
角野隼斗がオーロラ管とヨーロッパ・ツアー 幸福感全開の《ラプソディ・イン・ブルー》

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回はスイスの4月の音楽シーンから、コンサートとオペラをレポートします。
ドイツ、オランダ、オーストリアを回ってスイスに入ったオーロラ管弦楽団(2004年設立、ロンドンに本拠を置く室内オーケストラ)のヨーロッパ・ツアーを、4月28日にチューリヒのトーンハレで聴いた。ニコラス・コロンの指揮で、最初の曲であるジョン・アダムズ《速い機械の短い旅》からエネルギーにあふれていた。
そして登場したピアニストの角野隼斗は、幸福感全開でガーシュウィン《ラプソディ・イン・ブルー》を弾ききった。ソリストとして持ち上げられるのではなく、オーケストラと全員で、音楽とリズムの波乗りをしているように弾き、ピアノがかき消されたり、タイミングがずれたりしてもおかまいなし。ただその高揚感が会場を満足の洪水に巻き込んだ。アンコールに応えて、角野が自身のアレンジとアナウンスして、ガーシュウィン《アイ・ガット・リズム》とヒナステラを弾いた。
これが今宵の頂点だろうと誰もが思ったであろうが、後半のストラヴィンスキー《春の祭典》も、立奏で立体感のある挑戦的なアプローチを聴かせ、暗譜で振ったコロンの腕前やオーケストラの集中力を改めて認識させた。
休憩中のサイン会では長蛇の列をなすファンに対応し、後半中はピアノの練習をしていた角野を終演後に訪ねた。幸福感に満ちていたわけは、「音響のすばらしさ」だそうだ。以前のリサイタルで体験済みのホールなのだが、「最初のクラリネット・ソロの響きの美しさでテンションが上がり、幸せに満ちて弾けた」と言う。「日本でもこのオーロラ管のように、オープンマインドでアイディアが柔軟なオーケストラと演奏できるといい」と熱いリクエストを受けた。日本でこんな角野の演奏が聴ける機会を期待する。
レア・デサンドレのセスト役に喝采 チューリヒ歌劇場《皇帝ティートの慈悲》

4月26日にチューリヒ歌劇場でプレミエを迎えたモーツァルト《皇帝ティートの慈悲》は、マルク・ミンコフスキの指揮と、現在注目度が急上昇しているサモア出身のテノール、ペネ・パティの題名役に期待が集まっていたが、実際はセスト役のレア・デサンドレが主役のオペラのようだった。
ミンコフスキは登場してすぐにタクトを振り下ろしたせいか、落ち着きのないテンポで序曲を導いたが、音色は美しく研ぎ澄まされていた。ヴィテッリア役のマルゴー・ポゲは華のある声と容姿ですぐに観客を惹きつけるが、少々ヒステリックだ。
セスト役のレア・デサンドレは細身が生きて、男装が似合う。ヴィテッリアに圧される弱さが強調されているが、音楽的には完璧だ。アンニオとのデュエットではミンコフスキの音楽運びが光ったうえ、アリアでの、自然で心から表現する歌唱に、会場からは熱狂的な拍手が湧き上がった。
ペネ・パティはみずみずしい美声だが、高音が上手に頭部に抜け過ぎて目立たない。しかしモーツァルトには向いている。
ラ・シンティッラ管弦楽団の演奏も引き立ち、当楽団で数々の名演奏を聴かせ続けているクラリネットのロバート・ピックアップ、通奏低音のエンリコ・マリア・カッチャーリがすばらしかった。ダミアーノ・ミキエレットの演出には不可解な点も多く、慈悲が仇となる幕切れも不満だ。しかし音楽的には大満足だった。
ほかには、4月28日にマティアス・シュルツ総裁がピアニストを務めミヒャエル・フォレが歌う、シューベルト《冬の旅》を聴いた。フォレが座って歌う姿に心を痛めたが、劇場は沸いた。ジャナンドレア・ノセダが指揮したプロコフィエフ「《ロメオとジュリエット》組曲」も、まさしくノセダの得意とするロシア音楽が光った。





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