インタビュー
2022.12.30
2022年のピアノ界を熱狂させたピアニスト

亀井聖矢インタビュー~その音楽の磁力と類いまれな技巧が生み出される秘密が知りたい

2022年、多くのピアノ・ファンを熱狂させたピアニストの亀井聖矢さん。

ONTOMOでも、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール、ロン=ティボー国際コンクールとその軌跡を追ってきました。

コンクールでもコンサートでも、聴き手をその音楽世界に引き込んで離さない磁力と、類まれなる技巧はどのようにして生み出されるのか。その秘密を知るため、取材を申し込むことに。

初出し発言も多く飛び出し、「まだまだ掘れますね」と笑顔を見せた亀井さん。図らずも20歳最後となった、記念すべきインタビューをお届けします。

道下京子
道下京子 音楽評論家

2019年夏、息子が10歳を過ぎたのを機に海外へ行くのを再開。 1969年東京都大田区に生まれ、自然豊かな広島県の世羅高原で育つ。子どもの頃、ひよこ(のちにニワトリ)...

撮影:ヒダキトモコ

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海外に挑戦したい気持ちがコロナ禍に阻まれて

――亀井さんは留学経験がありませんが、国内外のコンクールで優勝・上位入賞を重ねています。その原動力はどこにあるのですか?

K ずっと日本にいるので、海外に挑戦したいという気持ちがどんどん強くなっていたところで、コロナ禍によってより制限されてしまいました。それがこの1年で緩和されました。マリア・カナルス国際コンクールやヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールに挑戦するなかで、ロン=ティボー国際コンクールに向けて海外での生活や、コミュニケーションなど音楽以外の難しい面についても整えていけたかなと思います。

特に、ロン=ティボー国際コンクールに出場する際には、リモートではなく、来日された素晴らしい先生方のレッスンを直接受ける環境があったので、海外で勉強しているようなエッセンスをレッスンを通してとり入れることができました。

練習は質と量のどちらも大事

――以前、練習時間はとても少なく、特に中学時代は学校から帰って2時間あるかないかだったとおっしゃっていました。

K 昔からそうでした。

――効率が良いのですか?

K 小学校の頃はサッカーをやっていたので、学校から帰ってきてサッカースクールに行くまでの2時間くらいの中で、ピアノの練習をしなければなりませんでした。そのため、いかに効率よく練習できるかを考えていくようになりました。

いまは、それほど他のことに縛られることはないので、2時間よりも長く練習できる時間はありますが、そんなに長く集中力は続きません。量より質を思い続けてきたのですが、最近は質があっての量も大事だなと思っています。

――効率だけで、亀井さんのあの超絶技巧が身につくものではないと思うのですが……。

K 譜読みは速い方だと思います。小さい頃から楽典や理論などを教えていただき、ソルフェージュもすごく好きでした。効率よく譜読みや暗譜ができる基礎を作ってくださった最初の先生に感謝しています。

ただ、いくら譜読みが速くても、音楽を作るのは別のステップです。そこは、弾きこんだ分だけ見えてくるものはあるし、質の良い練習をたくさんしていかなければ、効率だけを求めていても限界はあります。どちらも大事です。

亀井聖矢(かめい・まさや):ロン=ティボー国際コンクール2022で第1位を受賞。併せて「聴衆賞」「評論家賞」の2つの特別賞を受賞。2001年生まれ。4歳よりピアノを始める。桐朋学園大学1年在学中の2019年、第88回日本音楽コンクールピアノ部門第1位、及び聴衆賞受賞。同年、第43回ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリ、及び聴衆賞受賞。2022年、マリア・カナルス国際ピアノコンクール第3位受賞。ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールセミファイナリストなど、国内外での受賞を重ねている。国内の著名な指揮者および主要オーケストラとも多数共演。
これまで青木真由子、杉浦日出夫、上野久子、岡本美智子、長谷正一の各氏に師事。Bruno Leonardo Gelber、Maria Joao Pires、Rena Shereshevskaya、Jean-Marc Luisada、 Dina Yoffeの各氏のレッスンを受講。作曲を鈴木輝昭氏に師事。愛知県立明和高等学校音楽科を経て、飛び入学特待生として桐朋学園大学に入学。現在、桐朋学園大学4年在学中。
2022年12月にサントリーホールデビューリサイタルを開催、1stフルアルバム「VIRTUOZO」をリリース。

