インタビュー
2026.10.28
特集「ライフキャリア」

スウェーデン&ノルウェーのオーケストラ奏者に聞く北欧の“働き方”〜週休3日・長い夏休み・フラットな人間関係

その暮らしに素敵なイメージのある北欧のライフキャリアについて、スウェーデンのイェブレ交響楽団第2ヴァイオリン奏者の永野花穂さんと、ノルウェーのトロンハイム交響楽団でヴィオラ奏者の乾詩織さんのお二人にインタビュー! 休暇や福利厚生、同僚とのコミュニケーション、海外のオーケストラを目指す人へのアドバイスまで、現地での経験をもとにお話しいただきました。
※本記事はポッドキャスト番組『ONTOMO Radio』で語られた内容を再構成しています。

ONTOMO編集部
ONTOMO編集部

東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

ゲスト:永野花穂(イェブレ交響楽団第2ヴァイオリン奏者)、乾 詩織(トロンハイム交響楽団ヴィオラ奏者)
MC:ONTOMO編集部

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普段は基本的に週休3日!

——まず、お二人のオーケストラでは、普段どのようなスケジュールで働いているのでしょうか。

永野 私のオーケストラは、基本的に週1回コンサートがあり、毎週プログラムが変わります。たまに週2回や3回のこともありますし、子ども向けのスクールコンサートなどがあると、1日に3公演することもあります。

乾 私もまったく同じで、週1回が基本です。毎週違うプログラムで、スクールコンサートやファミリーコンサートがあると、1日に2公演することもあります。年間48〜50公演くらいです。

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——1週間のスケジュールはどのような感じでしょうか。

永野 リハーサルは朝9時40分に始まります。スウェーデンでは朝10時開始のところが多いのですが、私のオーケストラはストックホルムから通っている人が多いので、電車の到着時間に合わせているようです。リハーサルはお昼休憩を挟んで午後までのことが多いです。

2〜3日リハーサルをして、コンサートが1〜2回。基本的には週3日休みですね。

乾 私も月、火、水曜日にリハーサルをして、木曜日の夜にコンサートがあります。金、土、日曜日が休みというのが基本の予定です。

——音楽家というと、土日休みがないイメージでした。

乾 私も入ってからびっくりしました。みんなが休むときに働くのが音楽家だと思っていたので。でも、日曜日やクリスマス、年始も休みなんですよね。

永野 ちゃんと休みますね。クリスマスなどに働くのはフリーランスの演奏家が多いイメージです。オーケストラなどに所属している人も、働きたければ仕事をするけれど、休みたい人は休む、という印象です。

永野花穂(ながの・かほ)
イェブレ交響楽団第二ヴァイオリン奏者(スウェーデン)。新潟県出身。4歳よりヴァイオリンを始める。桐朋女子高等学校を経て、桐朋学園大学を卒業。英国王立音楽院修士課程修了。2018-2019年ロイヤルストックホルム管弦楽団アカデミー生。2019年、映画「午前0時キスしに来てよ」の音楽でヴァイオリンを担当。スウェーデン室内管弦楽団のレコーディングセッションに参加。ensembleNOVAのスプリングコンサートにソリストとして出演。2021-2025年、ヨンショーピン・シンフォニエッタ第一ヴァイオリン奏者。これまでにヴァイオリンを宮下理恵、篠崎功子、ジャック・リーベックの各氏に師事。室内楽を山口裕之、銅銀久弥、堤剛の各氏に師事。現在スウェーデンよりオンラインレッスンも行っている。
乾 詩織(いぬい・しおり)
中学生のときにノートルダム女学院オーケストラ部にてヴィオラを始める。
同志社女子大学学芸学部音楽学科を卒業後、第80回読売新人演奏会、京都音楽家クラブ新人演奏会に出演。2010年に渡欧し、オーストリア ウィーン国立音楽大学にてゲオルク・ハーマン氏に師事。2016年交換留学生として奨学金を得てベルリン芸術大学大学院にて元ベルリン・フィル首席奏者ヴィルフリート・シュトレーレ氏に師事。2018年ウィーン国立音楽大学大学院を満場一致の最優秀で卒業。2020年よりノルウェー トロンハイム交響楽団ヴィオラ奏者。スウェーデン ヨーテボリ交響楽団契約団員を経て、2024年にはノルウェー国立歌劇場管弦楽団にて契約団員としても活動。

