
ミラノ・スカラ座が戦災復興80周年記念公演、フェニーチェ劇場の次期音楽監督が白紙に

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回はイタリアの4月の音楽シーンから、主にオペラのレポートとニュースをお届けします。

東京生まれ。明治大学文学部を卒業後、1983年からイタリア在住、ピアチェンツァのG・ニコリーニ音楽院声楽科を卒業。30年以上前に『音楽の友』への執筆を始め、現在にいた...

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
トスカニーニ指揮で活動再開から80年 ミラノ・スカラ座が戦災復興記念コンサート
ミラノ・スカラ座は第二次世界大戦中の1943年、連合軍の爆撃で投下された爆弾が客席の真ん中に落ち、破壊されてしまった。終戦後すぐに再建工事が始まり、1946年5月11日、アルトゥーロ・トスカニーニ指揮のコンサートで正式に活動を再開したのだった。
それからちょうど80年、今年の5月11日にセルジョ・マッタレッラ大統領も臨席して記念コンサートが行われた。指揮は今期で音楽監督の職を退くリッカルド・シャイー、オーケストラと合唱に加えてテノールのフランチェスコ・メーリとバスのミケーレ・ペルトゥージが出演した。これは、同時に進行していたヴェルディ《ナブッコ》の準備と重なっていたため、それに出演予定の二人がこのコンサートにも参加したということだ。
プログラムもすべて《ナブッコ》からの曲で、まず「序曲」、続いて開幕の合唱、それに続くザッカリアのアリア、そして最後に有名な合唱〈行け、わが想いよ、黄金の翼に乗って〉。正直に言えばもう少しリッチなプログラムを期待していたのだが、どのような都合があったのか、シンプルな内容であった。80年前と比較するのもあまり意味がないだろうが、物足りない印象は残る。
この日はオペラの準備もすでにほとんど完了しており、あとはゲネプロと初日を待つのみとなっていたはずだが、初日の評判は必ずしも期待通りではなかったようだ。筆者は公演を観ていないが、ふだんは成功の保証人ともいえるペルトゥージさえ低調だったという。疲れか、それとも全盛期を過ぎたということなのか。真の主役は、このオペラ自体がほぼそうであるように、合唱だった。

フェニーチェ劇場がベアトリーチェ・ヴェネツィの音楽監督就任を撤回
ヴェネツィアのフェニーチェ劇場の次期音楽監督として今年10月から就任すると発表された指揮者のベアトリーチェ・ヴェネツィは、約7カ月続いた騒動の末、就任前に「解任」された。このことが各メディアによって報道されたのは4月26日のことだが、その7カ月前の人事発表のときから大きな波乱を呼んでいた。その始まりは、同劇場のオーケストラと合唱団が、ただちに「キャリア不足」としてヴェネツィの就任に反対の声明を出したことだった。
この声明は、人選を直接左右するものではないが、劇場とヴェネツィとの間にはすぐに険悪な空気が生まれた。ヴェネツィは「進歩を嫌う」、「男尊女卑」などと、オーケストラに対する批判を繰り返し、また定期会員の聴衆についても「80歳代がほとんど」などと発言して、若い聴衆からも批判された。ここまでは、音楽監督の指名権をもつニコラ・コラビアンキ総裁も彼女を擁護する姿勢を示していた。
しかし、4月末にアルゼンチンの新聞に彼女の「オーケストラの団員は(※筆者注:オーディションではなく)世襲で採用されている」という発言が掲載されると、コラビアンキ総裁はすぐに「事実に反し、攻撃的」と批判し、ここでついに音楽監督就任を撤回し、すでに予定されていた今後のコラボレーションすべてをキャンセルすると発表した。
このように就任発表から解任までの経緯を振り返ってみると、当初のオーケストラの抗議は純粋に「技術的な問題」であったはずが、ヴェネツィの反論では運営体制やはては聴衆への批判にまでおよび、両者に歩み寄りの可能性がまったく見られなかったことがわかる。ヴェネツィが抗議に対してすぐにけんか腰で対応したのがそもそもの誤りだったのではないか。「実力不足」といわれたのなら、「リハーサルと本番を通して実力を証明していきたい」ぐらいの答えをしておけば、成り行きはまったく違ったものになっていただろう。
しかし実際には、両者とも引くに引けない状況になってしまった。解任の報が伝わると、ワーグナー《ローエングリン》の公演を観に来ていた聴衆の間からは、拍手が湧き起こったという。かくて7カ月におよんだ騒動の幕引きとなった。そしていまのところ、次期音楽監督の名は発表されていない。
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