インタビュー
2026.08.04
8/27サントリーホールで砂田愛梨、小林愛実、成田達輝、石上真由子が出演!「リラックスして聴いてほしい」

沼尻竜典「若手演奏家に古典と現代音楽を隔てる壁はない」~「時を編む響」公演への誘い

毎年、東京の夏をエキサイティングに彩る現代音楽の祭典「サントリーホール サマーフェスティバル」。今年はサントリーホール開館40周年を記念して、現代音楽をもっと身近に楽しめる特別企画「時を編む響」が開催。日本初演の4作品を含む全3部からなる大規模なコンサートで、砂田愛梨、小林愛実、成田達輝、石上真由子ら、実力派ソリストが揃って出演します。この公演で指揮を担当し、企画にも携わった沼尻竜典に、各作品を楽しむヒントやソリストとの組み合わせの妙について、詳しく伺いました。

取材・文
八木宏之
取材・文
八木宏之

1990年、東京生まれ。青山学院大学文学部史学科芸術史コース卒。愛知県立芸術大学大学院音楽研究科博士前期課程(修士:音楽学)およびソルボンヌ大学音楽専門職修士課程(M...

この記事をシェアする
Twiter
Facebook
続きを読む

“斬新さ”ではなく、純粋に音楽的な魅力で選曲した

今年の『サントリーホール サマーフェスティバル2026』では、サントリーホールの開館40周年を記念して、特別公演「時を編む響」が開催される。

この公演で東京交響楽団を指揮するのは、「今を生きる人にとって古典と現代音楽のあいだに隔たりはない」と語る名匠、沼尻竜典。自身も作曲家である沼尻は、長年にわたり現代音楽の指揮に取り組んできた。

カミーユ・ペパン(1990〜、フランス)、池田亮司(1966〜、日本)、ショーン・シェパード(1979〜、アメリカ)、トーマス・アデス(1971〜、イギリス)の作品の日本初演に、三善晃の《決闘》と武満徹の《リヴァラン》を組み合わせたプログラムには、現代音楽に対する沼尻の想いが込められている。

©Ayane Shindo
沼尻竜典(指揮)

神奈川フィル音楽監督、トウキョウ・ミタカ・フィル音楽監督。1990年ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。国内外で数々のポストを歴任。ドイツではリューベック歌劇場音楽総監督を務め、オペラ公演、リューベック・フィルとのコンサートの双方において多くの名演を残した。ケルン、ミュンヘン、ベルリン、バーゼル、シドニーなどの歌劇場にも客演。16年間にわたって芸術監督を務めたびわ湖ホールでは、ワーグナーの主要オペラ10作品をすべて指揮した。2014年にはオペラ『竹取物語』を作曲・初演、国内外で再演されている。2017年紫綬褒章受章。

沼尻 「この公演の狙いは現代音楽を日常に寄り添うものにすることです。現代音楽のプログラムだからといって、お客様には特殊な演奏会だと思わないでいただきたいのです。

その時代にいちばん新しいことをやった“斬新さ”で作品の価値を測るのではなく、純粋に魅力的な音楽かどうかを重視して、演奏家の視点で作品を選んだので、今の時代を生きる私たちの感性に直接響く音楽を、リラックスして楽しんでいただけると思います」。

古典も現代音楽も分け隔てなく取り組む若手演奏家をキャスティング

そうした沼尻のコンセプトは、ソリストのキャスティングにも現れている。

沼尻「この演奏会では、現代音楽の専門家ではなく、普段はショパンやチャイコフスキーを演奏したり、ヴェルディやプッチーニで舞台に立っている若手をソリストに起用しました。

普段からお客様に親しみのあるソリストに演奏していただくことで、同時代の作品に対する心理的なハードルを下げることができますし、現代音楽に馴染みのない方が興味をもってくださるきっかけにもなるでしょう。今回ソリストを務めるヴァイオリンの成田達輝さんと石上真由子さん、ソプラノの砂田愛梨さん、ピアノの小林愛実さんは、古典でも現代音楽でも素晴らしい演奏を聴かせてくれる名手です。彼らの世代にはもう、古典と現代音楽を隔てる壁はありません