——公演のない日は何をして過ごしていますか? やはり自主練習が多いのでしょうか。

永野 自主練習はします。でも、一日中練習しているわけではありません。スウェーデンに来てから運動が大事だと気づいたので、ジムに行ったりできるだけ運動するようにしています。

乾 私は休みの日に、次の週のプログラムの練習をしたり、友達の家に遊びに行ったりしています。一緒にパンを焼いたりもします。

——次の週の練習をするとなると、休みとはいえ働いているようなものですね。

乾 そうですね。私は楽器があると気になって、弾けるだけ弾いてしまうので、練習はホールでして、家では弾かないと分けるようにしています。

永野 私もそうしています。

——オンとオフを切り替えるために、練習場所を分けているんですね。

永野さんが所属するオーケストラの本拠地、イェブレ・コンサートホール
練習室の様子

夏休みや病欠は? 驚きの休暇事情

——有給休暇についても教えてください。普段の週3日くらいの休みとは別に、まとまった夏休みもあるんですよね。

永野 夏休みは、みんな同じ期間にまとめて取ります。私のところは6月半ばから8月の初めくらいまでです。

乾 私のところもまったく同じです。

——2か月弱あるんですね。その間も給料は支払われるのでしょうか。

永野 そうです。しかも、夏休みボーナスもあります。夏休みに使っていいよ、という感じで、休みの前に支給されます。

——夏休みボーナス!!

永野 そんなに大きな金額ではないですが、休めるうえにお金ももらえるんだ、とびっくりしました(笑)。

——それ以外に、普段、休みたいときはどうやって取得するのでしょうか。

永野 無給の休みを申請します。例えば、ほかのオーケストラで働きたい、室内楽のコンサートがある、オーディションを受ける、ほかのオーケストラの試用期間がある、といった理由が必要です。

活動の内容や時期によっては、休みをもらえないこともあります。どのくらい無給休暇を取得できるかは、オーケストラによってもかなり違います。意外と厳しいので、理由をきちんと説明して申請します。

乾 私も同じ感覚です。きちんと理由を説明しないと、休みをもらえないことがあります。ただ、私のところは有給休暇が年に2週間あります。

最近いいなと思ったのは、引っ越しのための休暇です。1日だけですが、引っ越しする日に休みをもらえる制度があって、ついこの間、私も引っ越しで利用しました。

——風邪をひいたときは、どういう扱いになるのでしょうか。

永野 スウェーデンでは、病欠の1日目は無給で、2日目から給料の80%が支払われます。そのため、少し無理をしてでも、とりあえず仕事に行こうとする人が結構いるようです。

乾 ノルウェーは病欠でも給料が100%支払われます。なので、スウェーデンのオーケストラの人のほうが、休まずに働こうとする傾向があるのかもしれません。私のところでは風邪をひいたら、ほかの人にうつさないように休む人も多いです。

ほかにも、子どもが病気になったときに休める制度もあります。子どもが2人までなら年10日、3人以上なら15日というように、子どもの人数によって日数が変わります。私の同僚もよく使っていて、夫婦ともに働いている場合が多いので、子どもが熱を出したら、どちらが仕事を休むかという話になりますね。

——休暇を申請するとき、周りに気を使うことはありますか。

永野 日本のオーケストラの感覚はよくわからないのですが、おそらく日本よりは気を使わないと思います。長期で休む場合は、まず自分のセクションと話してから上司に申請します。1週間くらい休むだけなら、セクションに相談せず、上司に書類を提出することもあります。

