インタビュー
2026.06.20
特集「楽器リスタート入門」

鈴木優人&廣津留すみれにきく「楽器をやめずに続けてこられたのはなぜ?」

幼い頃から楽器をずっと続けてきて、勉強にも打ち込んでいたであろう受験期もやめず、そしてプロの音楽家になった鈴木優人さん(専門は指揮、ピアノ、オルガン、チェンバロ、作曲)と廣津留すみれさん(事業や執筆など多彩な活動を展開中のヴァイオリニスト)。この6月27日にも調布国際音楽祭で共演するお二人に、ハードな生活の中でも楽器を続けていくマインドやコツを伺いました!

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

写真:編集部

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1日5分でも手は動くようになる

——お二人は、現在も演奏だけでなくさまざまな活動を両立させていらっしゃいます。振り返って、学生時代に学業と楽器の練習を両立させる難しさを感じたことはありましたか?

廣津留 周りのみんなが受験のタイミングで楽器を辞めていくところはたくさん見て、すごくもったいないなと思っていましたね。私自身は高校3年の頃、ハーバード大学の入試の準備が忙しすぎてヴァイオリンはスケールを触るくらいになった時期もありましたが、やめようと思うことはありませんでした。

鈴木 毎日弾いていたの?

廣津留 さすがに毎日は難しかったけれど、効率的に練習すれば30分でも効果があるので、できるときに続けていました。重要なのは、自分のキャパシティの上限が100%だと考えないこと。100%が上限だと思うと、受験勉強に90%投下するなら残りは10%しかないと音楽をあきらめがちです。

でも、私のセオリーでは、人のキャパは200%にもなります。勉強と音楽を両方100%ずつやっていたら、いつの間にかキャパが増えていると思うんです。

鈴木 たくさん食べていると、だんだん胃が大きくなるみたいな!? 

鈴木 優人(すずき・まさと)
鈴木 優人(すずき・まさと)
バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)首席指揮者、関西フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者、アンサンブル・ジェネシス音楽監督。読売日本交響楽団指揮者/クリエイティヴ・パートナーを2026年まで6年間務める。NHK交響楽団等と共演するほか、海外ではドイツ・ハンブルク交響楽団、オランダ・バッハ協会等に客演。2025年のBCJヨーロッパ公演にて自身の補筆校訂によるモーツァルト《レクイエム》をパリ、マドリッドなど7都市で指揮。11月にはパリ管弦楽団と初共演を行い、現地で好評を博した。
オペラの分野では鈴木優人プロデュース・BCJオペラシリーズでモンテヴェルディ:歌劇《ポッペアの戴冠》、ヘンデル:歌劇《リナルド》(第19回佐川吉男音楽賞)、歌劇《ジュリオ・チェーザレ》を指揮。2022年に新国立劇場に《オルフェオとエウリディーチェ》(勅使川原三郎新演出)で初登場。Bunkamura Produceのモーツァルト・オペラシリーズでは、《魔笛》(2024年/美術:千住博)、《ドン・ジョヴァンニ》(2025年/美術:杉本博司)に続き、本年2月にBCJと共に上演した《フィガロの結婚》(美術:隈研吾)が、過去2公演を凌ぐプロダクションとして高く評価された。
「古楽の楽しみ」にレギュラー出演するほか、テレビ朝日系列「題名のない音楽会」などメディア出演も多い。録音はBCJとのJ. S. バッハのチェンバロ協奏曲集(BIS)、タメスティとのデュオ(Harmonia Mundi)、J. S. バッハの平均律第1巻、第2巻(BIS)などがある。作曲・編曲はもとよりバッハ作品の復元も手がける。ブルーノート東京にも定期的に出演するなど、その活動に垣根はなく、各方面から大きな期待が寄せられている。東京藝術大学卒業および同大学院修了。オランダ・ハーグ王立音楽院修了。令和2年度(第71回)芸術選奨文部科学大臣新人賞、第18回齋藤秀雄メモリアル基金賞、第18回ホテルオークラ音楽賞、第29回(2021年度)渡邉曉雄音楽基金音楽賞受賞。調布国際音楽祭エグゼクティブ・プロデューサー、九州大学客員教授、神戸松蔭大学客員教授。

廣津留 そうです! 私自身も学生時代、ヴァイオリンの練習を優先させたいからと勉強をできる限り効率よくやりくりするようになり、結果的にキャパが広がって両立できました。

鈴木 僕も似たところがありますね。実際にやってみなければ、結果的にどれだけの時間やリソースが必要になるのかわからないから、とりあえず詰め込んでがんばっていると、結果的になんとかなるんです。

忙しい大人が楽器を始めるとき、毎日何時間も練習する必要があるのかというと、そうでもないと思うんです。1日5分でも効率的な練習をすれば、手は動くようになります。たくさん時間がないとできないと決めつけず、とりあえず始めるのは大事かもしれません。

