レポート
2026.08.13
海外クラシックNEWS~from フランス

フィルハーモニー・ド・パリの今シーズンが、ペルトコスキとマケラで華やかに閉幕

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回は6月のフランスの音楽シーンから、フィルハーモニー・ド・パリで行われた2つのコンサートのもようをお届けします。

取材・文
三光 洋 Hiroshi Sanko
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三光 洋 Hiroshi Sanko

1961年生まれ、兵庫県神戸市出身。1986年渡仏。パリ第8大学でベアトリス・ディディエ、パリ国立高等音楽院=高等師範=トゥール大学合同音楽学課程でデイヴィッド・チャ...

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番」を共演後のアレクサンドル・カントロフ(中央左)とタルモ・ペルトコスキ(中央右)© 三光 洋

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ペルトコスキ&トゥールーズ・キャピトル国立管 日本ツアーへ発つ直前の舞台

2025/26シーズン末のフィルハーモニー・ド・パリには、フィンランドの優れた教授ヨルマ・パヌラ門下の若手二人があいついで指揮台に立った。

26歳のタルモ・ペルトコスキは2024年からトゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の音楽監督を務めている。本拠地トゥールーズの演奏に続いたパリ公演は、成功裡に終わった日本ツアーへ出発する直前の6月2日に行われた。

前半はアレクサンドル・カントロフを迎えてのベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番」ト長調だった。冒頭の第1主題から、カントロフのピアノは、ソロ楽器の即興性から生まれる華やかさと、作曲家が曲に託した心情を音に込めた内省的な側面の双方を兼ね備えていた。その印象は全3楽章を通じて変わらなかったが、この二面性が実現された大きな要因はピアノ独奏を最大限に尊重した指揮にあった。

自身もピアニストであるペルトコスキは、オーケストラを常に安定したテンポに保つことにより、ソリストの自由を最大限に広げた。阿吽の呼吸によって、苛烈さと優しい抒情が鮮やかに音となって広がっていった。この間、一度としてピアニストのほうに視線を向けなかったことは、この指揮者の耳が破格であることの証左であろう。

カントロフの演奏そのものが、1台の楽器というよりもオーケストラを思わせるだけに、この組み合わせによって、ベートーヴェンがこの曲に明快に打ち出した「交響作品」という特徴が際立って感じられた。聴き手は、あたかもピアノを伴った交響的幻想曲を前にしているような気持ちにひたされた。

カントロフは現役ピアニストのなかでも傑出したテクニックの持ち主だが、テクニックがあくまでも表現のための手段となっているので、聴いていて鼻につかない。そして彼の手にかかると、曲想は常に自然に流れていく。5曲ある楽聖のピアノ協奏曲のなかで、もっともインティメートな作品が、彼の気性にいちばんピッタリしているのかもしれない。

アンコールは夢を見ているかのようなブラームス「3つの間奏曲」作品117から「第1番」変ホ長調、次いで音符が自在に飛翔するかのようなスクリャービン《焔に向かって》だった。

後半のマーラー「交響曲第6番《悲劇的》」イ短調では、第1楽章の行進曲を思わせる冒頭から、弦楽器の音量を抑えめにして、全4楽章を通じて感情を抑制した演奏となった。音色の多彩さと細部に留意した指揮によって、トゥールーズ・キャピトル国立管の華やかな管楽器群のソロが前面に出た。

前半の一部において緊迫感がやや低下した箇所があったにせよ、第3楽章アンダンテから第4楽章フィナーレにかけてのドラマの高揚感は誰にも抗しがたかった。指揮者に対する団員の信頼は絶大で、壮大な曲が終わると、観客に負けない拍手が舞台の上に湧き上がった。

パリ管がマケラ指揮、ファウストの独奏で28年ぶりにシューマン「ヴァイオリン協奏曲」

マケラ指揮パリ管、ファウスト© 三光 洋(vn)
シューマン「ヴァイオリン協奏曲」が終わって、拍手に応えるイザベル・ファウスト(中央左)とクラウス・マケラ(中央右)© 三光 洋

6月10日には、パリで圧倒的な人気を誇るクラウス・マケラパリ管弦楽団を指揮した。

シューマン「ヴァイオリン協奏曲」ニ短調は名ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムのために1853年秋に一気に書かれた。しかし、ヨアヒムが「弾くのが難しく、舞台映えしない」という理由を挙げて演奏しなかっただけでなく、総譜の出版も差し止めてしまった。作曲家は生前に耳にすることができず、初演されたのはナチス時代の1937年になってからといういわくつきの作品である。パリ管が取り上げるのも、1998年以来28年ぶりの2度目で、きわめてまれだ。

イザベル・ファウストは楽譜を見つめながら、細やかな感受性を反映したよどみのない輝きのある演奏により、高貴なシューマンの世界へと聴き手を導いてくれた。マケラの指揮も優しくソリストを包み込む繊細なものだった。

最後の幻想序曲《ロメオとジュリエット》は、シェイクスピア劇の数場面をチャイコフスキーが卓越したドラマ感覚により音にしている。リムスキー=コルサコフが「ロシア音楽でもっとも美しい」と絶賛した、コールアングレとヴィオラによる「愛の主題」はとくに名高い。エネルギーの横溢したマケラの指揮に鼓舞されて一体となったパリ管の奏者たちによって、二人の恋人たちの燃え上がる情念がほとばしり、華やいだシーズン閉幕となった。

取材・文
三光 洋 Hiroshi Sanko
取材・文
三光 洋 Hiroshi Sanko

1961年生まれ、兵庫県神戸市出身。1986年渡仏。パリ第8大学でベアトリス・ディディエ、パリ国立高等音楽院=高等師範=トゥール大学合同音楽学課程でデイヴィッド・チャ...

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