イベント
2026.05.15
箕面市立メイプルホール 《身近なホールのクラシック》

上岡敏之と大阪交響楽団がシューマンの多面性を紐解く「シューマン交響曲全曲演奏会」

大阪府北部にある箕面市立メイプルホール 大ホールは、あたたかな木の風合いとクリアな響きをもつ、純度の高い貴重な音楽体験を得られるホールだ。
好評を博している《身近なホールのクラシック》コンサート・シリーズに、2026-2027年登場するのは、初共演の上岡敏之と大阪交響楽団「シューマン交響曲 全曲演奏会」。
聴きどころを徹底解説しよう。

山崎浩太郎
山崎浩太郎 音楽ジャーナリスト

1963年東京生まれ。演奏家の活動とその録音を生涯や社会状況とあわせてとらえ、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。『音楽の友』『レコード芸術』『モーストリーク...

メインカット:箕面市立メイプルホール 大ホール ©樋川智昭

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箕面市立メイプルホールの意欲的企画《身近なホールのクラシック》

箕面市立メイプルホール 大ホールは、《身近なホールのクラシック》と題して、さまざまな興味深いコンサートや生涯学習講座を主催している。とりわけ2022年から3年間をかけて行った、坂入健司郎指揮の大阪交響楽団による「ブラームス交響曲 全曲演奏会」は、その意欲的な企画ゆえに関西地域の枠をこえて、東京でも話題を呼んだ。

その成功を引き継いで、今年2026年6月からは大阪交響楽団の演奏による新プロジェクト、「シューマン交響曲 全曲演奏会」が開始される。上岡敏之がすべて指揮することも、大いに期待させられるポイントだ。

上岡敏之(指揮)
東京藝術大学でマルティン・メルツァーに指揮を師事し、作曲、ピアノ、ヴァイオリンも並行して学ぶ。安宅賞受賞。後にロータリー国際奨学生としてハンブルク音楽大学に留学し、クラウスペーター・ザイベルに指揮を師事。キール市立劇場ソロ・コレペティトール及びカペルマイスターとして歌劇場でのキャリアをスタートさせた。その後、ヘッセン州立歌劇場音楽総監督、北西ドイツ・フィル首席指揮者、ヴッパータール市立歌劇場音楽総監督、ザールランド州立歌劇場音楽総監督、ヴッパータール響首席指揮者、コペンハーゲン・フィル首席指揮者等を歴任し、ヴッパータール市立歌劇場インテンダントの要職も務めた。ヴッパータール響とは二度の日本ツアーを行い、絶賛を博した。日本では、2016年シーズンより新日本フィルハーモニー交響楽団第4代音楽監督を務めた。現在はコペンハーゲン・フィル名誉指揮者、またザールブリュッケン音楽大学指揮科正教授も務める。
©青柳聡

「シューマンは、人間の持つ二面性以上の複雑さをオーケストラで表現しようとしました」(上岡敏之)

計3回の演奏会では、ロベルト・シューマンが完成した番号つきの4曲の交響曲が取りあげられる。この4曲は1841年完成の交響曲第1番「春」に始まり、第2番(1846年)、第3番「ライン」(1850年)と続く。第4番だけは複雑で、最初の稿は第1番の直後に完成されていた。しかし10年後の1851年、大幅に改訂して第3番より後に出版したため、第4番ということになった。つまり、着手した順番でいえば、1、4、2、3となる。6月18日の第1回ではこの作曲順にしたがい、第1番と第4番が演奏される。

ということは、第1番と第4番の組み合わせには、表と裏の2つの意味があることになる。番号順では最初と最後の組み合わせだが、作曲順なら1番目と2番目。意味が二重になっているのだ。

うがった見かたをすると、この二重性にこそ、今回の上岡のアプローチを解く鍵があるのかもしれない。シューマンは、自分の性格のもつ動と静の二面性を、前者を情熱的なフロレスタン、後者を内省的なオイゼビウスという2つのキャラクターで擬人化して、音楽評論を書いたり、ダビッド同盟舞曲集というピアノ曲集に登場させたりした。

シューマンのすべての作品は、まずピアノで作曲されたと考える上岡は、交響曲ではさらに複雑な多面性が表現されているという。

「彼は、人間の持つ二面性以上の複雑さをオーケストラで表現しようとしました。いろいろなキャラクターが、それぞれいつも違ったアーティキュレーションで、同時進行していきます」

この、多重人格がからみ合うような同時進行を考慮しないと、すべてが中途半端になってしまう。交響曲では「いつの時代のどの作曲家も、まず、オーケストラが大きく鳴ることに重点を置いていますが」、シューマンの場合は「そういう方向で響くことを考えて作曲されていないので、長年、オーケストレーションが悪いと言われているような気がします」。

