インタビュー
2026.07.26
特集「楽器リスタート入門」

チャラン・ポ・ランタンの小春が語る、「531台を一晩で売った!」自由度が高いアコーディオンの魅力

YouTubeチャンネル「蛇腹談義」が人気を集めている、唄とアコーディオンの姉妹ユニット「チャラン・ポ・ランタン」の小春さん。アコーディオンの世界ってどんな世界なんだろう……そのヒミツを探るべく、アコーディオン奏者の小春さんにお話しを伺いました。
アコーディオンに巡り合った幼少期のエピソードが語られた前編に続き、後編は、アコーディオンを始めたい人たちへの具体的なアドバイスが満載です!

ONTOMO編集部
ONTOMO編集部

東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

写真:蓮見徹
聞き手:川上哲朗(編集部)

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「正解がない」という自由

——アコーディオンには、楽譜はあるんでしょうか?

小春 アコーディオンはメロディが書いてあって、その上に、左手で弾く和音を記すコード記号が書いてあれば演奏できます。

──小春さんは、初心者向けの企画をYouTubeで発信していらっしゃいますが、初心者に教えるときは楽譜を使いますか?

小春 私自身、アコーディオンの新曲もリリースしているので「楽譜を出版してください」と言われることがありますね。

アコーディオンを始める前にピアノを習っていたという方は多いので、時間をかければ楽譜を読める方は割といます。ほしい譜面がありましたら、私が作ってもいいですよ。そういう話じゃないか(笑)。

──それは読者の方も喜びますよ! クラシック音楽の世界だと「この指使い、これが正解」みたいなのが存在すると思うのですが、アコーディオンはどうですか?

小春  私は、弾けるようになるまでの間、鍵盤式アコーディオンの先生から教わっている時間がかなり長かったんです。最初に通った教室(サークル)の先生も鍵盤式のアコーディオンでしたし、その後、中学生、高校生のときに習っていた先生も、その後に個人的に習っていたアコーディオン奏者の佐藤芳明さんも鍵盤式でした。

実は、ボタン式アコーディオンは習っていないんです。20歳ぐらいのときにアコーディオンの世界大会に出たのですが、審査員に「あなたの指使いがすごい変だけど……誰から教わったの?」ときかれ、「私」と言ってしまいました(笑)。審査員としては、「大会に出場しているぐらいだから、名前のある人から教えてもらっているんだろう」と思ったんだと思います。

──フランスやイタリアには、ボタン式アコーディオンの指使いのメソッドもありますよね。

小春 アコーディオンには2、3種類ぐらい指使いの種類があるらしいんです。ランドセルを反対に背負うみたいに楽器を縦に持って、ベルトを後ろに持っていって弾くんですが、人によってはベルトを低い位置にしたり、カントリーではすごく上の位置で持っている人もいます。そうすると、ポジションがだいぶ違うので指使いが変わってきます。

私は野外で演奏したり、ライブで回りながら弾いたり、走りながら弾いたりもするので、ガッチガチにボディがくっついているのが好きなんですよ。登山のリュックみたいに横にもベルトをつける。ボディ(楽器)が動いていないから、手が演奏中に離れてもまた戻ってこれるんです。

──ホールド感を高めているんですね。

小春 ピアノは、ピアノを弾く人の身体が持ち上がっても、ピアノ自体が動く(楽器の位置が変わる)ことはない。でも、アコーディオンはゆるゆるにつけていると、ポジションが動く。演奏したいと思っている音と違う場所にボディが動きます。そうすると、ボディを押さえるために親指を使わずに、残りの4本の指で弾く人がいるんです。

それと、お腹がぽっこりしていると楽器が上がってしまい、親指で押さえないと無理な人もいます……。

──体型や構え方によっても指使いが変わると。

小春 私は5本ともボタンを押すために指を使っているのですが、「親指はボディを押さえるのに徹している」という人もいます。結論から言うと、「好きなように弾ける」!

