レポート
2026.05.15
【最新】海外クラシックNEWS~fromドイツ①

山田和樹とベルリン・ドイツ響の新コンビが始動!冒険心に富む新シーズン・プログラム

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回は4月のドイツ・ベルリンの音楽シーンから、ニュースとコンサートをレポートします。

取材・文
中村真人 Masato Nakamura
取材・文
中村真人 Masato Nakamura 音楽ジャーナリスト、フリーライター

1975年、神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、2000年よりベルリン在住。著書に『明子のピアノ』(岩波ブックレット)、監修を務めた『おとうさんのポス...

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

4月23日にベルリン芸術大学のコンサートホールで行われた、ベルリン・ドイツ響2026/27年シーズンの記者会見から ©Marlene Pfau

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

4月23日、ベルリン・ドイツ交響楽団の2026/27年シーズン発表が、公開イヴェントとして行われた。会場はベルリン芸術大学のコンサートホール。同楽団の定期会員が中心に招かれたようで、驚いたことに満席に近い盛況だった。

いよいよ新シーズン、山田和樹が首席指揮者に就任する。1948年に就任した初代フェレンツ・フリッチャイから始まる首席指揮者の系譜の9人目に、日本人の山田が選ばれた。そのことにあらためて感慨を抱きながら席につくと、予想外に軽快な雰囲気でイヴェントは始まった。ドイツの往年の恋愛ヴァラエティ番組「Herzblatt」に見立てて、オーケストラが首席指揮者を選ぶ過程をショーのような寸劇にしたのだ。山田の登場でひときわ盛り上がると、2024年春のデビュー公演での化学反応が楽団員によって語られる。山田自身も「運命的」という言葉を使って、このオーケストラとの結びつきを強調した。

初年度のシーズンモットーは「Ach, Mensch」。直訳すると「ああ、人間」だが、ドイツでは驚きから嘆きまでを表現する決まり文句としてよく使われる言葉だ。

「『Ach, Mensch』というモットーは、人間が時代を超えて抱き続ける喜怒哀楽を指しています。特定の作曲家に偏るのではなく、『人間という存在』に多角的に光を当てる、壮大な旅路のようなプログラムにしたかったのです」(山田)

山田が指揮するのは6つのプログラム。10月4日の就任公演は、アイヴズ《答えのない質問》、グリーグ「ピアノ協奏曲」(独奏:アリス=紗良・オット)、アンナ・クライン《Woman of the Mountain》、ドビュッシー「交響詩《海》」という、人間存在と自然への問いかけを込めた内容だ。スピリチュアリティをテーマに、齋藤秀雄編のバッハ「シャコンヌ」とブルックナー「交響曲第9番」を組み合わせたプログラム(12月)、ボヘミアとアメリカのつながりに光を当てた、フローレンス・プライス「交響曲第1番」とドヴォルジャーク「チェロ協奏曲」(独奏:パブロ・フェランデス)のコンサート(27年3月)、ベルリオーズ《幻想交響曲》をメインにしたフランス音楽プロ(5月)など、冒険を好む山田らしさが光る。

「プログラムには、社会批評やサステナビリティ、多様性といった現代のテーマを反映させています。単に音楽を聴くだけでなく、聴衆の皆さんとともに考え、議論する場を作りたい」と楽団の運営メンバーが語ったように、カロリン・エムケ、デューゼン・テッカルら、著名な作家や活動家がスピーチを行うコンサートも企画された。

この夜のイヴェントは圧倒的に高齢者が多かったが、山田和樹とベルリン・ドイツ交響楽団が、未知の聴衆もふくめて、ベルリンの音楽シーンにどのような刺激と活力をもたらすだろうか。期待は高い。

ブロムシュテット&ベルリン・フィルのブルックナー「第7番」~高峰の別世界へ

ブロムシュテット指揮ベルリン・フィル ©Stephan Rabolld
ブロムシュテット指揮ベルリン・フィル、ブルックナー「交響曲第7番」の舞台 ©Stephan Rabolld

4月24日、ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートを聴いた。ベルリン・フィルにも毎シーズンのように客演してきたブロムシュテットだが、2022年のコンサートでついに座って指揮するようになってから、「今回こそ見納めかもしれない」という思いで客席に座っていたのは筆者だけではないだろう。しかし、彼は翌年にはベートーヴェン《英雄》を、2024年末にはブルックナー「交響曲第9番」を指揮し、その度に不死身のようなエネルギーを放射してきた。

そしてこの日、2カ月半後に99歳を迎えるブロムシュテットが、歩行器の助けを借りながらフィルハーモニーの舞台に還ってきたのは、驚異というほかない。たしかに肉体は衰えたが、ブルックナー「交響曲第7番」が深い呼吸とともに始まると、右手の指先まで細かなニュアンスを伝える指揮芸術により、たちまち高い峰の別世界へ連れて行かれる。明快かつ意志のこもった棒に、ベルリン・フィルが高い集中力と伸びやかさをもって音を構築していく様は圧巻だった。第2楽章での深い歌も忘れがたく、「いまこの瞬間を共に味わおう」という空気がホール全体を覆っているのを感じた。

次があるかどうかは問題ではない。ブロムシュテットへの最大限の敬意を示すスタンディングオヴェーションで、思い出に残る公演は締めくくられた。

取材・文
中村真人 Masato Nakamura
取材・文
中村真人 Masato Nakamura 音楽ジャーナリスト、フリーライター

1975年、神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、2000年よりベルリン在住。著書に『明子のピアノ』(岩波ブックレット)、監修を務めた『おとうさんのポス...

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