廣津留 プロを目指すなら基礎を積み重ねないといけませんけど、大人が始めるなら、憧れの曲を弾くことをゴールにするのでもいいですもんね。

鈴木 そう、自分や大切な人の好きな曲を目標にするなど、モチベーションとそこに向かう効率のよい練習が大事だと思います。 手先の動きが聴覚から脳に連動する感覚がよい刺激になるのか、アルツハイマーの予防にいいという話もありますから、健康維持を目的に始めるのもいいでしょうね。

演奏すれば音楽から栄養をもらえる

廣津留 それと、私自身そうしていますが、「いつまでに、ここまで仕上げる」というポイントを決めておくことも、続けるうえで効果的かも。

廣津留すみれ(ひろつる・すみれ)
廣津留すみれ(ひろつる・すみれ)
大分市出身のヴァイオリニスト。12歳で九州交響楽団と共演、高校在学中にニューヨーク・カーネギーホールにてソロデビュー。ハーバード大学(学士課程)卒業、ジュリアード音楽院(修士課程)修了後、ニューヨークで音楽コンサルティング会社を起業。現在は日本を拠点に、世界各地で演奏活動を行う。国際教養大学特任准教授、中央教育審議会委員。大分市教育委員。『超・独学術』(KADOKAWA)など著書・訳書も多数。2025年9月に自身で新レーベル「Hatch Music」を設立、アルバム『11 STORIES』を発表。高校在学中に全米ツアーを行い、カーネギーホールにてソロデビュー。ハーバード大学在学中に世界的チェリスト、ヨーヨー・マとシルクロード・アンサンブルとの度々の共演を果たしたのを皮切りに、米国にて演奏活動を拡大。
2022年に初のCD『メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲+シャコンヌ』をリリース。またタンゴ奏者としての活動もライフワークとして行なっており、2023年にはアルゼンチン・ブエノスアイレスにてティピカ・メシエズ楽団と録音したタンゴ・アルバム 『Psicoporteño』 が米国にてリリース。2025年には「たぬきタンゴカルテット」を結成。古楽器ではバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)と独・ライプツィヒのゲヴァントハウスや東京オペラシティなどで共演。2026年6月19日に最新刊『音楽脳x勉強脳の使い方〜バイオリニスト・廣津留すみれのアタマの中〜』が発売予定。

鈴木 仲間の前で披露するとか、月1回動画をSNSにあげるなどの期限を作るのもいいかもしれませんね。

——人に演奏を聴かせるのが恥ずかしいと感じる人は、どうすればよいでしょうか……。

鈴木 人がどう思おうが気にしない、特に他人の練習動画なんて真剣に見ている人はいないと思って、どんどんやったほうがいいですよ!

廣津留 学生時代、毎日Instagramに練習動画をあげるヒラリー・ハーンの「100 days of practice(100日間の練習)」が流行って、真似している学生がたくさんいましたが、不完全でもどんどん投稿することが、逆にすごく有効なメンタルトレーニングになっているようでした。

鈴木 プロでも本番前に怖いと思うときはあるけれど、演奏が始まると、音楽から栄養をもらえてすごく満たされるので、余計なことは考えなくなります。自分で音楽を奏でることには、それだけの何かがあるんですよね。やはり大人にこそ挑戦してほしいです。

程よい課題を繰り返すことが大事

——子どものときよりも習得が難しくなるイメージがありますが、大人になって楽器を弾くことのアドバンテージはあるでしょうか?

廣津留 今、秋田の国際教養大学で、ヴァイオリンを初めて触る学生たちに教えているのですが、物理法則の基本がわかっているから、重力や摩擦がこうだからという説明が通じる。子どもが感覚的に身につけるのとはまた違う、頭で理解できるよさがあるのだろうなと感じます。

鈴木 子どもには、とりあえずタックルしてすぐに吸収できるよさがあるけれど、頭の構造が違う大人が改めて楽器をはじめると、効率のよさでまた違った成長のスピードを実感できるかもしれません。

言語を学ぶとき、まずは知っている単語で会話することからはじめればよいのと同じで、今あるテクニックの中で演奏することは可能です。そうして、できる範疇の演奏を繰り返すうち、自然とレベルが上がっていくものです。特にプロを目指しているわけでない大人の場合はそれで十分だと思います。

ジムで、持ち上げるのが不可能な重さでトレーニングをすることがないのと同じように、程よい課題を繰り返すことが大事ですね。

この日は取材前にリハーサルやミーティング、そしてジムに行って身体を調整し、この取材、夜は本番という過密スケジュール。その合間に「楽屋でピアノの練習ができるなぁ」と考えていたそう。楽器歴は小学校の頃からフラウト・トラヴェルソ、中学生のときリコーダーで初仕事、中高のオーケストラ部ではフルートとファゴットを演奏。オーボエもなんとなく吹けるらしい……

廣津留 ジムといえば、私が行っているトレーニングに、身体を動かしながら眼球だけ別の物を追うとか、ストレッチしながらキャッチボールするという、日常になかなかない2つのことを同時に行うメニューがあります。

普段ヴァイオリンを弾いていると、「手元を意識しながら、指揮者の動きを見て、オーケストラの音を聴く」ということを、ごく自然としていますよね。これってつまり、脳への刺激が強くて、いろいろな能力が磨かれることにつながっているのだろうなと。おかげで気づかないところでクオリティ・オヴ・ライフが上がっているのかもしれないと思いました。

料理はフーガみたいなもの!

