読みもの
2021.08.19
8月20日(金)カンヌ四冠! 話題の村上春樹原作映画が公開

クラシックも印象的な映画『ドライブ・マイ・カー』はシネフィルもハルキストも楽しめる

村上春樹の原作を映画し、カンヌ映画祭では4冠の偉業を達成した『ドライブ・マイ・カー』。演劇をメインテーマに据えた本作ですが、原作にも登場するクラシック音楽がかなり印象的。注目の俳優、見どころ、ハルキ映画の魅力について、元「エル・ジャポン」映画担当のNAOMI YUMIYAMAさんが教えてくれました。

NAOMI YUMIYAMA
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE Japon(エル・ジャポン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...

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村上春樹の名作短編を映画化! クラシック音楽が印象的なシーンを彩る

これまで女性が運転する車に何度も乗ったが、家福の眼からすれば、彼女たちの運転ぶりはおおむね二種類に分けられた。いささか乱暴すぎるか、いささか慎重すぎるか、どちらかだ

……こんな魅力的な文章で始まる村上春樹の「ドライブ・マイ・カー」(文藝春秋刊『女のいない男たち』に収録)この短編小説と、「シェラザード」「木野」の2編を巧みに融合した映画『ドライブ・マイ・カー』が公開される。

主人公は、俳優で演出家の家福(西島秀俊)。脚本家の妻・音(霧島れいか)と幸せな生活を送っていたが、ある秘密を残したまま、妻が突然亡くなってしまう。2年後、広島の演劇祭で演出を任された家福は、寡黙な専属ドライバーのみさき(三浦透子)と出会う。深い喪失感を抱えた家福は、彼女とドライブを共にしながら、人生の新たな一歩を踏み出していく……。

街を優雅に疾走する赤いサーブ900。妻がベッドで語るエロティックで謎めいた物語——映画は幕開けからハルキワールドを予感させ、ファンの心をワクワクさせる。

そして今、クラシック・ファンの間で村上春樹といえば、なんといっても新著『古くて素敵なクラシック・レコードたち』(文藝春秋)だ。

村上春樹が偏愛するクラシック音楽について初めて語りおろし、自分の好きな曲のページを開けば、著者が好きな演奏家やアルバムがわかるという楽しい本。

この映画でもクラシック音楽は2曲使われている。1曲目はモーツアルトの軽快なピアノ曲「ロンド ニ長調 K485」。映画の中では、妻・音の心の謎を際立たせる印象的なシーンに使われるので、ぜひスクリーンで堪能してほしい。

もう1曲は、ベートーヴェンの「弦楽四重奏 第3番 ニ長調 op.18-3」。

こちらは原作小説にも登場し、主人公・家福が車の中でよく聴く“ベートーヴェンの「弦楽四重奏曲」”として描かれる。

家福悠介役の西島秀俊と妻・音役の霧島れいか。

原作の魅力的な世界を描きだす実力派の監督・俳優たち

そんな村上春樹の世界観にリスペクトを捧げつつ、今年のカンヌ国際映画祭で脚本賞に輝いた『ドライブ・マイ・カー』は、映画ならではの見どころも多い。

監督は、現在42歳になる濱口竜介。前作『ハッピーアワー』(15)や『寝ても覚めても』(18)などの作品が海外の映画祭で絶賛された実力派だ。

濱口竜介
監督。1978年生まれ、神奈川出身。『親密さ』(12年)、『不気味なものの肌に触れる』(13年)、『寝ても覚めても』(18年)などを手掛ける。2015年に公開された『ハッピーアワー』で、『ロカルノ国際映画祭・ナント三大陸映画祭』で主要賞を受賞。21年公開の映画『偶然と想像』で、『第71回ベルリン国際映画祭』コンペティション部門で審査員グランプリ(銀熊賞)を受賞。

巧みなストーリーテリングで知られる濱口は、黒沢清監督の『スパイの妻』でも共同脚本を手掛け、“夫の愛を疑う妻”の嫉妬を起爆剤に2転3転するサスペンスを盛り上げた。

本作では、満ち足りた生活をしながら、密かに浮気を続ける妻を持つ夫の葛藤を軸に、179分の上映時間をまったく飽きることなくひっぱっていく。

俳優たちの卓越した演技もみどころだ。家福を演じる西島秀俊は、妻を亡くした男が新しいドライバーとの出会いで再生していく姿を確かな存在感で体現。

彼をめぐる対照的な2人のヒロインを演じる女優たちも、それぞれの役どころで輝いている。

家福悠介役の西島秀俊
みさき役の三浦透子
音役の霧島れいか

特筆すべきは、妻を慕っていた若手俳優、高槻を演じる岡田将生だ。濱口監督が「目を見張るほど素晴らしい」と絶賛した車中での長セリフは、まるでドキュメンタリー映画をみているような臨場感と気迫で痺れる。

高槻役の岡田将生

多国籍の俳優たちが見せるアンサンブル——世界中のクリエイターを刺激する春樹作品

またテーマが演劇のため、多国籍な俳優たちが素晴らしいアンサンブル演技をみせる。

なかでも手話を使ってセリフを語る韓国出身の女優パク・ユリムの演技は必見! 沈黙が生む詩的でパワフルなパフォーマンスは、この作品の白眉で、映画ならではの深い感動を味わえるはず。

パク・ユリム(写真右)

「村上春樹の作品は、源氏物語などの古典と同じ。これからも多くの世代のクリエイターを刺激し続けるだろう」。かつて、映画『ノルウェイの森』の監督トラン・アン・ユンは来日時にそう語った。

実際、世界に愛読者を持つ村上春樹の小説は、これまでも多くの監督に刺激を与え、映画化も7度されてきた。特に韓国映画界の巨匠イ・チャンドン監督の『バーニング 劇場版』が国際的に高く評価されたことは記憶に新しい。

そして今年は『ドライブ・マイ・カー』が、映画と原作ファン共に納得できるハッピーな作品として、村上文学の魅力を教えてくれるだろう。

公開情報
『ドライブ・マイ・カー』

8月20日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

西島秀俊 三浦透子 霧島れいか/岡田将生

 

原作:村上春樹 「ドライブ・マイ・カー」 (短編小説集『女のいない男たち』所収/文春文庫刊)

 

監督:濱口竜介 脚本:濱口竜介 大江崇允 音楽:石橋英子

 

製作:『ドライブ・マイ・カー』製作委員会 製作幹事:カルチュア・エンタテインメント、ビターズ・エンド

制作プロダクション:C&Iエンタテインメント 配給:ビターズ・エンド 

©️2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

2021/日本/1.85:1/179分/PG-12

公式サイト dmc.bitters.co.jp

NAOMI YUMIYAMA
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE Japon(エル・ジャポン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...

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