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2026.08.19

シューベルトのピアノ曲超入門【聴く編】ピアニスト・佐藤卓史が選ぶ3曲

シューベルトのピアノ曲を聴いてみたい。でも、作品が多くて、どこから聴けばいいのかわからない……そんな人に向けて、シューベルトのピアノ曲全曲演奏に取り組むピアニスト・佐藤卓史さんに、「まず聴いてほしい3曲」を教えてもらいました。

2007年の第11回シューベルト国際ピアノコンクールで優勝し、2014年から「シューベルト・ツィクルス」としてピアノ曲全曲演奏に取り組む佐藤さん。シューベルトのピアノ曲にはどんな作品があり、最初の一歩には何を選べばいいのでしょうか。

ONTOMO編集部
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

ゲスト:佐藤卓史さん(ピアニスト)
参加者:和田響子(MC/「ONTOMO」編集長)

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※本記事はポッドキャスト番組『ONTOMO Radio』で語られた内容を再構成しています。

佐藤卓史(さとう・たかし)
第11回シューベルト国際コンクールでの優勝と、その後の世界的な演奏活動を通して“現代随一のシューベルト弾き”の名声を確立。展開中のライフワークプロジェクト「佐藤卓史シューベルトツィクルス」では、未完成作品の補筆を含む前人未踏のシューベルトのピアノ曲全曲演奏に取り組み、注目を集めている。
秋田市生まれ。高校在学中に日本音楽コンクールで優勝。東京藝術大学を首席で卒業後渡欧、ハノーファー音楽演劇大学、ウィーン国立音楽大学で研鑽を積む。その間、ミュンヘンARD国際コンクール特別賞、シューベルト国際コンクール第1位、シドニー国際コンクール第4位・ショパン特別賞、エリザベート王妃国際コンクール入賞、カントゥ国際コンクール第1位、メンデルスゾーン国際コンクール最高位など受賞多数。ウィーン楽友協会をはじめとする欧州各地のコンサートホールに出演のほか、2011年にはシリア・ダマスカスのダール・アル・アサド文化芸術劇場でソロリサイタルを開催。
NHK交響楽団、東京交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、山形交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、大阪交響楽団、広島交響楽団、ベルギー国立管弦楽団など内外のオーケストラと多数共演。「トリオ・ジャパン」(with石田泰尚・西谷牧人)、「トリオ・スペリオール」(with泉原隆志・上森祥平)各メンバーを務めるなど、アンサンブルピアニストとしての活躍は特に知られており、著名アーティストから絶え間ない共演オファーが寄せられ続けている。
近年は作編曲の分野でも活動を本格化させるほか、放送・配信・執筆・レクチャーなど幅広いフィールドで音楽の“楽しさ”と“奥深さ”を伝える活動に力を注いでいる。
www.takashi-sato.jp

シューベルトのピアノ曲は大きく分けて3つ

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——まず、シューベルトのピアノ曲には、どのような作品があるのでしょうか?

佐藤 曲の数は、どう数えるかによって変わってくるのですが、ざっくり大きなジャンルとして3つあります。1つはピアノ・ソナタ、2つ目が「性格小品(キャラクター・ピース)」と呼ばれるもの、そして3つ目が舞曲です。

ソナタは、同じ時代に、同じウィーンにいた26歳上のベートーヴェンを尊敬し畏怖の念すらあったので、それに対して、自分はどういうソナタを書いていこうかと模索しチャレンジしていたジャンルです。

性格小品には、8曲の《即興曲》と6曲からなる《楽興の時》があります。シューベルトのピアノ曲全体からすると数はそれほど多くありませんが、聴くにも弾くにも昔から親しまれているジャンルです。

そして舞曲。ここれは実用的な目的、つまり仲間うちのダンスパーティーなどで踊るための伴奏として作られました。当時のウィーンで流行っていたので、生前にも出版社からいくつもの曲集が出されています。現在見つかっているだけでも数百曲あると言われています。

その1:《楽興の時》D780〜抒情的な短い曲を気軽に楽しむ

——それでは、シューベルトのピアノ曲を初めて聴く人に向けて、おすすめを3曲挙げていただけますか?

佐藤 「超入門」ということなので、まずは聴きやすい《楽興の時》D780という性格小品をおすすめします。

6曲からなる曲集ですが、全部聴いても20数分ほど。もちろん通して聴いてもいいですし、1曲ずつ抜き出して聴いても、それぞれ違った印象があって楽しめます。自分の時間に合わせて、「今日はこの1曲だけ」と聴けるのもいいところですね。

優しさ、抒情性、それからポエティックな感じが強いので、そういうところを味わいながら聴くと、シューベルトの世界に入っていけるのでは。情景を思い浮かべながら、風が吹いてきた、鳥の歌声が聴こえるといった想像を膨らませるのも楽しいと思います。

《楽興の時》を含む、佐藤卓史さんの第11回シューベルト国際ピアノコンクール優勝記念レコーディング

——第3番は特に有名で、ラジオのテーマ曲や給食の音楽になっていましたね。

佐藤 古くから全世界的に親しまれているので、録音をコレクションして、テンポや繰り返しの有無などを比較して聴き進めてもおもしろいかもしれません。

——ちなみに、シューベルト好きの佐藤さん、思い出の録音はありますか?