昭和の昔は、どんなレパートリーにも分け隔てなく取り組んでいる演奏家が器用貧乏と揶揄されることもありました。野村克也の『生涯一捕手』のような生き方が好まれていたのですね。しかし、大谷翔平が二刀流で活躍している今、世の中の価値観も大きく変わったように思います」。

コンサートは三部で構成される。石上真由子をはじめとする実力ある若手演奏家たちが、カミーユ・ペパンと池田亮司という異なる背景を持つ作曲家の作品に取り組む1は、室内楽という凝縮された形態で“響き”そのものに向き合う時間となる。聴き手は音と空間との関係や、そこで生み出されるテクスチャの微細な変化に耳を澄ませる。演奏会はそこから声とオーケストラ、そして大規模な管弦楽作品へと世界が広がっていく。

©Masatoshi Yamashiro
石上真由子(ヴァイオリン)

日本音楽コンクールなど、国内外で受賞多数。題名のない音楽会、クラシック音楽館などメディア出演多数。東響、都響、読響、日本フィル、ブラショフ国立響など内外で多数のオーケストラと共演。長岡京室内アンサンブル、アンサンブル九条山メンバー。ポラリス国際音楽祭アドバイザー。Ensemble Amoibe主宰。Music Dialogue、CHANEL室内楽、おんかつ支援アーティスト。京都市芸術新人賞、音楽クリティック・クラブ賞、大阪文化祭賞、青山音楽賞、藤堂音楽賞、京都府文化賞、京都府あけぼの賞受賞。日本コロムビア、ALTUS、キングレコード、ワオンレコードよりCD好評発売中。

第2部では三善晃「ソプラノと管弦楽のための《決闘》」と武満徹「ピアノと管弦楽のための《リヴァラン》」が取り上げられ、砂田愛梨と小林愛実がそれぞれ独奏を担当する。

そして第3部では、ショーン・シェパード「管弦楽のための《表現抽象主義》」(日本初演)とトーマス・アデス「ヴァイオリンと管弦楽のための《アリア(エア)》」(日本初演)が演奏会を締めくくり、アデス作品のソリストには成田達輝が登場する。

第2部と第3部に出演する沼尻には、特に自身が指揮する4作品について、想いを語ってもらった。第2部で取り上げられる武満と三善は、沼尻と直接交流を持った作曲家であり、とりわけ三善は沼尻の作曲の師でもある。

日本の現代音楽を語るのに欠かせないふたり~武満徹と三善晃

沼尻「日本初演の4曲とともに武満徹三善晃の作品を取り上げるのは、このふたりの音楽が日本の現代音楽を語るうえで欠くことのできないものだからです。

武満さんと三善さんが活躍した時代は、日本の現代音楽に最も勢いがあった時代でした。私は桐朋学園の作曲科で三善門下の学生でしたので、あの時代の現代音楽に対するワクワクした空気を肌で感じていました。

戦後日本を代表する作曲家だったふたりですが、武満さんと三善さんが進んだ道は方向の異なるものでした。武満さんは晩年、より親しみやすい作風になっていきましたが、三善さんは生涯にわたって厳しい作風を貫きました。

作曲を独学で習得した武満さんとアカデミックに学んだ三善さんという違いもあります。武満さんには戦後の日本にアメリカなどから新しく入ってきた音楽の影響が感じられ、三善さんの音楽には強烈な戦争体験の影響が感じられます。三善さんは戦争中、川で遊んでいたときにアメリカの戦闘機の機銃掃射にあい、一緒にいた友人は亡くなったそうです。この出来事は彼の死生観に大きな影響を与えました。『生というのは死から連続していて、海面の上にたまたま現れた氷山のようなものである』というのが彼のイメージです。死者と生者の境界はあいまいだと」。

