読みもの
2026.08.05
生誕100周年!『長岡鉄男の仕事 伝説のオーディオ評論家 その生涯とマスターピース』編集担当が語る

長岡鉄男の伝説エピソード7選〜焼肉店で執筆、スピーカー設計図を600本以上も描いた!?

2026年は、オーディオ評論家・長岡鉄男(1926〜2000)の生誕100年。音楽之友社から刊行された書籍『長岡鉄男の仕事 伝説のオーディオ評論家 その生涯とマスターピース』には、評論やエッセイ、自作スピーカーの設計図など、膨大な仕事の一端が収められています。

「伝説の評論家」と呼ばれることは多いものの、その理由を知る人は意外と少ないかもしれません。

今回は、本書の編集を担当した宍戸佐弥、元「Stereo」編集部員で書籍課の田中基裕、「Stereo」編集長・吉野俊介がStereoの視聴室に集い、長岡鉄男という人物を物語る7つのエピソードをご紹介します。

音楽之友社出版局書籍部
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出版局書籍部では、クラシック音楽を中心にプロの音楽家・指導者・研究者向けから演奏や鑑賞の初心者向けまで、音楽に関するあらゆる本の編集を行っています! 半世紀以上におよ...

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※本記事はポッドキャスト番組『ONTOMO Radio』で語られた内容を再構成しています。

1. 焼肉店でも原稿を書き続けた

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取材が終わると、編集者たちと焼肉店へ。普通なら仕事を終えて食事を楽しむ時間ですが、長岡鉄男は違いました。

テーブルに座ると、おもむろに万年筆を取り出し、その場で原稿を書き始めるのです。

焼肉を食べながら、雑談にも加わりながら、それでも手は止まりません。編集者が食事を終える頃には、ベストバイコンポの記事など数本分の原稿がすでに完成。「はい」と手渡された編集者は、そのまま持ち帰ったといいます。

さらに驚くのは、その執筆スタイルでした。途中で考え込んだり、何度も書き直したりすることはほとんどなく、冒頭から最後まで一気に書き進める“一筆書き”。文字数が少しオーバーしたときだけ、「ここをカット」と印を付ける程度で、ほぼ完成原稿になっていたそうです。

「Stereo」元編集部の田中基裕は、「原稿を書いているというより、こんこんと湧き出る言葉を写し取っているようだった」と振り返ります。その圧倒的な仕事の速さは、編集部でも語り草になっていました。

2. スピーカー設計図を600本以上も描いた

長岡鉄男といえば、自作スピーカー。その設計図は、生涯で600本以上にのぼるといわれています。しかも、その1枚1枚が驚くほど緻密です。

代表作であるバックロードホーンは、内部を音の通り道が何度も折れ曲がる複雑な構造。しかし長岡は、その迷路のような内部設計を、まるで製図の見本のように美しい手書きの図面へと描き起こしていました。

編集者がさらに驚いたのは、図面にもほとんど書き直しの跡がなく、迷いなく描き進めて完成させていたこと。原稿と同じように、設計図まで”一筆書き”だったのです。

「この人の頭の中はどうなっているんだろう」。複雑な構造を何種類も考え出し、それを迷いなく図面に落とし込む姿に、編集部の誰もがそう感じていたといいます。

長岡鉄男と代表作「スワン」

3. バブル時代でも「高いものが一番」とは言わなかった

1980〜90年代は、日本のオーディオ黄金期。 高級オーディオが次々と登場し、「高価な機材こそ最高」という空気もありました。

そんな時代に、長岡鉄男が一貫して提案したのは「自作」という選択肢でした。 もちろん高級機も評価します。 しかし、「コストを抑えながら、自分だけの理想の音を追求できる」という自作の価値を最後まで語り続けました。

「平均点の高い音」ではなく、「一点突破の魅力」。 その哲学が、多くのオーディオファンを惹きつけたのです。

4. 毎年7〜8台の新作スピーカーを生み出した

「Stereo」の夏号といえば、自作スピーカーの「工作特集」。読者にとって毎年の恒例企画でしたが、その中心にはいつも長岡鉄男がいました。

驚くのは、その仕事量です。長岡は毎年のように7〜8台もの新作スピーカーを設計。しかも図面を描くだけでは終わりません。編集部が実際にスピーカーを製作して長岡のもとへ運び、丸1日かけて測定や試聴を実施。その結果をもとに誌面へ掲載するという工程を、何十年にもわたって繰り返していました。

1台設計するだけでも大仕事。それを毎年7〜8台も発表し続ける。編集部にとっても、それは夏の一大プロジェクトだったのです。

2000年に長岡が亡くなったとき、「Stereo」編集部で真っ先に話題になったのは「これから工作特集をどうするのか」ということだったといいます。それほどまでに長岡鉄男は、一人の評論家という枠を超え、日本の自作スピーカー文化そのものを支える存在でした。

自作スピーカーと自宅の前で

5. オーディオだけではない! 文章が抜群に面白かった

今回の書籍制作で、編集者たちが改めて驚いたのがエッセイでした。 政治、歴史、文学、音楽、日常……。どんなテーマでも軽妙に語り、思わず笑ってしまうような文章を書く。

週刊誌連載らしい時代の空気も色濃く残っていて、「今読んでも面白い」という声が編集者の間で相次いだといいます。 オーディオ評論家という肩書だけでは語れない、「書き手」としての魅力もまた、長岡鉄男の大きな才能でした。

6. 評論はたった一言で信頼を勝ち取った

オーディオ評論では、スペックや試聴結果など、多くの情報が並びます。そのなかで読者が特に注目していたのが、長岡鉄男が最後に添える短いコメントでした。

必要以上に大げさな表現を使うことはなく、メーカーへの配慮も忘れず、それでも評価すべきものはきちんと評価する。その絶妙な言葉選びが、多くの読者から信頼を集めていたといいます。

長々と褒めるよりも、短い一言のほうが重みを持つ。長岡鉄男の評論には、そんな独特の説得力がありました。

長岡鉄男の究極のホームシアタールーム「方舟」

7. 「未来を思いわずらうより、今を生きる」

『長岡鉄男の仕事 伝説のオーディオ評論家 その生涯とマスターピース』では、最後のページのイラストでこんな言葉をつぶやいています。

未来のことを思いわずらってもしょうがない。現在を精いっぱい生き、仕事をせっせとするのが一番だ。

戦争を経験し、激動の昭和を生きた長岡鉄男。  膨大な原稿を書き、数え切れないほどのスピーカーを設計し、自分が面白いと思うことを追い続けた人生。 その生き方そのものが、多くの人を惹きつけ、「伝説」と呼ばれる理由なのかもしれません。

長岡鉄男の仕事を知ることは、1人のオーディオ評論家を知ることではありません。本書を読み進めるほどに、「伝説」は誇張ではなく、積み重ねられた仕事の量と質が生んだ事実だったことに気づかされます。

ポッドキャストの視聴はこちら

参加者:宍戸佐弥(MC/書籍課)、田中基裕(書籍課)、吉野俊介(月刊「Stereo」編集長)

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