10代の天才プレイヤー現わる！ 甲田まひる a.k.a. Mappyの魅力

青々とした木々がまぶしい季節。この美しい新緑のように、フレッシュで輝きを放つ10代の女子高生が、今、ジャズシーンを賑わせている。その噂の女子プレイヤーとは……。

ジャズというと、大人が聴く音楽で、大人が演奏しているイメージがあるかもしれない。確かにピアニストのハンク・ジョーンズのように、90歳を過ぎてもステージに立ちつづけるミュージシャンも少なくない。歳を重ねれば重ねるほど、味があっていいという意見もある。

とはいえ、若手ミュージシャン達も、年々熱さを増しているように思う。テクニックもコンセプトもきちんとできあがっている若手ジャズバンドも増え、それこそ、10代ですぐに花開くアーティストもいる。

私の中で記憶に新しいのが、カナダ出身の女性ジャズ・シンガー、ニッキー・ヤノフスキー。彼女はなんと16歳で世界デビューを果たし、その後、国民的歌手に昇り詰めた。10代らしいキュートなルックスに加え、華やかな印象を持ち、色気のあるハスキーヴォイスが印象的。軽快な曲では歌を楽器のように自由自在に操り、聴く人々を魅了した。

そして、遂に日本にも10代の天才ジャズ・ピアニストが現われた。
先日17歳を迎えたばかりの甲田まひる。今、もっとも注目のミュージシャンである。

まだあどけなさが残るルックス。センスがキラリと光る個性的なファッション。彼女は既にモデルとして活躍しており、どこかで姿をご覧になったことがあるかもしれない。
幼少期からの愛称であるMappyという名で、中学生の頃からSNSを通じてファッションのトレンドリーダー、“ファッショニスタ”として活動。現在、インスタグラムのフォロワー数は、なんと世界に14万人以上もいるというのだから、その注目度、影響力は凄い。
人気の秘密は、唯一無二の存在感と常に主張を感じるファッション。個性的で次々と殻を破っていく彼女のスタイルに、同世代の女子は、特に強く憧れを抱くのだろう。

そんな彼女の才能は、ファッションだけに収まらず、音楽へも広がっている。5歳のとき、「右手と左手をバラバラに動かすのが面白い」という理由からピアノを始めた。8歳でジャズに興味をもち、中でもバド・パウエルやセロニアス･モンクなど、1940年代に生まれたビバップの個性派ピアニストが好きになり、彼らの演奏を動画で見て、ほぼ独学でジャズを学んだ。中学生になると、母親と一緒にジャズライブハウスへ通い、時には自ら出演することもあったという。そこでバンドアンサンブルを学ぶことで実力が磨かれ、ますますジャズへの好奇心も高まっていったという。

そんな才能の塊である彼女の噂はすぐに広まり、バンドもレーベルもスムーズに決まり、この春、ファースト･アルバム『PLANKTON』でメジャーデビューを果たした。

聴いてすぐに心奪われるのは、鍵盤の上を爽快に駆け抜けるハイスピードのピアノタッチ。そして、アドリブ部分の引き出しの多さ。本当に16歳なの？（録音時は16歳）と、まずは自分の耳を疑うだろう。

アルバムには、彼女が大好きだという、バド・パウエルやセロニアス･モンクの曲ももちろん収録されている。1曲目に収録されているパウエルの代表曲《クレオパトラの夢》は、彼女が小学生のときに完全コピーで演奏した曲。目をつぶっても、きっと自然と指が動くだろうと勝手な想像をしてしまうくらい、とにかく流暢で完璧な演奏を聴かせてくれる。

アルバム全体は、ビバップ全盛期のアナログ盤のような、どこか懐かしい匂いがする。でも、実はそれだけじゃない。ところどころに、他ジャンルのフィーリングを取り入れた現代ジャズのテイストを加えている。自作曲も想像を掻き立たせるユニークな印象の曲で、繰り返し聴きたくなる。新しさと古さをミックスしたサウンドは、まさに今の時代にフィットしているだろう。

ファッションモデルとピアニストの二刀流で活動している彼女。特にスウィッチの切り替えはなく、彼女にとっては、ファッションもアートもジャズも同じ延長線上にあるらしい。この先、彼女からどんなジャズが生まれるのか、とても楽しみである。