連載
2026.09.28
【Stereo×WebマガジンONTOMO連携企画】ピーター・バラカンの新・音楽日記 52

今年の「Peter Barakan's Music Film Festival」注目作はマイルズ・デイヴィスのドキュメンタリー「マイルス・デイヴィス クールの誕生」

ラジオのように! 心に沁みる音楽、今聴くべき音楽を書き綴る。Stereo×WebマガジンONTOMO連携企画として、ピーター・バラカンさんの「自分の好きな音楽をみんなにも聴かせたい!」という情熱溢れる連載をアーカイブ掲載します。

●アーティスト名、地名を含む諸々の表記は、筆者の原稿どおりにしています。
●本記事は『Stereo』2026年9月号に掲載されたものです。

ピーター・バラカン
ピーター・バラカン ブロードキャスター

ロン ドン大学卒業後来日、日本の音楽系出版社やYMOのマネッジメントを経て音楽系のキャスターとなる。以後テレビやFMで活躍中。また多くの書籍の執筆や、音楽イヘ...

「Omar Sosa’s 88 Well-Tuned Drums」

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円安の中クラウドファンディングで実現できた

今年も音楽映画祭(Peter Barakanʼs Music Film Festival、略してPBMFF)を開催します。9月18日(金)から10月1日(木)まで、会場は有楽町の角川シネマです。もう6回目の開催です。

どういうわけかここ数年音楽関係の映画がどんどん制作されていますが、大物のミュージシャンを題材とした劇映画(今年でいえば「マイケル」)を除けば、ミニ・シアターで上映されるものがほとんどで、日本では配給されない作品も少なくないです。

毎年映画祭のために権利を新たに取った映画と、日本ですでに公開済みで改めて上映したい映画を約半々で紹介していますが、今回は初公開の作品がやや多くなっています。このところの円安のため、金銭的にかなりの冒険で、去年に続いてクラウドファンディングで皆さんの応援をお願いしていますが、新作を10本上映する予定です。

Peter Barakan’s Music Film Festival 2026 予告編

作品的価値があっても上映料が高いと、満席になっても赤字が出る場合があります。無理に上映しなくても、と言われそうですが、クラウドファンディングのおかげでこういう映画もなんとか上映可能になるわけです。今回そんな扱いの作品が2本あります。

各時期のマイルズの素顔に迫る映像

一つは、今年で生誕100年のマイルズ・デイヴィスのキャリアを紹介するドキュメンタリー「マイルス・デイヴィス クールの誕生」です。同じタイトルのアルバムに関するものと勘違いされそうですが、そうではありません。

2019年にアメリカのテレビ用に作られた2時間弱の作品で、マイルズ自身の言葉をカール・ランブリーという俳優の声でナレイションに使っています。エミー賞の音楽映画部門で受賞し、評価の高いこの映画は日本でかつて劇場公開されたものです。マイルズの幼少期から、ビバップが誕生したころのデビュー、60年代の黄金クインテット(ハービー・ハンコックとウェイン・ショーターのインタヴューもあります)、70年代のファンクへの取り組みなど、各時期の音楽、そしてマイルズ本人の人物像に迫った内容です。

「Birth Of The Cool」予告編

決して過去を振り返ることがなかったことでも有名だったマイルズは亡くなる直前の1991年に、クインシー・ジョーンズの説得で若いころにギル・エヴァンズの編曲と指揮でオーケストラと共演した音楽を再演するコンサートをモントルー・フェスティヴァルで行ないました。そのモントルー・フェスティヴァルに関する大変充実したドキュメンタリーもあります。「They All Came Out To Montreux」は2022年にテレビ用の3回シリーズとして制作され、劇場版は約1時間半です。

