インタビュー
2022.01.07
礒絵里子と河野智美が語るファーストアルバム『グラシア』

10年かけて深めたギターとヴァイオリンの響き〜デュオ・パッシオーネ結成に寄せて

ヴァイオリンの礒絵里子さんとギターの河野智美さんがデュオを結成! 10年かけて作り上げたお二人の関係と新譜『グラシア』について、詳しくお聞きしました。この楽器の組み合わせだから、この二人だから生み出せるサウンドの秘密に迫ります!

取材・文
池田卓夫
取材・文
池田卓夫 音楽ジャーナリスト@いけたく本舗

1958年東京都生まれ。81年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業、(株)日本経済新聞社へ記者として入社。企業や株式相場の取材を担当、88~91年のフランクフルト支...

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ともに「中堅」の頼もしい円熟期を謳歌する2人の演奏家——ヴァイオリンの礒絵里子、ギターの河野智美が「デュオ・パッシオーネ」のユニットを結成、2022年1月19日に「アールアンフィニ」レーベルからファーストアルバム『グラシア』をリリース、2月4日には東京・銀座の王子ホールで発売記念コンサートに臨む。デュオを組むまでの歩みやアルバムの詳細、互いの音楽性について、オンラインのインタビューで存分に語ってもらった。

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尊重しあって積み重ねた10年

——ヴァイオリニストのデュオ・パートナーといえばピアニストが一般的で、ギターは珍しいようにも思えます。

 日本コロムビアで従姉妹の神谷未穂とヴァイオリン2人のユニット「デュオ・プリマ」のアルバムを制作した際は、福田進一さんに加わっていただきましたし、鈴木大介さんともけっこう共演しています。

河野智美さんとは、(河野さんの)先生の高田元太郎さん経由で知り合い、かれこれ10年くらい、折に触れご一緒してきました。河野さんで一貫して感心するのは音の美しさであり、緻密な音楽づくりです。

礒絵里子(いそ・えりこ)
桐朋学園大学卒業後、その才能を高く評価したI.オイストラフ氏に招かれ、文化庁芸術家在外派遣研修員としてブリュッセル王立音楽院に留学。修士課程大賞を受賞し首席修了。マリア・カナルス国際コンクール等国内外のコンクールで入賞。デビュー以降、世界各地でリサイタルを行ない、ソリストとしても日本フィル、東京フィル、神奈川フィル、プラハ室内管弦楽団、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、ヴェネツィア室内合奏団、フレミッシュ放送交響楽団(ベルギー)等国内外主要オーケストラと共演。
現在、ソロ活動に加え従妹神谷未穂との「デュオ・プリマ」、宮谷理香(ピアノ)、水谷川優子(チェロ)との「Ensembleφ(ファイ)」、高橋多佳子(ピアノ)、新倉瞳(チェロ)との「椿三重奏団」など室内楽でも多彩に活躍中。また、洗足学園音楽大学講師として後進の指導にもあたっている。

河野 私は普通の大学を出て、まさかプロ奏者になるとは思わず、一般企業の正社員をしていました。普通にクラブで踊っていたり、ジャズやロックのコンサートに出かけたりしていたのです。いろいろな場所で多様な経験をしたことが今、豊かで幅のある表現力に実っているとは思います。

河野智美(こうの・ともみ)
クラシカルギターコンクールで優勝のほか、東京国際ギターコンクール、アジア国際ギターコンクールなど、国内外のコンクールで入賞。
CDはアールアンフィニより『祈り』(2013年)、ジャズクラシック作品集『リュクス』(2015年)、オール・バッハアルバム『The BACH』(2017年)、スペイン作品集『The Spain』(2019年)をリリース。
2020年、サントリーホールにて東京フィルハーモニー交響楽団、梅田俊明氏指揮のもと「アランフェス協奏曲」「ある貴紳のための幻想曲」の2大ギターコンチェルトを演奏、秋にライヴ盤アルバムとしてリリースされ、朝日新聞にて推薦盤として紹介された。これまでにロシア、韓国、中国、イタリア、ボリビア、オーストリア、ロシア、スペイン等各国に招かれコンサートやマスタークラスを行なっている。また、ホセ・トマス国際ギターコンクールにてユース部門の審査も務めている。
他楽器とのアンサンブル活動も活発で、ソプラノの奥脇泉とのユニットでは古楽から民謡、ポップスまでジャンルに囚われず独自のレパートリーを切り開き、「心地よい音楽」を追究している。
日本・スペインギター協会会長代理。昭和音楽大学、並びに自身の主宰する音楽教室にて後進の指導育成にもあたっている。

——過去10年を振り返ってみると……?

河野 絵里子さん、何でも弾けるのがすごいです。ヴァイオリンの中心レパートリーではないスペイン、南米の曲も、ピアノだけでなくギターともご自身の音楽にして弾いてくださいます。

 10年間で体重が増え、演奏にもいい作用を与えたようです。もういい音の出し方がわかったから、そろそろ痩せたい!(笑)

河野 体重と楽器、そんなに関係あるの?

礒 ピアニストでも若い頃、オーケストラみたいな音を出そうと、腕を太くするのに懸命な人がいるわよ。

河野 私も太りたくて一時、丼飯を毎日食べた時期がありました。いくら食べても太らない体質だったはずですが、年齢からくるのか、最近は自然に体重が増えました。「10年」て、一口に言うけど、本当にいろいろありましたね。

礒 振り返れば10年の“長いリハーサル”を積み重ね、2人で作ってきたデュオです。

コロナ禍で開催できたコンサートの感動から誕生した新譜

——改めてユニット名を定め、レコーディングに踏み切ったきっかけは?

