ドイツの歴史と「第九」〜現代まで受け継がれるシラーの想いとは?
年末の風物詩としておなじみの「第九」。第4楽章では4人のソリストと合唱によって、ドイツの文豪シラーの「歓喜に寄せて」が高らかに歌われます。このシラーの詩について、3回にわたって詳しく理解を深めていきます。
最後に、シラーが詩に込めた想いとベートーヴェンの「第九」が、その後どのようにドイツの歴史に関わってきたのか見てみましょう。
京都産業大学外国語学部助教。専門は18世紀の文学と美学。「近代ドイツにおける芸術鑑賞の誕生」をテーマに研究し、ドイツ・カッセル大学で博士号(哲学)を取得。ドイツ音楽と...
身分、人種、国を超えた人類愛を謳った「歓喜に寄せて」。シラーが詩に込めた「非暴力」への願いは、ベートーヴェンの合唱に結実した。現在、それはEU(欧州連合)の讃歌になっている。
EU讃歌
シラーが謳った民族を超えた全人類的な愛は、国家を超えた共同体である欧州連合の理想でもある。ドイツの歴史を振り返ると、シラーの想いが脈々と受け継がれてきたとわかる。
詩とかけ離れた世界
強烈なメッセージ性のためか、「第九」は政治色の強い場で演奏されてきた。なかでも、1942年のヒトラー誕生日祝賀会と1951年のバイロイト音楽祭での演奏は、音楽と政治の関係を省みる資料といえる。
1951年のバイロイト音楽祭での「第九」
周知の通り、1942年の演奏によって、フルトヴェングラーはナチス協力疑惑を受けることになった。1951年の録音は、戦後の非ナチ化裁判で無罪判決を受けてからの演奏(通称「バイロイトの第九」)。
1942年は第二次世界大戦の真只中である。ナチス政権は、「第九」を演奏させることで、ドイツ国民の戦意を高めようとした。一方、1951年は「冷戦」の最中である。戦後初のバイロイト音楽祭を祝いつつも、人々はアメリカとソ連の対立に新たな火種を感じていた。世界規模の戦争、ユダヤ人の迫害、イデオロギーの対立など、どちらの時代も「第九」に謳われる世界からはほど遠かった。
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