シューマンのオーケストレーションが響きにくいことは、たしかに昔から指摘されてきた。第3番の改訂版を作ったマーラーをはじめとして、19世紀生まれの指揮者たちは「大きく鳴る」ように、多かれ少なかれオーケストレーションを独自に改変したりした。

しかしそれでは、「人間の持つ二面性以上の複雑さをオーケストラで表現しようと」する作曲家の意図を、ゆがめてしまうことになる。この同時進行を、上岡はどのように響きとして、客席の我々に聴かせてくれるのだろうか。この点がとても楽しみだし、それだけに今回は、501席という広すぎないホールで、12型(第1ヴァイオリンが12人)という大きすぎない編成で演奏することが、特別の意味と意義をもってくる。

つまり、各声部のからみあいが明快に、それぞれのキャラクターが互いを打ち消しあうことなく、独自の存在を示しながら、同時に存在していることが、客席のどこにいても、聴きとれるのではないだろうか。独善的な価値観を他人にも押しつけることが横行する現代世界だからこそ、シューマンの音楽の多面性の価値を再認識することには、大切な意味があるだろう。

シューマンの言葉と音楽を追い求めて

2027年6月と12月に予定される第2回と第3回では、他の作曲家の作品と組み合わされることになっている。

第2回のメンデルスゾーンはシューマンの親友だが、「音楽的に意外にも影響されることが少なく、大ざっぱに言えば、無言歌を作曲した人と、文学的な要素を含めた言葉と音楽を繊細に結びつけて作曲した人の違いです」と上岡はいう。シューマンの「文学的な要素を含めた言葉と音楽を繊細に結びつけ」る魅力が、浮き彫りになるわけだ。

また第3回のマーラーは、「その言葉と音楽の関連性がシューマンに似ています。彼の交響曲の改訂版まで作り、オーケストラを最大限に響かせることが出来たマーラーですが、異常なまでの細部へのこだわり、逆に、言葉では追いつくことの出来ない表現のルーツは、やはり、彼自身の歌曲に原点があるように思いますし、そういうところが、シューマンから多大な影響を受けていると思います」という。「言葉では追いつくことの出来ない表現のルーツ」が「歌曲に原点がある」という、一見矛盾するような上岡ならではの視点が、この組み合わせからどのように浮かびあがってくるのか、ワクワクさせられる。

初共演の上岡敏之と大阪交響楽団による、創造性あふれる音楽体験

メイプルホールの《身近なホールのクラシック》、2026年度のテーマは、「私たちには、言葉がある」。そのとおり、このプロジェクトはシューマンの交響曲の音の言葉に耳を傾けてみる、またとない機会になるはずだ。

初めてのオーケストラとの共演は、ものすごく緊張するという上岡だが、「いっしょに音楽をつくれる環境がとても大事」だという。「オーケストラに、たくさんの芸術家がいた時にいい方向へ向かうと思いますし、それを願って、そのためにできる限りのことをするつもりです」

大阪交響楽団との初共演、ほんとうに楽しみである。

大阪交響楽団
1980年「大阪シンフォニカ-」としての創立以来、いつも聴衆を“熱く”感動させるその演奏は、「魂の叫び」「情熱の音」と評されている。
©飯島隆
公演情報
《身近なホールのクラシック》シューマン交響曲 全曲演奏会Vol.1

日時:2026年6月18日(木)19時開演

※18:45~ 大ホール舞台上にて、音楽評論家 奥田佳道さんによるプレ・トークあり(10分程度)

会場:箕面市立メイプルホール大ホール

出演:上岡敏之(指揮)、大阪交響楽団

曲目:シューマン/交響曲第1番「春」、交響曲第4番

料金:《全席指定》一般4,000円(メイプルフレンド会員3,600円)、大学生以下1,000円
※未就学児の入場はご遠慮ください。

問い合わせ:箕面市立メイプルホール TEL:072-721-2123/受付時間:9:00~17:00/休館日:毎週月曜日(祝日の場合は開館))

主催:公益財団法人箕面市メイプル文化財団

後援:箕面市、箕面市教育委員会、タッキー816みのおエフエム

協賛:大和ハウス工業株式会社

助成:一般財団法人地域創造

詳しくはこちら

山崎浩太郎
山崎浩太郎 音楽ジャーナリスト

1963年東京生まれ。演奏家の活動とその録音を生涯や社会状況とあわせてとらえ、歴史物語として説く「演奏史譚」を専門とする。『音楽の友』『レコード芸術』『モーストリーク...

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