——廣津留さんは、ジュリアード音楽院にいた頃、優人さんのお父さまで、同校で教えていらした鈴木雅明さんと先に知り合っているそうですね。

鈴木 そう、母がSNSのメッセージで面識のないすみれちゃんにいきなり「夫がニューヨークで教えているので会ってください」って送ったという(笑)。

廣津留 しかも、アカウント名がイニシャルだったからどなたか全然わからなくて、蓋をあけてみたらお母さまの鈴木環さんでした(笑)。そこからのご縁で、雅明さんに勧めていただいたバロック・ヴァイオリンも勉強しました。

鈴木 でも、僕と知り合ったのは、同級生がすみれちゃんのハーバード大学の先輩で、おもしろいヴァイオリニストがいるからと紹介してもらったことがきっかけです。

——近年お二人は、調布国際音楽祭で共演されるのが恒例ですね

鈴木 すみれちゃんには、3年前に始まった“異種格闘技戦”の人気シリーズに毎回出演してもらっています。1回目は「将棋」、2回目は「鉄道」、そして今回は「料理」がテーマ。どれもすみれちゃんが疎いジャンルだというのがポイントです(笑)。

廣津留 私、まったく料理をしないんです……。

起業もして演奏や執筆の活動で多忙を極める廣津留さん。ジムで運動して、水を飲んでコンディションを整えているそう。「最近は手帳に2か月くらい先まで練習する曲のノルマを書くようになって、その日のノルマが終わると、寝ても、ポケモンのゲームをしてもOK! となります」

鈴木 料理愛好家でシャンソン歌手でもある平野レミさんをゲストにお迎えして、後半で初めての料理教室を体験してもらいます。ブロッコリーを使った、あの衝撃のメニューも作ります。

すみれちゃん、これ予習厳禁だからね!?

廣津留 本番前に準備するなと言われたの、人生で初めて(笑)。それに初めての先生が平野レミさんだなんて、本当に豪華で刺激的です! もしかしたら、これをきっかけに料理をするようになるかも。

鈴木 料理って、いろいろなことを同時進行しなくちゃいけない、まさにフーガみたいなものですよね。バッハのフーガを神格化してなかなか弾かない人もいるけれど、難しく考えず、毎日弾けばハードルがぐっと下がるもの。料理も同じかもしれませんよ。

ちなみに僕はパンデミック中にパンを焼きはじめたら、他にもそういう人が多かったみたいで、(チェリストで叔父の鈴木)秀美さんに「お前もか!」って言われて、人のきっかけをそういうふうにいうの、よくないよって思いました(笑)。

料理も楽器も、きっかけはふいにやってくるもの。ひらめいたときが始めるとき。どんどん挑戦してほしいと思います!

お二人の出演情報
調布音楽祭2026

会期: 6月20日(土)~28日(日)

 

 

平野レミの即興キッチン「おいしい音楽、めしあがれ。」

音楽家たちの演奏とともに、舞台上で披露されるライブクッキングもお見逃しなく! あの、NHKの番組で衝撃を巻き起こしたメニューも登場……!?

日時: 6月27日(土)13:00開演

会場: 調布市文化会館たづくり くすのきホール

出演: 平野レミ(料理愛好家)、山中惇史(ピアノ)、廣津留すみれ(ヴァイオリン)、鈴木優人(ピアノ)、森下 唯(ピアノ)

曲目: ロッシーニ:歌劇「ウィリアム・テル」より、富田勲:NHK「きょうの料理」テーマ、ショパン:ワルツ イ短調(遺作)、ワルツ第6番 変ニ長調 作品64-1、サラサーテ:ツィゴイネルワイゼン 作品20 ほか

詳細はこちら

そのほかの注目公演

「鈴木優人×ぱんだウインドオーケストラ オープニング・ガラ!」

6月21日(日)14:00開演/調布市グリーンホール 大ホール

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バッハ・コレギウム・ジャパン「狩のカンタータ」

6月28日(日)16:00開演/調布市グリーンホール 大ホール

詳細はこちら

廣津留さんの最新刊

 

廣津留すみれ『音楽脳x勉強脳の使い方〜バイオリニスト・廣津留すみれのアタマの中〜』

楽器を演奏することで地頭が鍛えられる?
脳科学者・西剛志氏と“音楽脳×勉強脳”を語る対談も収録!

(2026年6月19日発売/朝日新聞出版)

詳細はこちら

高坂はる香
高坂はる香 音楽ライター

大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...

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