レポート
2026.10.15
海外クラシックNEWS~from ドイツ①

ベルリン・ドイツ・オペラのシュトックハウゼン《光から水曜日》

ドイツの9月の音楽シーンからベルリンでのオペラのレポートをお届けします。

中村真人 Masato Nakamura
中村真人 Masato Nakamura 音楽ジャーナリスト、フリーライター

1975年、神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、2000年よりベルリン在住。著書に『明子のピアノ』(岩波ブックレット)、監修を務めた『おとうさんのポス...

ベルリン・ドイツ・オペラのシュトックハウゼン《光から水曜日》から © Julian Roeder

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

ベルリンの3つの歌劇場は、2026/27年シーズンの開幕をいずれもスペクタクルなプロダクションで飾った。そのうち二つのプレミエの模様をお届けしたい。

赤字にポップな字体で書かれた「Make Love…」というポスター、クローク係など劇場スタッフが着るブルーのジャンバーなど、インテンダントにアヴィエル・カーンを迎えたベルリン・ドイツ・オペラはガラリと装いを変えた。あえて「愛を育む」というモットーを掲げた理由として、カーンは「オペラというのは官能的な芸術であり、ほとんど常に愛を扱っている」と説明する。その新体制のプレミエ第1弾に、愛や共同体の可能性、連帯をテーマにしたシュトックハウゼン作曲の型破りの連作オペラ《光》から《光から水曜日》をぶつけてきた。しかも2012年に英国のバーミンガムで全曲を舞台化されて以来、ドイツ語圏では初の全曲上演となる。

演出はスザンネ・ケネディ。舞台の奥には巨大なT字型のオブジェが置かれ、合唱団が左右に分かれ、愛について語り合う。これが第1場「世界議会」で、電子音楽に乗った合唱が意外にも美しい。第2場「オーケストラ・ファイナリスト」は10数名の器楽奏者が音を奏でる。オブジェ奥のスクリーンには、大海原や鳥、鉄道をモチーフにしたCG映像が投影され、銀河鉄道に乗って宇宙に行くような、不思議な臨場感がある。そしてそのまま大きな山場である第3場「ヘリコプター弦楽四重奏曲」へと移行するのが非常に効果的だった。9月5日に4人の弦楽奏者がベルリン近郊から4機のヘリコプターに一人ずつ乗り、撮影したという現実の映像に変わるのだが、けたたましい飛行音が鳴り響く中、4人の音楽家が離れ離れになりながらも音でつながろうとする様に魅入ってしまう。

上演時間4時間半の不思議な、あっけにとられるような体験だったが、アヴィエル・カーン率いるベルリン・ドイツ・オペラが、既成のオペラの枠を飛び越え、新たな共同体の可能性を聴衆とともに考えようとしている姿勢は伝わってきた。1960年代の平和スローガンならば、「Make Love…」の後に続くのは、「not War」だが、カーンはあえて「…」に込めたという。来年6月にブリテン《戦争レクイエム》の舞台版で締めくくる、新体制の刺激的な1年目が始まった。

 

スポンティーニ《ヴェスタの巫女》新演出

ベルリン州立歌劇場のスポンティーニ《ヴェスタの巫女》から © Stephan Rabold
ベルリン州立歌劇場のスポンティーニ《ヴェスタの巫女》から © Stephan Rabold

いっぽう、ベルリン州立歌劇場では、ガスパーレ・スポンティーニ(1774〜1851)のオペラ《ヴェスタの巫女》が9月26日にプレミエ上演された。スポンティーニといっても今日その名を知る人さえ限られるかもしれないが、《ヴェスタの巫女》は19世紀最も成功したオペラの一つであり、マイアベーア、さらにベルリオーズやワーグナーにも大きな影響を及ぼしたグランドオペラの走りともいえる。そしてスポンティーニ自身、1820年から41年までベルリン王立歌劇場の音楽総監督を務めており、現在の州立歌劇場の歴史にとって意義深いリヴァイヴァルとなった。

原作の舞台は古代ローマ。将軍リシニュスが戦争から凱旋して帰ってきたとき、かつて愛していたジュリアは、父親の遺言によってヴェスタの巫女になっていた。その任務は、神殿の「永遠の炎」を守ることであり、何より大事なのが純血の誓い。ジュリアはリシニュスへの愛を選んだために、死刑を宣告されるが、最後に神の奇跡が起きて救われるというストーリーだ。

マイアベーア以降のオペラに比べ、楽器編成はさほど大きくないが、合唱の使いかたが華麗かつ複雑で、第1幕からスペクタクルな迫力は十分。第2幕でジュリア(ソプラノのソーニャ・ヨンチェヴァ)がリシニュス(テノールのデイヴィッド・バット・フィリップ)への愛を誓い、その瞬間に炎が消えるシーンでは、ヨンチェヴァの清純な歌唱が際立った。カルロ・リッツィの指揮は、中庸の美を保ったもので、これはこれで悪くない。

リディア・シュタイアーの演出は、しかし、ハッピーエンドでは終わらない。ジュリアとリシニュスの二人が結ばれ、奥に消えていった瞬間、それまでリシニュスの友人だったシンナ(テノールのシヤボンガ・マクンゴ)が独裁者に変貌し、自分を戴冠させた大巫女、さらに二人の殺害が暗示される。そもそもこのオペラが初演されたのはナポレオン時代の1807年。宗教と軍事的熱狂が絡み合った「独裁的体制の残酷なメカニズム」というコンセプトは、時代を超えた説得力があったが、言いようのない苦味もまた残った。

中村真人 Masato Nakamura
中村真人 Masato Nakamura 音楽ジャーナリスト、フリーライター

1975年、神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、2000年よりベルリン在住。著書に『明子のピアノ』(岩波ブックレット)、監修を務めた『おとうさんのポス...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