──自由でいいんですね。

小春 子どもの頃は、薬指と小指は他の指に比べると短くて弱いし、なるべく使いたくなくて、親指、人差し指、中指の3つを主に使う指使いになっていました。

もし今、私が譜面を作って指番号を記載したら、「なんでこんな指使いなんですか?」と他のプレイヤーから怒られそうな気がする(笑)。そもそも、私の弾き方が変かもしれない。でもね、「弾けたら別にそれでいいじゃん」という話です。

YouTubeでアコーディオンを教える動画をアップしていて、「指使いの番号を教えてください」と言われます。初心者は正解が知りたい。でも、その人が弾きやすい指でよいと思います。逆を返せば、自由度が高い。動画では、上下反対に楽器を構えている人もいましたから! 「弾けちゃえばいいのでは?」という感じです。

アカデミックではないこその魅力

──アコーディオンだけが自由度が高いのではなく、他の楽器も自由度は高いはずなのに、「先生」という存在によって正解を求めてしまうものでしょうか。

小春 趣味で始めるときは正解を知りたいから、先生に「この指使いがいいよ」と言われたら、その先生の言うとおりに練習したいという気持ちはあるのでしょう。でも、「私の場合はこうですが、世の中的には違うかも」としか私は言えないんです。私が「これが正解です」と言ったら、私のメソッドができあがって、もしかしたら世の中でもまかり通ってしまうかもしれない。

──アコーディオン大国のフランスにおいても、パリ国立高等音楽院にアコーディオン科ができたのは2002年。アカデミックな場でアコーディオンを体系的に教えるという歴史はまだ短いです。何百年にもわたって音楽院に専攻が存在する楽器とは異なり、アコーディオンにはいろいろなジャンルの音楽を追求できる自由度がまだ残っているということでしょうか。

小春  ヨーロッパのアコーディオン初心者向け教本では、座って演奏するポジションの説明がイラスト付きで載っています。でも、蛇腹が膝の上に乗っていると、蛇腹を閉じるときに服や足を挟んでしまいやすいです。蛇腹の動きが音量の変化に響く構造なので、「膝の上に蛇腹がないほうがいいと思って、私は立って演奏していることが多いです。蛇腹が滑らかに開いたり閉じたりすることによって、音も滑らかになります。

──座って弾く教本では、どういう姿勢が基本になっているのでしょうか?

小春 座って弾く人は、蛇腹の位置をちょっと左にずらしています。右手が身体の真ん中にくるので、右肩のベルトは長くなっているんです。おそらく、世界規模で「基本のキ」みたいなポジションがこうなっています。

でも、私は立って演奏するので、右が長いと変なんです。片方が長いベルトで背負うリュックって肩が凝りそうでしょう? 一番よいポジションで演奏したいので、左右が均等になりました。私の演奏は、いつも楽器が身体の真ん中です。

──立って演奏するためのベストな位置を、自分で見つけたんですね。

小春 私の動画を見た人たちは、彼らは座って弾くのに私と同じように真ん中で弾くようになっちゃったんです。結構、危機感を感じています(笑)。蛇腹を閉じるときに、おそらく足が邪魔だと思うんです。

──小春さんが座って弾く場合、ベルトは片方を伸ばしますか?

小春 この間、ステージで座って弾いたときはどうやって弾いていたんだろう……。おそらく、長く座って弾くポジションになっていたら、片方のベルトを伸ばすと思います。

──基本的に、蛇腹は干渉されたくないということですね。

小春 干渉しても、うまくいけばいいんです。私の著書『アコーディオン弾きと小さい死神』に載っている子どもの頃の写真は、足を開いていましたね。蛇腹と一緒に足を開いて閉じてとすればいいと思います。

私は教える人間ではないんですが、みんなが「教えて」と言うから、変な答え方をしていると、変なデフォルトを作りそうで……気をつけないといけないですね。

自らプロデュースした楽器を一晩で531台で売り切る

──大人になってからアコーディオンを始めたい人たちのために、小春さんがプロデュースされた“伝説の楽器”があるそうですね。

小春 チャラン・ポ・ランタンがきっかけでアコーディオンを知ってくださる人たちが一定数いて、「始めてみたいんだけど、手頃な値段で売っているところがなくて、なかなか手を出せない」というメッセージをいただくことが多かったんです。

アコーディオンはどんどん値上がりしていて、楽器屋さんで売っている一番安いものでも30〜40万円くらいします。「手頃なものをこちらで探して販売できたらいいな」と思っていたんですが、当時の事務所に相談したら「リスクがありすぎる」と言われてしまって。「そうか、ダメか」と思っているうちにコロナ禍になりました。

コロナ禍は時間があったので、アコーディオン(蛇腹)の話ばかりする「蛇腹談義」という動画をYouTubeに載せるようになったら、いろいろな人にアコーディオンを知ってもらえるきっかけにつながりました。知ってもらうための動画を載せるうちにどんどん視聴者も増えて、本当によい暇つぶしができました。その暇つぶしがとてもうまくいったんです。

