レポート
2026.08.06
西ノルウェーのフィヨルドの奥地、フォルデで開催

人口1万人の町で観客2万人を動員した北欧最大のワールドミュージックの祭典

ノルウェーの小さな町で毎年、開催されるワールドミュージックの祭典「フォルデ・フェスティバル」。今年で36回目を迎え、ヨーロッパの優れた音楽祭に贈られる「ヨーロッパ芸術祭賞」TOP 5にも選出されている名門フェスについて、現地レポートが届きました!

野崎洋子
野崎洋子 音楽プロデューサー

1966年千葉県生まれ。日本大学文理学部出身。 メーカー勤務を経て96年よりケルト圏や北欧の伝統音楽を紹介する個人事務所THE MUSIC PLANTを設立。 コンサ...

ジャワ
photo: Lieve Boussauw

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東京ではまだ梅雨が続く6月末。ヨーロッパでの別の仕事を終え、筆者はフィヨルドが美しいノルウェー西部にあるフォルデという町にやってきた。人口は1万人ほどのこの町で行われるフォルデ・フェスティバル(Førdefestivalen)は、スカンジナビア半島最大のフォーク/ワールドミュージックの祭典。1990年にスタートし、毎年20〜25か国から約250人の奏者が集まり、2万人規模の来場者を楽しませる。

今年の出演アーティストの音源がまとめられている公式プレイリスト

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なぜ、小さな町でフェスを開催できるのか

普段は静かなこの町も、音楽祭の期間中は、コンサートホールやスタジアムはもちろん、ホテルの宴会場、公園、アートギャラリー、ショッピングセンターなどにもステージが組まれ、有料のコンサート以外にも無料ライヴや子どもイベント、無料朝食会、セミナーなど豊富なプログラムが組まれる。

気軽に参加できる無料朝食会。体育館のような広い場所で行なわれ、近所の人や地元の友人と再会しコンサートへ一緒に行く機会につながる
photo: Anders Lillebo

なぜ、この小さな町でこんなことが可能なのか。北海油田で潤うノルウェーという国が文化支援に力を入れているということが、まず大きな一因だし使いやすい助成金のシステムも心強いが、加えてイベントがもつ「広い視野」「音楽愛」も重要要素だ。

今回も、私をはじめ多くの音楽ジャーナリスト、外国のフェスの音楽監督、エージェント、マネージメントが世界中から20人ほど集められ、交流の場が設けられた。音楽産業にとっては厳しい時代だが、こうした志を同じくする者たちが集まり情報交換、そして音楽愛を分かち合う。ノルウェーがその「ハブ」になることに、彼らは大きな誇りを感じているのだ。

この地に音楽関係者が集められたところで、大きな利益を生むビジネスが明日生まれてくることはない。しかし実際、私もここ12年の間に、この音楽祭で出会ったヤヌシュ・プルシノフスキ(ポーランド)や、ライコー・フェーリックス(セルビア)を日本に招聘することができた。文化イベントに国のトップがやって来て「この産業は自国にいくらの利益をもたらす」と言ってしまうような国とはレベルが違うのだ。

20〜25か国から約250名のアーティストが出演! 今回の多彩な顔ぶれ

世界を舞台に活躍するコラ(西アフリカの民族楽器)奏者のセク・ケイタ(セネガル)にとって、アフリカ外における最初のコンサートは、この音楽祭だったという。今年は、その公演からちょうど30周年ということで、プログラム監督を長年勤めたヒルダ・ビョルクンと一緒に誇らしげに記念写真に収まるセクの姿がまぶしかった。

セク・ケイタ
photo: Arve Ullebø

野外の公園で子ども向けの楽しいモーニング・コンサートを行なった、ボスニア出身のアルミル・メシュコヴィッチ Almir Meskovic(フィドル)とセルビア出身のダニエル・ラザル Daniel Lazar(アコーディオン)は、留学先であるノルウェーの音楽アカデミーで出会い、ここでデュオを結成し、ここをベースに精力的に活動を続けている。そんな話を聞くと、音楽に不可能なことはないのかもしれないと信じたくなる。

今年も、例年にもれずヨーロッパ、アジア、中東、アフリカなどからたくさんのアーティストが集まったが、個人的にもっとも気になったのは、北欧の“楽器に愛された男たち”、リュドヴァル・ミェルヴァ・カー Rydvall Mjelva Carrの3人だ。3つの弦楽器が、ひとつの塊となってうねるようなサウンドを作り出す様は、まるでトリオ時代のヴェーセンを思わせる。

左からエリック・リュドヴァル(ニッケルハルパ)、オーラヴ・ミェルヴァ(ハーディングフェーレ)、アレ・カー(ブズーキ)
photo: Lieve Boussauw

ブズーキのアレ・カーは、別バンドのドリーマーズ・サーカスのメンバーとして9月に来日が決定。こちらはクラシックのヴァイオリン奏者で昨年レオニー・ソニング音楽賞を受賞したルネ・トンスゴー・ソレンセン(Danish String Quartet)が参加している注目のグループだ。

2026年の来日公演が話題となったドンバスの娘たち Daughters of Donbas(ウクライナ/カナダ)も元気な姿を見せてくれた。彼女たちをはじめ、キナリス Kinnaris Q(スコットランド)や、カアマニョ & アメイシェイラス Caamaño & Ameixeiras(スペイン北西部の自治州ガリシア)、ラ・ペルラ La Perla(コロンビア)など、今年のフォルデは女性バンドの活躍ぶりが目立つ。

ほかにも、姉弟デュオのパルヴィーン & イリヤス・カーン Parveen & Ilyas Khan(インド)による古典からヒューマンビートボックスまで盛り込んだステージや、自らを「古代都市アレッポの最後の吐息」と銘打ちダーヴィシュのダンサーを従えて登場したジャワ Jawa(シリア)のステージも素晴らしかった。

パルヴィーン&イリヤス・カーン
photo: Anders Lillebo

音楽マニアではない、地元の人たちが集うフェス

5日間で、20弱のアーティストのライヴを体験することができたが、ここに紹介したのは、そのほんの一部。

実際、地元の人々とこれほど広範囲における世界の音楽を聴いていると、客層がいわゆる音楽マニアではないのも、この音楽祭の強みではないかと感じられた。普段の彼らはラジオやテレビから流れる音楽をただ耳にしているだけかもしれない。そんな人たちもこの期間だけは新しい音楽に心を開き、楽しむ。

この町の多くの人々が子どもの頃からこのフェスを経験し、時にはボランティアに参加したりして、すべてが深く人々の間に根付いているのだ。こういった町がもつ知的財産はお金を出しても買えないし、短期間で築くこともできない。だがそれはとても力強く、同時に簡単に奪われるものでもない。

フォルデ・フェスでは毎年テーマが決められている。今年のテーマは「平和!(ノルウェー語でFred!)」。音楽の社会における役割を改めて確信した5日間だった。

野崎洋子
野崎洋子 音楽プロデューサー

1966年千葉県生まれ。日本大学文理学部出身。 メーカー勤務を経て96年よりケルト圏や北欧の伝統音楽を紹介する個人事務所THE MUSIC PLANTを設立。 コンサ...

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