河野 2020年9月、鎌倉芸術館で『音楽のチカラ』というコンサートへ久々に2人で出演、マキシモ・ディエゴ・プホールの《ブエノスアイレス組曲》を初めて演奏したときです。コロナ禍での有観客公演再開直後の緊急公演で、私たち自身も感動するなか、お客様も感動してくださり、アールアンフィニの武藤敏樹さん(礒の夫君)が「CDにしましょう」と提案されたのです。

礒 ディスクに収めたより3曲ほど多く弾いたのですが、ピアソラが《タンゴの歴史》と《ブエノスアイレス組曲》の抜粋では重すぎると思い、代わりに河野さんの編曲で、ゆっくりした3曲を入れました。

デュオ・パッシオーネ『グラシア』
2022年1月19日発売
アールアンフィニ MECO-1069

【収録曲】
ブエノスアイレス組曲 (マキシモ・ディエゴ・プホール)
エル・ビート(グラシア)(マヌエル・インファンテ/藤井眞吾編)
7つのスペイン民謡
(マヌエル・デ・ファリャ/ミゲル・リョベート・ソレス~ジャウメ・トレント~トーマス・ミュラー=ペリング~パウル・コハンスキ編)
スペイン舞曲 第1番 ~ 歌劇「はかなき人生」 第2幕より(マヌエル・デ・ファリャ/コンラート・ラゴスニック~フリッツ・クライスラー~河野智美編)
アリア(カンティレーナ)~ブラジル風バッハ 第5番より(エイトール・ヴィラ=ロボス)
ルーマニア民俗舞曲(ベラ・バルトーク/アーサー・レヴァリング編)
オブリビオン(アストル・ピアソラ/啼鵬~河野智美編)
タンティ・アンニ・プリマ(アストル・ピアソラ)
天使のミロンガ(アストル・ピアソラ)

スペイン音楽の名曲をヴァイオリンとギターに

——『グラシア』のアルバムタイトルにも採用したマヌエル・インファンテの《エル・ビート(グラシア)》は、日本のギタリストで作曲家、藤井眞吾さんの編曲です。

 スペインのアンダルシア地方の民謡を基に、インファンテがピアノ・デュオ用に書いた作品です。「グラシア=優美な」というサブタイトルがクラシックの演奏会に最適との思いもあり、藤井さんにヴァイオリンとギターのための編曲をお願いしました。すごく良い感じに仕上がり、アルバムの中でももっとも好きな1曲です。

マヌエル・インファンテ(1883〜1958)
スペイン人の作曲家エンリケ・モレーラのもとでピアノと作曲を学んだのち、パリへ移る。スペイン音楽を取り入れた作品を数多く残した。

マヌエル・インファンテ:《エル・ビート(グラシア)》の原曲

河野 音楽史ではヴァイオリンは宮廷、ギターは庶民の楽器と分かれていたため、パガニーニなどの例外を除いて、なかなかオリジナルの良い作品がありません。藤井さんが《エル・ビート》をヴァイオリンとギターのために、インファンテならではの格調高さを保って素晴らしい仕上がりにしてくださいました。これからも優秀な作曲家、作品をクラシックの枠にこだわらずに掘り起こし、私たちのレパートリーに加えていきたいです。

今回一番大変だったのは、どの端末で聴いても音量バランスが良く聴こえるよう工夫した点だという。なんと毎回スマートフォンや車のカーステレオで実際に聴いてバランスをみたそう!
2020年9月、鎌倉芸術館でのコンサートより。

——2月4日の王子ホールでのコンサートに向け、抱負を一言ずつ。

礒 東京都内で河野さんと演奏するのは、コロナ禍が始まって以降初めてです。王子ホールに出演すること自体、久しぶりに思います。小ぶりで音響の良いホールですから、ギターのPA(音響補助)も極力控えめにして、一期一会の響きをお楽しみいただければ幸いです。

河野 レコーディングを終えると反省点ばかりで楽しめないのですが、今回は絵里子さんのおかげで面白くて。この面白さコンサートにも持ち込み、2人対等のアンサンブルを目指します。クラシックファンにもクラシック音楽に親しみのない方にも新鮮に感じてもらえるステージにしたいです。

——ありがとうございました。

演奏会情報
デュオ・パッシオーネ コンサート CD『グラシア』発売記念 ~4弦+6弦=10弦が奏でるパッションとカンタービレの音の万華鏡~

日時: 2022年2月4日(木)18:00開演

会場: 王子ホール

出演: 礒 絵里子(ヴァイオリン)、河野智美(ギター)

曲目: ファリャ《7つのスペイン民謡》、インファンテ《エル・ビート(グラシア)》、プホール《ブエノスアイレス組曲》、ほか

料金: 4,000円、CD付チケット7,000円(全席指定)

問い合わせ: アールアンフィニ artinfini.mail@gmail.com

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池田卓夫
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池田卓夫 音楽ジャーナリスト@いけたく本舗

1958年東京都生まれ。81年に早稲田大学政治経済学部政治学科を卒業、(株)日本経済新聞社へ記者として入社。企業や株式相場の取材を担当、88~91年のフランクフルト支...

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