「They All Came Out To Montreux」予告編

1967年に始まったこのフェスティヴァルはスイスのレマン湖沿いにある小さなリゾートの町モントルーで生まれ育ったクロード・ノブズが一人の力で立ち上げた催し物で、最初からすべての出演者の録音と撮影が行なわれていて、その資料の膨大なライブラリーも紹介されますが、ライヴで登場するのは例のマイルズはもちろん、ニーナ・シモーン、アリーサ・フランクリン、マーヴィン・ゲイ、B.B.キング、レイ・チャールズ、デイヴィッド・ボウイ、プリンスなどです。そしてこのフェスをずっと指揮し続けたクロード・ノブズ自身(2013年に76歳で死去)の話もとても興味深く、60年近く継続するこのフェスが彼のヴィジョンによるものだと映画を見ると納得します。

モントルーの映画にも登場するエラ・フィッツジェラルドのドキュメンタリー「Just One Of Those Things」もあります。スウィングの時代にデビューした彼女はビバップ革命にいち早く対応してスキャットのヴォーカルをトレイドマークにしたほどでした。その物語は十分見応えがあります。

「Just One Of Those Things」予告編

「A Poem Is A Naked Person」は泥臭くリオン・ラセルに迫った

「A Poem Is A Naked Person」という変わったタイトルの映画は1970年代前半のリオン・ラセル(日本ではレオン・ラッセル)の活動を描いた作品です。監督のレス・ブランクは2年にわたってリオンが持っていたオクラホマ州の施設に泊まりながら作り上げたこの映画はさまざまな問題があって、ようやく監督が亡くなった後の2015年に小規模で公開されました。

10年前に他界したリオンのもっとも脂が乗っていた時期を描いた、レス・ブランクの独自の泥臭いタッチの個性的な映画です。

「A Poem Is A Naked Person」予告編

他には、ずっと狙っていた「Soul To Soul」という1971年のガーナで行なわれた伝説のコンサート映画(ウィルスン・ピケット、アイク&ティーナ・ターナー、サンタナなど)、短期間で社会が激変する60年代前半のニューポート・フォーク・フェスティヴァルに出演した多くのアーティストが登場する「Newport & The Great Folk Dream」、エルヴィス・プレズリーで有名な「ハウンド・ドッグ」のオリジナルを歌った強烈なブルーズ・シンガー、ビッグ・ママ・ソーントンに関するドキュメンタリー「I Canʼt Be Anyone But Me」、ユニークな活動を続けるキューバのピアニスト、オマール・ソーサを描いた「Omar Sosa’s 88 Well-Tuned Drums」、ゴスペル・ミュージックの創設者と言えるトマス・A.ドーシーを中心としたドキュメンタリー「Say Amen, Somebody」(邦題「マザー」、1986年公開、久し振りの上映)、そして在米韓国人の女性監督ムン・ヘヨンが伝説のジャズ・ピアニスト、バド・パウエルに捧げる形のドキュメンタリー「Bud Lives!」もあります。

「Omar Sosa 88 Well-Tuned Drums」予告編

盛りだくさんの新作の他に、坂本龍一、チャック・ベリーなど、多岐にわたる近作のアンコール上映も色々あります。東京の開催が終われば地方でも少しでも多く上映したいと思っているので、ぜひ足を運んでください。

イベント情報
Peter Barakan's Music Film Festival 2026

日程:2026年9月18日(金)~10月1日(木)
会場:角川シネマ有楽町(東京)

 

Peter Barakan’s Music Film Festival 2026 in Osaka
日程:11月13日(金)~11月20日(金)
会場:シネ・ヌーヴォ(大阪)

 

Peter Barakan’s Music Film Festival 2026 in Nagoya
日程:11月20日(金)~11月26日(木)
会場:伏見ミリオン座(名古屋)

公式サイト

ピーター・バラカン
ピーター・バラカン ブロードキャスター

ロン ドン大学卒業後来日、日本の音楽系出版社やYMOのマネッジメントを経て音楽系のキャスターとなる。以後テレビやFMで活躍中。また多くの書籍の執筆や、音楽イヘ...

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