三善 晃(1933~2013)

東京都出身。平井康三郎に作曲とヴァイオリンを師事。東京大学文学部仏文科在学中、日本音楽コンクール作曲部門第1位(1953)、『ピアノと管弦楽のための協奏交響曲』で尾高賞、文化庁芸術祭奨励賞を受賞(54)。パリ国立高等音楽院に留学しシャラン、ガロワ゠モンブランに師事(55~57)。『ピアノ・ソナタ』(58)などにとりわけデュティユーへの私淑が表れている。その後は、ときに鬼気迫るような緊張感をたたえつつも、人間の実存性への温かな眼差しの伏在する音楽を創作。『レクイエム』(72)、『詩篇』(79)、童声を効果的に用いた『響紋』(84)からなる反戦三部作、90年代後半以降の『焉歌・波摘み』(98)をはじめとする、熟練した書法による管弦楽曲で確固たる地位を確立。60年代から晩年に至るまで創作された多数の合唱曲は、国内のさまざまな合唱団に愛唱されており、ピアノ教則本『メソード』(97)および自身の名を冠したコンクールを通して、ピアノ教育界に与えた影響も大きい。オペラ『支倉常長〈遠い帆〉』により第31回サントリー音楽賞を受賞(2000)。桐朋学園大学学長(1974~95)、東京文化会館館長(96~2004)。日本芸術院会員(1999)、文化功労者(2011)。[平野貴俊]
武満 徹(1930~96)

東京に生まれる。15歳ころに陸軍の宿舎でリュシエンヌ・ボワイエの『聞かせてよ愛の言葉を』を聴いて音楽に目ざめ、1948年から清瀬保二に作曲を師事。51年、瀧口修造、湯浅譲二らと芸術家団体「実験工房」を結成、劇音楽、放送用音楽、テープ音楽も発表する。たまたま耳にしたストラヴィンスキーが称賛した『弦楽のためのレクイエム』(57)、IMC(国際音楽評議会)国際現代作曲家会議でそれぞれ第5位、最優秀作品賞を受賞した『環礁』(62)、『テクスチュアズ』(64)、そしてニューヨーク・フィルハーモニック創立125周年を記念して委嘱された琵琶、尺八、オーケストラのための『ノヴェンバー・ステップス』(67)で国際的な評価を確立、日本の作曲家として未曾有の名声を獲得した。前衛的技法を独自に応用した60年代までの作品は、ときに峻厳に響くが、70年代後半以降のとりわけ水、夢、雨に着想を得た作品では、瑞々しく豊麗で耽美的な響きを追求。ポップで洒脱な「うた」のシリーズ、100以上の映画、放送用音楽の作曲、現代音楽祭「今日の音楽祭」の企画・構成(73~92)、サントリーホールの国際作曲委嘱シリーズの監修(86~98)を通して、日本の音楽文化に果たした貢献は多角的かつ厖大である。[平野貴俊]

砂田愛梨が本拠地イタリアからコンテンポラリーを歌いに来ることの価値

沼尻「《決闘》にも、そうした三善さんの厳しさが感じられます。私はこの作品を20年以上前に天羽明惠さんとレコーディングしていますが、今回は砂田愛梨さんを独唱に迎えて演奏します。

砂田さんとは《カルメン》で共演したことがありますが、盗賊の女、フラスキータを演じる砂田さんの非常によく飛ぶ声は《決闘》にピッタリだと思いました。現在彼女はイタリアを拠点にオペラ歌手として活躍されていますが、そういう方がコンテンポラリーの作品を演奏することに大きな意義があると思っています。彼女はこの演奏会のためだけに5日間、日本に帰ってきます」。

@Satoru Masuko
砂田愛梨(ソプラノ)

