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2026.09.17
海外クラシックNEWS~from スイス

ルツェルン音楽祭2026が開幕 シャイー、マケラ、バルトリ等が新たな顔を見せる

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回はスイスの音楽シーンから、8月のルツェルン音楽祭のもようをお届けします。

中 東生
中 東生 音楽ジャーナリスト

東京藝術大学、ミラノ·ヴェルディ音楽院、チューリッヒ音楽大学大学院、スイス国立オペラスタジオを経て、スイス連邦認定オペラ歌手となるが、声域の変更に伴い廃業。環境ビジネ...

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

ルツェルン音楽祭の開幕公演「序曲」から。リッカルド・シャイー指揮ルツェルン祝祭管、ピアノはフランク・デュプレー © Patrick Hürlimann, Priska Ketterer / Lucerne Festival

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ルツェルン音楽祭が、セバスティアン・ノルドマン新総裁の企画である「序曲」と題した無料公演で、8月13日に開幕した。公開リハーサルの様相で、リッカルド・シャイー以下ルツェルン祝祭管弦楽団の楽団員は普段着だったが、それがまた親近感を抱かせる。

プログラムも、スティーヴ・ライヒ《ニューヨーク・カウンターポイント》のあとはガーシュウィン《キューバ序曲》、バーンスタイン《ウェスト・サイド・ストーリー》から〈マンボ〉と楽しめるプログラムだったのは、今年のテーマが「アメリカン・ドリーム」だからだ。シャイーはこのところ、これらのレパートリーを各地で披露しているといい、彼の新たな顔が見られる。

続いて会場のルツェルン・カルチャー・コングレスセンター(KKL)前に設置された野外ステージで、ハバナ・リセウム・オーケストラとベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のホルン奏者、サラ・ウィリスがラテン調のモーツァルトや《カルメン》等、キューバ音楽を奏で、踊り出す聴衆も多くいて、熱いオープニングとなった。

15日は今年のアーティスト・エトワール、アウグスティン・ハーデリヒが登場、クラウス・マケラ指揮の祝祭管とバーバー「ヴァイオリン協奏曲」を研ぎ澄まされた音で奏で、まるでおとぎ話の世界のような共演だった。

2年前にアメリカの永住権も取ったというハーデリヒが愛情を込めて紡ぎ出す音に、マケラが応える様子が室内楽のように精緻だ。アンコールもアーヴィン・T・ラウズ《オレンジ・ブロッサム・スペシャル》で、アメリカンな選曲だった。

後半はストラヴィンスキー《火の鳥》を熱演し、マケラは何度も聴衆に呼び戻された。

8月17日はダニエル・バレンボイムが指揮するウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団が、ヨーヨー・マとドヴォルジャーク「チェロ協奏曲」で匠の共演を聴かせた。後半はシューマン「交響曲第3番《ライン》」で若々しさも見せた。

8月23日にはコンポーザー・セミナーが6人の若手作曲家に委嘱した作品を、6曲一斉に世界初演した。このセミナーはピエール・ブーレーズが始めた現代曲アカデミーを基礎に、2016年にヴォルフガング・リームが立ち上げたもので、今年は4人の若手指揮者も招かれた。

作曲家同席の下、今年も110人が参加するルツェルン祝祭現代管弦楽団と創り上げた音が、歓びに満ちて生まれ出た。今年は日本人の参加者も多く、ヴァイオリンの伊勢宥奈、ヴィオラの布施海里、チェロの蕨野真美、フルートの矢島雄太郎、テューバの山本蒼太、ピアノの船橋佑花らが生き生きと演奏。日本の音楽界を支えていく次世代が、世界の現代音楽の第一線を学ぶ姿に頼もしさを感じた。

チェチーリア・バルトリの、涙を誘う《オルフェオとエウリディーチェ》

チェチーリア・バルトリ © Peter Fischli / Lucerne Festival
観客の拍手に応えるチェチーリア・バルトリ。今年還暦(60歳)を迎えた© Peter Fischli / Lucerne Festival

夜には当音楽祭の人気者、チェチーリア・バルトリがグルック《オルフェオとエウリディーチェ》で聴衆を喜ばせた。このプロダクションは、ザルツブルクからウィーンを回り、以前はチューリヒ・トーンハレでも見たが、その時よりも音楽的により深くなっていた。

暗くなった舞台にエウリディーチェ役のメリッサ・プティ(アモーレ役も兼任)が横たわり、蝋燭のような灯りを持ったモンテカルロ歌劇場合唱団が登場するだけで舞台装置ができあがる。そして彼らの歌により情景が描かれるため、字幕は必須、とバルトリは語る。

今年還暦を迎えた彼女はKKLを満たすほどの声量はないが、代わりに弱声はどんどん研ぎ澄まされ、涙を誘う。それに、ジャンルカ・カプアーノが指揮するピリオド楽器オーケストラ「モナコ公の音楽家たち」がそっと寄り添う。今回は歌詞を歌わずに叫ぶような部分も複数見られ、魂の震えを歌っていると実感させた。

有名なオルフェオのアリア〈エウリディーチェを失って〉は、いつもバルトリは超速で歌うのが残念なのだが、今回は繰り返し部分でしっとりと絶望感を表現したため、ここでも涙が込み上げる。

終演後、楽屋へ行くと、バルトリの御母堂も涙を溜めており、バルトリも「ほんとうに良い音楽」といって、まるでオルフェオとエウリディーチェの葬送に参列した人のようだった。この音楽的共感力が好演の理由だろう。

中 東生
中 東生 音楽ジャーナリスト

東京藝術大学、ミラノ·ヴェルディ音楽院、チューリッヒ音楽大学大学院、スイス国立オペラスタジオを経て、スイス連邦認定オペラ歌手となるが、声域の変更に伴い廃業。環境ビジネ...

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