は、なぜか「わかっていないといけない」「教養がなければ楽しめない」と思われがちですが、私は「わからないのがデフォルト」でいいと思っています。何百年も前の、別の国の、まったく違う時代に生きた人がつくった音楽です。そんなにすぐわかるわけがない。
自分がフィットするところから、気になったことを一つずつ調べていく。そのプロセスそのものを楽しんでほしいですね。
楽譜、楽器、オーディオも! 音楽を深める入口に
——さらに「この曲を深掘ろう」と思ったときには、みなさん、どうしてるんでしょうか。
飯田 コンサートで分厚い楽譜を見ている人もいますよね。でも、「楽譜って読めなきゃだめですか?」と思わずに、「オーケストラ譜というのがまだまだあるな、しめしめ……」くらいに思って、読んでみたいという熱い思いを大事にしていただいただければ。スコアはすぐに手に入ります。
譜面が少しシンプルなピアノ曲で、音源を聴きながら楽譜を眺めてみて、「今、右手がこれを弾いているのかな」と模様を追ってみるだけでも、音楽を視覚的に捉えられる喜びはあると思います。
音楽を深めようと思ったとき、楽譜を読むことは究極ですね。作曲家がそこに何を書いたのかの原点、「証拠」なので、知っていると知らないとでは、聴きかたが変わると思います。
——ピアノを習っていた人であれば、弾いてみるのもいいですよね。
飯田 はい、自分で音を出してみるのは、確実に音楽体験を広げてくれますね。大人の音楽教室もかなり多いですからね、興味があったら楽器や歌を体験してみると、「美しい音を出すって、こんなに大変なんだ」とわかる。
そうすると、演奏家へのリスペクトを感じるし、表現にはどれだけの幅があるのか、音を聴いたときに受け取れる情報量が格段に増えるんです。
——音の跳躍があるときの身体の動きとか、実際に演奏してみると感じるものがあります。
飯田 身体性ですよね。音楽のジャンプ力をこの演奏家はどういう間合いで弾くのか、自分の身体とリンクしながら堪能できますね。

——逆に、聴くだけでも、オーディオによって相当聴こえかたが違います。
飯田 本当に違うから面白くって。スマホからイヤフォン、さらにスピーカーにする、というようにアップグレードすると、同じ音源でも聴こえてくる音の数が違う。
ぐちゃぐちゃっと音の塊だと思っていたのが、楽器ごとに分離して聴こえて、息遣いまでわかる。オーディオで世紀の名演とされたものを聴くのも好きだし、「やっぱり実演だよね」と言いながら帰ってくるときもある。どこに感動が落ちているかわからないから、もう気になったところから攻めるしかないですね!
——では、「どこまで深められる?」という問いへの答えは?
飯田 もう、無限だと思います(笑)。
でも、無理をする必要はありません。コンサートに行ったから必ず楽しめるわけでもないし、その日の体調や演奏家との相性もある。人と比べる必要もありません。
音楽は時間芸術なので、どうしても時間がかかります。だから「タイパが悪い」といえば悪い(笑)。ブルックナーの交響曲が90分なら、それはかけてほしい時間です。
まずは自分の「フック」を見つけて、そこから好きな方向へ、少しずつ広げていく。わからないことがあってもいいし、途中で別の曲に寄り道してもいい。そうやって自分なりにウロウロしながら聴いていくことが、1つの楽曲を深めることにつながっていくんだと思います。
ポッドキャストの視聴はこちら
飯田有抄さんの著書





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