乾 私も、休むときに「ごめんなさい」という感覚はあまりないですね。

私のオーケストラでは、誰かが弾けなくなったときのために、スタンバイの制度があります。常に1〜2人がスタンバイしていて、休む人が出たら代わりに弾きます。大きな編成のときなど、スタンバイの人がいない場合は、地元のフリーランスの人に来てもらいます。

以前、私が長期で休んだときには、代わりに入ったフリーランスの人から「契約をもらえた、ありがとう」と言われたこともありました。

永野 風邪であっても、何であっても、「休みます。よろしく」という雰囲気ですね。

乾 「ご迷惑をおかけします」という感覚は、あまりないと思います。

フィーカの時間に団員とコミュニケーション

——北欧といえば、スウェーデンの「フィーカ」も有名です。オーケストラにもフィーカがあると伺ったのですが、どのような時間なのでしょうか。

永野 フィーカというのは、コーヒーやお茶を飲みながら、小さなお菓子を食べて話す時間のことです。

リハーサルの合間の休憩時間がフィーカの時間です。オーケストラの休憩場所には無料のコーヒーマシンとお茶が常備されているので、休憩になると、みんなそこに集まってコーヒーを飲みながら話しています。

乾 ノルウェーでも、リハーサルの休憩時間は、基本的にコーヒーブレイクという感じです。食堂にコーヒーマシンやお茶があるので、集まってコーヒーを飲んだり、お菓子を食べたりしています。

誕生日の人が、食堂の料理を作ってくれる人にケーキを注文するシステムもあります。「今日、誕生日だから」と注文しておくと、食堂にケーキがあるんです。

——誕生日の人が自分で注文するんですね。

乾 そうです。私のところでは、ケーキを買ってきたり、作ってきたりする人もいます。

永野 フィーカはただのコーヒーブレイクなのですが、スウェーデン語でちゃんと名前をつけて、この時間を大事にしようという意識がすごくある気がします。

スウェーデン語を習い始めたときにも、「フィーカが一番大事な単語だからね」と言われました(笑)。

乾さんが所属するオーケストラの開演前の様子。それぞれウォームアップしたり隣の人と話したりしているそう。

——フィーカの時間には、どんな話をするのでしょうか。

永野 いろいろな話をします。ただ、同僚同士では、あまり突っ込んだ話をしないように気をつけている感じがあります。

セクハラやモラハラ、パワハラなどに対してすごく敏感ですし、見た目の話も絶対にしません。プライベートな話も、本人が自分から話し始めたら聞きますが、こちらから質問することはあまりありません。お互いに、自分から話したことを聞いてもらうという感じです。

乾 それはスウェーデンらしいと思います。私もスウェーデンで2年半ほど働いたことがあるのですが、ノルウェーの人は、いい意味でもっと正直で、距離が近い感じがします。もちろん人によりますが、プライベートな話も結構しますね。

——フィーカを通じて、普段あまり話さない人と話せたり、オーケストラの雰囲気がよくなったりすることはありますか。

永野 コミュニケーションの場になっていると思います。約束して会うわけではないので、普段の生活では話さない人と話す機会になります。

乾 何時間も一緒に働いていても、演奏中は音でしかコミュニケーションを取らないので、休憩時間に話して仲良くなるのは大事ですね。

年齢や経験に関係なく発言! 伝え方には配慮も

——次に、人間関係について伺いたいと思います。年齢や経験年数による上下関係はありますか。

永野 全然ないです。年配の方が、自分は年上だからという態度を取るのを見たことがありません。

乾 私も、働き始めて衝撃だったのはそこかもしれません。一番若くて新しく入った立場でも、意見を言ってはいけない、何かをしてはいけないということがありませんでした。

どの人も「詩織はどう思う?」という感じで接してくれます。自分の意見を言うと、むしろ「ありがとう」と言ってくれることもあります。どう思っているかわからないから、言ってほしいという感じですね。

——指揮者やコンサートマスターとの距離感はどうですか。

永野 それもかなりフランクだと思います。

もちろん指揮者がリーダーではありますが、指揮者には言えない、コンサートマスターだから言わないでおこうということは、あまりないと思います。指揮者も含めてみんな平等で、お互いに意見を言います。

——意見が食い違ったときは、どうやって収まるのでしょうか。

乾 そういうときは、指揮者の意見を聞くことが多いですね。最終的には指揮者が決断します。

永野 意見を言う人が多すぎて、練習が進まないこともあります。まだ話すのか、と思うこともありますね(笑)。

——空気を読んで黙る場面もありますか?