ゲルバー直系の「濃く歌う」表現を教え込まれた

――中学時代から長谷正一先生に師事し、手の筋肉や指の動かし方を学んだと以前におっしゃっていましたね。

K 長谷先生は、ブルーノ=レオナルド・ゲルバーのもとで勉強されました。ゲルバーさんの先生(筆者注:ヴィンチェンツォ・スカラムッツァ)から由来するテクニックですが、指のタッチだけではなく、手首や腕の使い方など、いろんなパターンの基礎的な練習があります。

毎日やるように言われていたのですが、僕はちょっと飽きてしまい、気が向いたときしかやっていませんでした(笑)。でも、弱くなってきたなと自覚するとまたやり始め、今でもコンクール前には毎日やるようにしています。

 ――亀井さんは、系譜的にゲルバーさんの流れを汲むのですね。

K 「(ゲルバーさんの音は)すごく鳴るよ」と先生はおっしゃっていました。「いまの聖矢くんの2倍くらい鳴るよ」って。音の厚みや深さからとても濃い表現を音楽に詰め込んでいくところを、先生から教えていただきました。

――亀井さんの演奏を初めてライヴで聴いたのは、亀井さんが18歳になって間もない時期でした。それ以降、私はホールに足を運び、亀井さんのソロもデュオも聴いています。ロン=ティボー国際コンクールの配信を聴き、以前よりも音の響きに奥行きが出てきたように感じました。

 そのコンクールの直前まで先生にレッスンしていただいたとき、「もっともっと濃く歌って」と言われていました。

1音1音をもて余すことなくエネルギーを注ぎ込む

K  ファイナルで演奏したサン=サーンスの「ピアノ協奏曲第5番」もそうですが、例えばモーツァルトやフランスの作品では軽い音の響きを作り、そんなに深いタッチでは弾かないというイメージがあると思います。それは、1m離れたところで聴いているのならば良いかもしれませんが、「2000席のホールで弾いた時には何をやっているのかわからないよ」とアドヴァイスをいただきました。オーケストラと共演するとなると、なおさらです。

pと書いてあったとしても、それは表現としてのpであり、例えば音の量が10分の1しかなかったならば、そこに10倍のエネルギーを詰め込まなければいけないと言われます。1音1音をもて余すことなく、自分のエネルギーを注ぎ込むことを意識し、自分のできうる限りのすべての表現を音楽に詰め込みます

縦の響きもそうですし、その響きがどのように横へとつながっていくかもそうです。“ここ”で鳴っている音ではなく、鳴らしたその音が響きわたっていく……その響きの動きを聴くこと、そして濃く歌うことを意識しました。

手はドからソまで12度(!)届く。亀井さんいわく「これからもっと開くようになるかも」

自分を客観的に把握していたいタイプ

――私のなかでは、亀井さんには客観的でクールなイメージがあります。

K メタ的な視点は自分でも意識して持つようにしているし、もともと俯瞰して見る性格なのかもしれません。それは音楽においてもそうですし、自分がいま何をやっているのかを客観的に把握していたいのです。

例えば、本番で手汗が出てミスタッチが怖くなってしまったり、思わぬところで暗譜が飛びそうになってしまったりすることがありますが、何が原因でそうなっているのかと。そういうことを、自分のなかで言語化して考えるのも好きです

――タイプ的に、ご自身は文系or理系……どちらだと思いますか?

K 理系だと思います。数学が好きだったので、もしも続けていたらすごくハマっていたと思います。

中学時代、自分で数学の問題を作って先生に出して、先生が解いてくれるのを楽しんでいました。今思うと嫌な生徒ですね(笑)。

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