東京音楽大学卒業、同大学院修了。第4回ジュディッタ・パスタ国際オペラ歌唱コンクール第2位、第94回日本音楽コンクール第1位など受賞歴多数。イタリア・サッサリ市立歌劇場でデビュー後、イタリアの様々なプロダクションに出演を続ける。また日本では、日生劇場『連隊の娘』マリー、新国立劇場『ジャンニ・スキッキ』ラウレッタ、高崎芸術劇場『カルメン』フラスキータで出演したほか、コンサートソリストとして国内各地のオーケストラとも共演。今後は新国立劇場『ウェルテル』ソフィー、日生劇場『ドン・ジョヴァンニ』ドンナ・アンナなどで出演予定。ミラノ在住。

武満徹《リヴァラン》に小林愛実の音楽性が重なった

沼尻「武満さんは三善さんと同じように戦争を体験している世代ですが、創作においては特に晩年、人間同士の繋がりを描く、温かで柔らかい表現を追求しました。武満さんの音楽からは戦後日本の生気が聞こえてくるようです。

リヴァランを指揮するのは今回が初めてなのですが、2006年2月にサントリーホールで開催された『NHK交響楽団 武満徹メモリアルデー・コンサート』でウラディーミル・アシュケナージさんがこの作品を弾き振りした際に、副指揮者を務めた経験があります。本番ではピアノの脇に座って譜めくりもしました(笑)。このときに、作品をじっくりと勉強したので、いつか自分も指揮をしてみたいと思っていました。

今回小林愛実さんにソロをお願いしたのは、彼女の演奏するロマン派の作品、とりわけショパンを弾くときの音やスタイルが《リヴァラン》にとても合うと思ったからです。ショパン・コンクールの入賞者として、普段からショパンをたくさん弾いている小林さんの音楽性が、武満の作品でどのように作用するのか、とても楽しみです」。

©HOSOO CO., LTD.
小林愛実(ピアノ)

2021年10月、第18回ショパン国際ピアノコンクール第4位入賞。7歳でオーケストラと共演、9歳で国際デビューを果たす。ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ、ソヒエフ指揮ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団など多数のオーケストラと共演。10年に14歳でEMI ClassicsよりCDデビュー。24年11月にCD『シューベルト:4つの即興曲 作品142、ピアノ・ソナタ第19番 ハ短調、ロンド イ長調(連弾)他』をワーナークラシックスよりリリース。22年3月、第31回出光音楽賞受賞。

今後日本でも注目が高まる ショーン・シェパード

第3部のショーン・シェパードトーマス・アデスは、ともに今日の現代音楽界でとりわけ高く評価されている作曲家だ。シェパードは2027年度の「武満徹作曲賞」の審査員に内定しており、今後日本でも注目が高まることが予想される。

アデスも2020年度の「武満徹作曲賞」で審査員を務め、2021年1月に開催された同賞関連企画「トーマス・アデスの音楽」では、コロナ禍で来日が叶わなかったアデスに代わり、沼尻が指揮台に立った。その際にソリストを務めたのが成田達輝であり、録音を聴いたアデスは沼尻と成田の演奏を絶賛したと伝えられる。

そんなふたりが、今回アデスの作品で再共演を果たす。

沼尻「シェパードさんに関心を持ったのは、私が尊敬する指揮者のケント・ナガノさんが、彼の作品を高く評価していたからでした。今回のプログラムをサントリーホールのスタッフの皆さんと検討していた際、候補のなかにシェパードさんの作品を見つけて、これは良い機会だと迷わず選びました。

シェパードさんの音楽には奇を衒ったところがなく、今回演奏する《表現抽象主義》もある意味正統的なオーケストレーションが際立つ作品です。そこから生み出される品格あるサウンドは、サントリーホールの響きとも相性が良いと思います」。

©Jennifer Taylor
ショーン・シェパード(1979~ )