チャラン・ポ・ランタンYouTubeチャンネルのプレイリスト「蛇腹談義」

その頃、「独立をしようかな」と考えていました。「独立するなら、やりたかったことをやろう」と、アコーディオンを販売することに決めたんです。独立して2週間後くらいで工場に行って、「この楽器がいいのでは?」というものを買ってきて、私の好きな色にカスタマイズしてもらって、受注販売を始めました。

「50台くらい売れたら本当にすごいよね。100台なんていったら神と呼んでくれ」という話を、販売前日の配信で笑いながら話していたら、予約販売を開始した日に、たった一晩で531台の予約が入りました。

──531台!

小春 「ウェブサイトのカートが壊れているだけ」なんて言って、全然焦っていませんでした。海外仕様のサイトだったので、「なんて書いてある?」「ゼロの読み方を間違えているんじゃない?」と思っていました。自分たちでは50台のつもりで検品スケジュールを組んでいたので、531台を2年かけて検品するという……商売としては大問題なお待たせ期間になってしまったんですが、本当に皆さんありがとうございました。

この先は、ぜひ本を読んでいただいて、全部はバラさないでおきます(笑)。

一晩で531台売れた伝説のアコーディオンを弾く小春さんによる高速指さばきにただただ圧倒される

──小春さんの動画を見てアコーディオンに興味をもって「よし、これはほしい!」と思って買った人たちがたくさんいると思います。

小春 そうですね。続けていくのもなかなか難しいじゃないですか。こちらも子どもが生まれて、「蛇腹談義」の更新が滞ってしまい……「みなさんが続かなかったとしたら私のせいでもある」と言おうと思いましたが、とにかく自分で練習すればいいんです(笑)。とは言いつつ、こちらの発信が滞ると皆さんの練習も滞ると思うので、再開できたらなと思っています。買ってくれた人たちとは「運命共同体」のような関係です。

──アコーディオンの初心者に向けて、どんな活動をされていますか?

小春 動画を出すことは、初心者の方にとってサポートになるかもしれないですね。

一晩で531台のアコーディオンが売れたのが9月18日。つまり、531人の新たなアコーディオン・プレイヤーを生んだ日なんです。それを記念して毎年、1年に1回、蛇腹にまつわるイベントをやっています。そのイベントでは、質問を直接受け付けて、「わからないところがあったら目の前で答えていく」という企画をやったり、みんなで合奏したりしています。

──小春さんのように1人で黙々と練習できる人ばかりではないと思うので、そういう催しでみんなで集まるとモチベーションになりますね。

小春 そうかもしれないですね。

531台売れたことを記念して、チャラン・ポ・ランタンの事務所「ゲシュタルトルーム」の壁に飾られている「531」

目標は、この世を去った50年後に自分の音楽が世界のどこかで流行ること

小春 チャラン・ポ・ランタンはアーティスト活動をしていくなかで、「売れたい」というような大きな目標を掲げずに、「生きることは歌うこと」という感じで、生活の一部として活動を続けてきました。気づけば今年で17年経ちました。

これといって何か目標があるわけでもないまま、よく17年もやれたなと思うんですけど、自分の環境が変わったり、若くもなくなったり、いつの間にか結婚して離婚したり(笑)、いろいろなことがありました。

数年前から、YouTubeの「蛇腹談義」で「アコーディオンってこんなに面白いよ」という発信をするようになってからは、自分がプレイするだけじゃなくて、私たちを見て音楽を始めてもらえたら、それも素晴らしいことだと思うようになりました。

私たちが音楽を始めたときも、誰かの音楽をカバーすることから始まりました。1曲目から作曲しよう、という人はいないんです。最初は誰でも誰かに憧れて、その曲を何かの楽器で弾いている。それが始まりだと思うんです。そのなかにチャラン・ポ・ランタンの曲があったらいいな、ということを、ここ数年、とても感じています。

私たちが昔から演奏しているカバー曲には、ロシア民謡やシャンソンなどいろいろな曲がありますが、その楽曲を作った作者は、とうの昔にこの世を去り、どんな人だったかも知らないし、ライブにも一度も行ったことがないけれど、ずっと長くその曲が弾き継がれている。