佐藤 ラドゥ・ルプー、あるいはアンドラーシュ・シフの録音なんかも、すごく好きでした。古いものだと、ヴィルヘルム・バックハウスやルドルフ・ゼルキン。古い時代の人たちのシューベルトの解釈って、現代の人とはまたちょっと違った、さっぱりしてるというか、サクサクと音楽が進んでいって、ちょっとドライな感じ。そういう演奏も、爽やかで、逆に味わい深い感じもありますね。

ラドゥ・ルプーとアンドラーシュ・シフの演奏

その2:1969年に発見された“謎の曲”《グラーツ幻想曲》を聴く

——では、2曲目は?

佐藤 今度は、ちょっと珍しい曲を挙げたいと思います。《グラーツ幻想曲》です。

この曲は、なんと1969年に新たに発見されるまで存在が知られていなかった作品です。シューベルトの友人ヒュッテンブレンナーの遺品の中から見つかりました。

発見された当初は、「本当にシューベルトが書いたのか」と思われるほど新しい響きを持っていて、真贋をめぐる論争もあったそうです。それほど変わった魅力のある曲なんですね。

——そんな「幻の作品」が、今では聴けるようになっているんですね。

佐藤 作曲年代もわかっていないのですが

——ドイチュ番号のD605Aというのは、だいたいその時期という意味ではないのですね?

佐藤 そうなんです。D605の未完の幻想曲と同じようなスタイルの曲ということで並べておいたというくらいだと思います。

昔から幻想曲はあるんですが、要するに即興的にどんどんセクションが脈絡なく並べられていくようなスタイルの曲です。例えばシューベルトの《さすらい幻想曲》は、1つのモチーフに基づいて、もう少し緻密に組み立てられている幻想曲なんですが、この《グラーツ幻想曲》はそうではない。いろいろなセクションが次々に現れて、それぞれのキャラクターがとてもはっきりしている。まるで「いろんな夢の国を旅行している」ような楽しい曲で、美しい響きもたくさんある。

ものすごく緻密に計算して組み立てたというより、その場で思いついたフレッシュなアイデアが次々と楽譜になっているような魅力があります。

シューベルト:《グラーツ幻想曲》

その3:最後は大作に挑戦!「ピアノ・ソナタ第21番」D 960

佐藤 3つ目には、シューベルトが非常に力を入れて取り組んだソナタというジャンルを聴いていただきたいと思います。

シューベルトの完成したソナタは長いものが多く、聴き通すにはある程度の体力も必要です。でも、どのソナタも本当に素晴らしい。その中から1曲だけ挙げるとしたら、最後の番号が付いたD 960、一般に「ピアノ・ソナタ第21番」と呼ばれている作品です。

演奏時間は約40分。4楽章からなる大作のソナタで、シューベルトが最晩年に書いた作品です。

——40分となると、《楽興の時》からはかなりハードルが上がりますね。

佐藤 シューベルトが最後に書いた作品です。

——亡くなるのが11月19日で、最後のソナタ3曲が書かれたのが9月とされていたようですが、本当でしょうか?

佐藤 昔は、9月の数週間で3曲のソナタを一気に書いたんだ、という話があったのですが、最近はさすがにそれはないだろうと言われていて、春ぐらいから構想したものが、9月頃完成したんじゃないかと。 それにしたってすごい早さですよね。

この曲には、シューベルトの生きてきた人生の集大成のようなものが、メッセージとして残されているように感じます。とても叙情的ですし、特に第2楽章には、すごく孤独な感じの歌が続いていくところがあって、本当に心に染みるような感動があります。そして全曲を通して聴いていくと、最後には魂が救済されていくような、とてもカタルシスのある体験になると思います。

シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番D 960

演奏会情報
佐藤卓史シューベルトツィクルス第24回 「4手のための序曲 ―オペラの夢―」

日時: 2026年9月13日(日)14:00開演

会場: 音楽の友ホール

出演: 佐藤卓史、尾崎未空(ピアノ)

曲目: シューベルト/イタリア風序曲 ニ長調 D592、歌劇《アルフォンソとエストレッラ》序曲 D773、英雄的大行進曲 D885、イタリア風序曲 ハ長調 D597、歌劇《フィエラブラス》序曲 D798、エロルドの歌劇《マリー》の主題による8つの変奏曲 D908

詳しくはこちら

「佐藤卓史シューベルトツィクルス」企画第24回。今回のサブタイトルは「オペラの夢」。上記2つの代表作《アルフォンソ》《フィエラブラス》の序曲は、シューベルト自身がピアノ連弾用に編曲している。これが今回のメインで、加えて19歳のときにロッシーニの《幸福な錯覚》の上演を聴き、そのイタリア風の明るい響きに影響されて書いたという2曲の「イタリア風序曲」(やはり作曲者自身による連弾版)、またケルントナートーア劇場のコレペティトーア時代にオペラの挿入曲を書いていた作曲家エロルドのオペラ《マリー》の主題による変奏曲など、シューベルトのオペラとの関わりに焦点を当てたプログラムを取り上げる。
連弾で共演する尾崎未空はミュンヘン在住のピアニストで、日本ではPTNA特級グランプリでおなじみのほか、国際的に活躍中。2人だけでの共演は今回が初めて。

ポッドキャストの視聴はこちら

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