リノ(ネバダ州)出身。インディアナ大学でファゴットと作曲を学び、ジュリアード音楽院修士課程を経て、コーネル大学大学院博士課程でロバート・シエッラとスティーヴン・スタッキーに師事。2012年、ニューヨーク・フィルハーモニックのクラヴィス新進作曲家賞を受賞、その後アンサンブル・アンテルコンタンポランやWDR交響楽団により作品が初演されるなど、ヨーロッパでも知られるようになる。その音楽は饒舌さと生命力、都会的で洗練された感触を特徴とする。そうした美点を顕著に示すのが、各楽器群の音色を細やかに際立たせ、明快で立ち上がりのよい響きを作りだした小管弦楽のための『これらの特殊な事情』(09)と、色彩感のある和声も加えて、力動性と抒情性を両立させた管弦楽曲『表現抽象主義』(17)である。近年は内省的な雰囲気も採りいれて作風を多面化させており、23年、カーネギーホールにてケント・ナガノ指揮ハンブルク州立フィルハーモニー管弦楽団によって初演された独奏チェロと独唱、合唱を伴うオラトリオ『晴れた日に』はそうした傾向を表す一作である。同年、アメリカ芸術文学アカデミーのチャールズ・アイヴズ生活賞を受賞。2027年度武満徹作曲賞審査員。[平野貴俊]

アデス作品での共演が忘れられない成田達輝 今回の《アリア》でもピュアな音楽性に期待

沼尻トーマス・アデスさんが国際的に注目を集めるきっかけとなった、サイモン・ラトルのベルリン・フィルハーモニー管弦楽団芸術監督就任披露公演での《アサイラ》を、私は現地で聴いていて、リハーサルも見学しました。その後も『コンポージアム』(東京オペラシティの同時代音楽を中心とするフェスティバル)で彼の代役を務めたり、なにかと縁の深い作曲家です」。

©Marco Borggreve
トーマス・アデス(1971~ )

ロンドン出身。ケンブリッジ大学で学ぶ(1989~92)。管弦楽曲『アサイラ』(97)でロイヤル・フィルハーモニー協会賞、2000年には史上最年少でグロマイヤー作曲賞を受賞するなど、短期間で国際的名声を確立。指揮者、ピアニストとしても活躍する。スキャンダラスな題材にもとづく室内オペラ『顔に白粉を』(1995)も成功し、その後創作された2つのオペラ『テンペスト』(2003)、『皆殺しの天使』(15~16)も再演が重ねられるなど、現代もっとも人気のあるオペラ作曲家のひとりでありながら、あらゆる形態の作品を発表している。ポピュラー音楽を含む多様なジャンル、時代の音楽を参照するその作品は、一作ごとに異なる様相をみせるが、室内アンサンブルのための『生きた玩具』(1993)などの初期作品にみられる皮肉っぽさや諧謔味は、後の『ピアノ協奏曲』(2018)やヴァイオリンと管弦楽のための『おとぎ話の踊り』(20)にも現れている。またシュルレアリスト的とも評される夢幻的な響きは、近年では管弦楽曲『ポラリス』(10)、『夜明け』(20)、ヴァイオリンと管弦楽のための『アリア(エア)』(21~22)において、線的で緻密なテクスチュアのなかで実現されている。[平野貴俊]

沼尻「今回演奏するアデスさんの《アリア》は、『シベリウスへのオマージュ』という副題からもわかるように、透明度の高い作品で、誤解を恐れずに言えば、東山魁夷の絵のような音楽ではないかと思っています。やはりアデスさんが住むイギリスは、フィンランドと同じく、北海道より北にある国なんだなとも感じます。

ソリストを務めてくださる成田達輝さんは、2021年にご一緒した東京オペラシティの「トーマス・アデスの音楽」における『ヴァイオリン協奏曲《同心軌道》』の名演が忘れられません。とても難しい作品でしたが、どんなに複雑なパッセージでも、成田さんが弾くと音楽として心にすっと入ってきました。彼の演奏はどこまでも感性豊かで、こうやって現代の作品を弾ける人がいるのかと驚いたのを覚えています。共演した東京フィルのメンバーも、成田さんのソロを絶賛していました。今回も成田さんのピュアで自然な音楽性が存分に活きるだろうと期待しています」。

