
ドラゴンクエスト40周年!「音楽の友」が見つけたゲーム音楽の本当の価値

1986年の誕生以来、多くの人にとって『ドラゴンクエスト』は冒険の記憶とともにあります。そして、その記憶と切り離せないのが、すぎやまこういちによる音楽です。
ファミコンという限られた音数で鳴っていたはずの旋律が、なぜこれほど豊かに響き、40年経った今も人々の心を動かし続けるのでしょうか。
「音楽の友」2026年8月号では、「誕生40周年『ドラゴンクエスト』の音世界」と題した32ページの大特集を掲載。ゲーム史に残る名作を、クラシック音楽専門誌ならではの視点から掘り下げました。
今回は、その特集を担当した「音楽の友」の岩永昇三編集長と、1987年に音楽之友社へ入社し、「音楽の友」「レコード芸術」編集部を経て現在は音楽ジャーナリストとして活躍する林田直樹さんが、『ドラゴンクエスト』の音楽の魅力について語り合います。
※本記事はポッドキャスト番組『ONTOMO Radio』で語られた内容を再構成しています。
『ドラゴンクエスト』への愛があふれる!
岩永 今回の「音楽の友」8月号では、「誕生40周年『ドラゴンクエスト』の音世界」を特集しました。クラシック音楽の専門誌がゲーム音楽を32ページにわたって取り上げるのは、かなり異例の企画です。

林田 いや、本当に嬉しかったですね。私は1987年に音楽之友社へ入社したんですが、『ドラゴンクエスト』の発売はその前年。会社に入ってもゲームから足を洗うなんて、とてもできませんでした(笑)。昼は「音楽の友」を編集し、夜は『ドラゴンクエスト』をプレイする。そんな青春でした。
今回、久しぶりに「音楽の友」へ書くテーマが『ドラゴンクエスト』だった。燃えないわけがないんです。普段の10倍くらい気合いを入れて原稿を書きました。
岩永 1987年ということは、1986年の『ドラゴンクエスト』の発売と実はシンクロしている。
林田 そうですね。会社に行きながら『ドラゴンクエスト』をプレイすることは、私の人生にとって、本当に心の癒やし、オアシスであり、また、一番燃えることができた。「音楽の友」の編集にも燃え、 ゲームにも燃えておりました。
岩永 『ドラゴンクエスト』のゲームデザイナーである堀井雄二さんをはじめ、音楽を担当した作曲家すぎやまこういちさんの事務所、スギヤマ工房の皆さん、当初から『ドラゴンクエスト』のコンサートに出演している東京都交響楽団の皆さんにもご協力いただいて、本当に愛にあふれた特集になりました。
林田 雑誌は、愛ですよ。
岩永 先輩、愛ですか(笑)。
林田 愛がなかったら雑誌なんて作れません。今回の誌面からは、『ドラゴンクエスト』への愛も、すぎやまこういちさんの音楽への愛も、ひしひしと伝わってきました。