乾 ミーティングのときなどは、思っていることがあっても、ぶつかり合うことを嫌う人が多いように思います。意見を伝えるときも、優しく伝える人が多いですね。

永野 スウェーデンでも、「それは違うんじゃない」と直接否定するより、「私はこう思うけれど」という言い方をすることが多いと思います。相手を否定するのではなく、自分の意見を示す。お互いに尊重し合っている感じがします。

トロンハイム交響楽団が定期的にコンサートをするニーダロス大聖堂。街のシンボルでもあるノルウェー最大の教会です。

海外のオーケストラを目指す人へ

——海外のオーケストラで働くことに興味がある方に向けて、アドバイスを伺いたいと思います。これから北欧や海外のオーケストラを目指すなら、学生時代に何をしておくとよいでしょうか。

永野 やはり、留学して現地に住みながらオーディションを受けるのが、一番やりやすいと思います。オーディションに一度で受かる人はなかなかいません。みんな何度も受けるので、ヨーロッパに自分の拠点を一つ持って、そこからいろいろな場所に行き、オーディションを受けるのがいいと思います。

それから、一つひとつの結果に左右されすぎないことです。ほとんどの人は何度も落ちます。もちろん、自分がうまくいかなかった部分もあると思いますが、それ以外の要素もいろいろありますし、運の要素もかなり強いです。自分が目指すところに行けるまで、小さなことを気にしすぎず、ひたすら受け続けることが大切だと思います。

乾 私ができていないからこそ言いたいのですが、行きたい国や町があるなら、その国の言語をあらかじめ勉強しておくことです。本当にそこに住みたいのであれば、行ってからでも勉強できますが、早ければ早いほうがいいと思います。言葉ができるかどうかで、現地の人との距離感が全然変わります。

北欧の人たちは英語が上手なので、北欧に行きたいなら、まず英語を基本として身につけて、さらにその国の言葉を学ぶことが大事だと思います。

——オーディションを受けるときに、知っておきたかったことはありますか。

永野 オーディションに受かったら終わりではない、ということですね。一つのポジションに対して3〜4人合格することがあり、合格者でさらに一つのポジションを競うことがあります。そこでポジションを得ても、1年間の試用期間があります。その期間中に落ちる人も結構いるんです。知っておいたからといってオーディションに有利になるわけではありませんが、心構えはできたと思います。

乾 オーディションを受けるときだけでなく、受かったあとのことを考えるのも大事ですね。試用期間では人柄も見られます。ステージ上での振る舞いやコミュニケーションなど、オーディションで演奏技術を見せるだけでは伝わらない部分も見られています。

特に北欧のオーケストラでは、人柄をよく見られていると感じます。実際に試用期間中にそれを強く感じました。

永野 試用期間中は、その国の言葉を話せなくても、学びたいという姿勢を見せると喜ばれると思います。最初はできなくて当たり前だと、みんなわかっています。ただ、技術が同じだった場合、そうした姿勢が判断に影響する可能性はあると思います。

ポッドキャストの視聴はこちら

永野さんの出演情報
北欧とフランク

日時: 2026年12月19日(土)14:00 開演

会場: 加賀町ホール

出演: 田代裕貴、永野花穂(ヴァイオリン)、正田響子(ヴィオラ)、築地杏里(チェロ)、久保山菜摘(ピアノ)

曲目: デンマーク弦楽四重奏団 編/Wood Works 北欧の民謡より抜粋(弦楽四重奏曲)

グリーグ/ヴァイオリンソナタ第2番ト長調作品13(久保山・永野)

フランク/ピアノ五重奏曲ヘ短調 作品14

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