©Marco Borggreve
成田達輝(ヴァイオリン)

2010年ロン゠ティボー国際コンクール第2位、12年エリザベート王妃国際音楽コンクール第2位。国内外の指揮者・オーケストラと多数共演し高い評価を得るとともに、リサイタルやジャンルにこだわらない様々なアーティストとの室内楽においても圧倒的なテクニックと多彩な表現力を披露している。現代作曲家とのコラボレーションも多く、22年9月には坂本龍一のプライベート録音に参加し『ソナタ』などを演奏。使用楽器は、A. ストラディヴァリ「Tartini」1711年製(宗次コレクションより貸与)。

『サントリーホール サマーフェスティバル 2026』では、今回掘り下げた「時を編む響」のほか、沼尻が若手演奏家たちとともに立ち上げるアンサンブル・ゴーフォーイット」の第1回演奏会も開催され(8/22 ブルーローズ[小ホール])、沼尻の長年の音楽活動を通して蓄積された、現代音楽に対する豊富な経験が、新しい世代の音楽家たちへと継承される。そうした試みは日本の音楽界の未来に確かなインパクトを残すだろう。

沼尻「現代音楽のコンサートには、滅多に演奏されない作品が聴ける貴重な機会であることを前面に押し出して、イベントのように盛り上げていくものも少なくありません。そうしたアプローチも悪くはないのですが、ベートーヴェンやブラームスのような古典が演奏される普段のコンサートの延長として、現代の音楽を聴いていただきたいというのが私の思いです。

現代音楽を特別なものとして古典と切り離すのではなく、バッハやモーツァルトから連綿と続く音楽史の流れに連続するものとして、同時代の作品を捉えることが大切だと思っています。かつてはそれを破壊することを主眼とした作品も多く作られて、誤解も生じていると思いますが、今回取り上げる作品はいずれも音楽史の連続性が感じられるものばかりです。両日とも安心して(笑)サントリーホールへおいでください」。

現代音楽を日常に」という沼尻の想いを受け止めて、私たちも身構えることなく、時代の響きに耳を傾けたい。

サントリーホール サマーフェスティバル 2026
サントリーホール開館40周年記念「時を編む響」

日時:8月27日(木)18:30開演
会場:サントリーホール 大ホール

曲目
第1部
カミーユ・ペパン(1990~ ):弦楽四重奏のための『シルヴァカーヌの水の葉』(2019) 日本初演
池田亮司(1966~ ): 9本の弦のための『op. 1』(2000~01)日本初演

第2部
三善晃(1933~2013): ソプラノと管弦楽のための『決闘』(1964)
武満徹(1930~96): ピアノと管弦楽のための『リヴァラン』(1984)

第3部
ショーン・シェパード(1979~ ): 管弦楽のための『表現抽象主義』(2017) 日本初演
トーマス・アデス(1971~ ):
ヴァイオリンと管弦楽のための『アリア(エア)』~シベリウスへのオマージュ(2021~22) 日本初演

出演
ソプラノ:砂田愛梨
ピアノ:小林愛実
ヴァイオリン:成田達輝
ヴァイオリン:石上真由子
ほか 
指揮:沼尻竜典
東京交響楽団

料金:指定席 S席 6,000円/A席 4,000円/U25席 1,000円

詳しくはこちら

取材・文
八木宏之
取材・文
八木宏之

1990年、東京生まれ。青山学院大学文学部史学科芸術史コース卒。愛知県立芸術大学大学院音楽研究科博士前期課程(修士:音楽学)およびソルボンヌ大学音楽専門職修士課程(M...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