誰もモーツァルトに会ったことがないのに、「この曲やろうぜ!」と、まるで昨日コンサートに行ってそこで会った人が書いた曲かのように、みんな当たり前に演奏するじゃないですか。クラシック音楽の存在って、最高だと思うんです。自分はとっくに死んでいるのに、「モーツァルトがさ……」なんて言われるわけじゃないですか。すごいことですよね。

世の中にはいろいろな芸術がありますが、音楽が一番、自分が死んでからも広げてもらえたり、アレンジされて別の音楽として生き返ったりするものだと思うんです。私の周りには画家やアートの世界の人がいますが、音楽はそういった美術の世界とも違う「死後」を味わえるのではないかと。

──モノとして残るのではなく、誰かに演奏され続けることで生き返るということですね。

小春 そうです。譜面が残されている曲を、「おそらくこうやって弾いていたんだろうな」と別の人が生き返らせるという作業は、音楽ならではだと思います。その様子を、自分では見られないんですけど(笑)。モノとして残すという意味では、録音は残りますが、音源が残されていない時代の人たちもいますから。

今、自分の曲を誰かがカバーしてくれるのも嬉しいですが、私が目標にしているのは、自分の死後50年後に、全然違うアレンジで、まったく知らない国のオリンピックのテーマソングになっているような状態なんです。「これ、昔、日本人が作った曲らしいよ」「えっ、今めっちゃ流行ってる」みたいな、よくわからない感じで流行ってほしい。

ゲーム音楽だと思っていた曲が、実はその昔、海の向こうで生まれた音楽だった、ということは実際にあります。あの存在になりたい。50年後くらいに流行っているゲームに私の音楽が使われて、墓から出てきて、「ちょっとそれ、私の曲なんだけど」と言いに行きたい。それを目標にしています。

──かっこいい! 大作曲家や音楽家って、そうやって愛され続ける存在ですよね。では、50年後のオリンピックの開会式を飾っていただくということで(笑)。我々には確認できませんが。

小春 そうなんですよ(笑)。

楽器プロデュース第2弾!

──プロデュースしたアコーディオンを531台を販売されて、小春さんのおかげでアコーディオンの世界がどんどん広がっていると思いますが、またオリジナルの楽器を作るご予定はありますか?

小春 5年前のたった一晩しか販売していないので、この5年間ずっと「また販売してください」と言われ続けていました。でも、自分で輸入作業をするのはかなり大変で、腰が重かったんです。どうしたものかと思っていたのですが、私が531台を売ったという噂を聞きつけたアコーディオンメーカーから連絡がありました。

ドイツの老舗メーカー「HOHNER(ホーナー)」と、私のブランド「Bébé Medusa(ベベメデューサ)」がコラボした、手頃なアコーディオンを販売することになりました! 2026年9月から予約販売を始めます。

──素晴らしい!

小春  安くて、安心・安全ですよ。前回は、自分たちだけで本当に大変だったのですが、今回は、HOHNERさんが関わってくださいます。まだ日本に1台も来ていないスペックのものが、初のコラボとして日本へ渡ってくるんです。

──アコーディオン(蛇腹)のお話を聞いて「触ってみたい!」と思った方がたくさんいると思います。そんな方々の背中をそっと押すような一言をいただけますか。

小春 来年あたり始めようかな……」と思っているうちに、この1年でまたどんどん値上がりしますよ(笑)。皆さん、今のうちに買ったほうがいいです。どの楽器もそうですが、「始めたい」と思ったときが一番若いので、一番若いときに始めるのがいいんじゃないかなと思っています。

──今日が一番若い日ですからね。

小春 はい!

ポッドキャストの視聴はこちら【確認用動画を埋め込んでいます】

小春さんプロデュース「Bébé Medusa」第2弾となる、HOHNERとのコラボレーションモデル発売決定!

Bébé Medusa × HOHNER
NEW MODEL

「もっと気軽にアコーディオンを手にしてほしい。そして、未来のアコーディオン奏者が増えてほしい」という思いから誕生したボタンアコーディオン『Bébé Medusa』と、160年以上にわたりハーモニカやアコーディオンを作り続けてきたドイツの老舗楽器メーカー・HOHNER社のコラボレーションが実現しました。

2026年9月18日、「アコーディオン Bébé Medusaの日」に、抽選による予約販売を開始予定です。

モデルの仕様、価格、販売方法など、詳細はチャラン・ポ・ランタン、Bébé Medusa公式サイトおよび小春さんのSNS等で順次発表予定とのこと。ぜひチェックしてみてください!

2026年9月18日
抽選予約販売開始!(予定)

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