なぜファミコンの音はオーケストラに聴こえたのか
岩永 林田さんは『ドラゴンクエストII』からプレイされたそうですね。
林田 そうです。当時は、主人公に自分の名前を付けて、本当に自分が勇者になったような気持ちで冒険していました。何度も全滅して、書き写したはずの復活の呪文が間違っていてさらに絶望する(笑)。ドラゴンが4匹出てきたときの絶望感なんて、今でも忘れられません。
でも、そんな冒険の思い出と同じくらい、強く記憶に残っているのが音楽なんです。
私は子どもの頃からクラシック音楽が大好きで、オーケストラやオペラをずっと聴いてきました。その耳でファミコン版『ドラゴンクエスト』を聴いたとき、「これはいつか必ずオーケストラになる」と直感したんです。
岩永 実際、すぎやまこういち先生も、最初からオーケストラで演奏されることを意識して作曲されていたとおっしゃっています。
実は初代『ドラゴンクエスト』は、ゲーム中に同時に鳴らせる音がほとんど2音しかありません。最大でも3音です。現在のゲームと比べると、驚くほど限られた条件だったんですね。
それでも、多くのプレイヤーは「壮大なオーケストラが鳴っている」と感じていました。
林田 そこが、すぎやまこういちさんのすごさなんです。
音色が豪華だったからではありません。メロディそのものの力が圧倒的だった。さらに、それを支える和声や低音の流れがしっかり設計されていたから、たった2〜3音しか鳴っていなくても、音楽としてまったく痩せていなかったんです。
私は、それを「音楽の骨組み」だと思っています。家を建てるときも、柱や梁がしっかりしていれば建物は揺るぎませんよね。音楽も同じで、旋律や和声という骨格が強固であれば、どんな編成になっても作品として成立するんです。
だからプレイヤーは、無意識のうちに頭の中で足りない音色を補い、ホルンや弦楽器の響きを想像していたのでしょう。
岩永 序曲の冒頭を聴くと、「これはホルンだ」と感じる方が多いそうですね。
もちろんファミコンにはホルンの音色なんて入っていません。それでも脳内では自然とオーケストラとして再生されている。これは本当に不思議な現象です。
すぎやまこういち:ドラゴンクエストI 序曲
林田 それだけ楽曲の完成度が高かったということです。
ゲーム音楽というと、音色やサウンドの工夫ばかりに注目されがちですが、本当に大切なのは「よい曲を書けるかどうか」です。
その意味で、すぎやまこういちさんはクラシックの作曲家とまったく同じ土俵で勝負していた人なんですよ。
ベートーヴェンと『ドラゴンクエスト』はつながっている
岩永 今回の特集では、1995年に「音楽の友」で掲載した、すぎやまこういち先生へのインタビューも再掲載しています。クラシック音楽をルーツとする先生の作曲観が語られていて、改めて読むと本当に興味深い内容です。
林田 あのインタビューは、今でも忘れられません。すぎやまさんのご自宅に伺って、2時間ほどじっくりお話を聞かせていただきました。私自身、『ドラゴンクエスト』の音楽がどれほど好きかを熱く語ったら、すぎやまさんもとても喜んでくださって。「音楽を愛する者同士」という空気が自然と生まれて、たくさんのお話を聞かせていただいたんです。
そのなかでも、とくに印象に残っているのが、ベートーヴェンについてのお話でした。
岩永 若い頃、SPレコードを聴きながら勉強されていたというエピソードですね。
林田 そうなんです。当時のSPレコードは低音が十分に再生されなかったため、すぎやまさんはスコアを見ながら、自分で低音を口ずさんで補っていたそうです。
メロディに対して、どんな低音が付けば音楽が豊かに響くのか。その感覚を、ベートーヴェンの交響曲第6番《田園》などを通して徹底的に身体に染み込ませていったんですね。
私は、このエピソードには音楽を深く聴くためのヒントが詰まっていると思っています。メロディだけでなく、それを支える低音や和声に耳を傾けることが、音楽の骨格を理解することにつながるからです。
岩永 そうした作曲家としての基礎が、『ドラゴンクエスト』の音楽にも息づいているわけですね。
林田 ええ。いい作曲家というのは、単旋律だけでも人を感動させることができます。
ベートーヴェンのチェロ・ソナタ第3番の冒頭は、チェロがたった一つの旋律を奏でるだけで、一瞬で聴く人を惹きつけます。すぎやまこういちさんの音楽にも、それと同じ力がある。「このメロディが来るか」と思わせる強さがあるんです。
だからこそ、ファミコンという限られた音数でも作品として成立し、後にオーケストラへ編曲されても、まったく違和感がありませんでした。
ベートーヴェンから学んだ「音楽の骨格」を大切にする姿勢が、『ドラゴンクエスト』という作品にも確かに受け継がれている。私はそう感じています。
ゲーム音楽をなめないでほしい
林田 語り始めたら止まらないですが、とにかく、ゲーム音楽をなめないでほしいんですよ。
岩永 今回、僕がこの特集で一番伝えたかったことを、林田さんがそのまま言葉にしてくださいました。

林田 『ドラゴンクエスト』は、ただゲームを盛り上げるためのBGMではありません。物語が始まる高揚感や、仲間との出会い、旅の孤独、そしてラスボスとの対決まで、その世界観そのものを音楽で描いている。私は、それはオペラが果たしている役割と本質的に同じだと思っています。
だからこそ、ゲーム音楽はクラシック音楽と対立するものではなく、同じ「音楽芸術」として語られるべきものなんです。
岩永 すぎやま先生ご自身も、『ドラゴンクエスト』を通してオーケストラやクラシック音楽の魅力を知ってもらいたいという思いから、「ファミリークラシックコンサート ドラゴンクエストの世界」を長年続けてこられました。
今回の特集も、そんな先生の思いを受け継ぎながら制作しました。
『ドラゴンクエスト』が好きな人には、「この音楽はどうしてこんなに心に残るのだろう」と改めて考えるきっかけに。そしてクラシック音楽を愛する人には、ゲーム音楽にもこれほど豊かな芸術性があることを知っていただきたい。そんな願いを込めています。
林田 ゲーム音楽は、一生の心の財産になり得るものです。
子どもの頃に繰り返し耳にした音楽は、その人の感性を育て、音楽を聴く耳を育てていく。すぎやまこういちさんは、そのことを信じて、子どもたちが日常的に触れる音楽だからこそ、一切妥協せず、最高のクオリティを注ぎ込んだのだと思います。
40年を経た今もなお、多くの人の心に冒険の記憶とともに生き続ける『ドラゴンクエスト』の音楽。その魅力を、クラシック音楽という新たな視点から見つめ直すことこそ、「音楽の友」がこの特集を届ける理由なのです。
ポッドキャストの視聴はこちら
(林田直樹/堀井雄二/三宅 有/岡本北斗/山崎浩太郎/飯尾洋一/小室敬幸/矢部達哉/山本友重/西條貴人/高橋 敦/下野竜也)
1986年5月27日に発売となったファミリーコンピュータ用ソフト『ドラゴンクエスト』。ゲームの歴史を変えたこの作品は、その後のゲーム音楽の歴史も変えました。オーケストラ音楽、クラシック音楽を想定して作曲された楽曲の数々は高い人気、評価を獲得し、オーケストラが演奏するゲーム音楽の嚆矢として絶大な影響を与えました。以後、『ドラゴンクエスト』の楽曲は今日まで大人気のコンテンツとして親しまれています。
今回はクラシック音楽専門誌である「音楽の友」ならではの切り口で、『ドラゴンクエスト』シリーズを彩った楽曲の魅力を、作曲者すぎやまこういちの業績、ゲームを制作したスタッフのかたがたへのインタヴューなどを通してご紹介します。
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