読みもの
2026.05.22
室内楽やピアノ、歌などのコンサート会場に

いまこそ見直したい! サロン・コンサートの殿堂「音楽の友ホール」

首都圏の音楽ホールが次々と改修・休館となっているいま、都心の閑静でおしゃれな街・神楽坂にある「音楽の友ホール」(地下鉄東西線神楽坂駅徒歩1分)の存在感が高まりつつある。1983年の創立以来、格調高い音楽専用の小ホールとして歴史と伝統ある「音楽の友ホール」を改めてご案内する。

林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

写真:編集部

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時代の先を行くサロン・コンサートの殿堂

1983年に音楽の友ホールがオープンしたときの新聞記事を、今でも覚えている。

音楽専用の小ホールとして最良の音響条件を備えた、ヨーロッパ的なサロン・コンサートホールがいよいよ東京にもオープンしたというニュアンスだったと記憶する。

そのあとを追うようにして3年後にサントリーホールがオープンするが、当時の人気情報誌「シティロード」には「クラシック音楽の殿堂」という趣旨のコーナーがあり、そのページは毎月サントリーホールと音楽の友ホールの2つで構成されていたのである。

音楽之友社事業部(当時)が主催する公演も、良心的で質の高いものがたくさんあり、たとえば「原語上演・抜粋・演奏会形式による モーツァルト・オペラ全曲シリーズ」や「SERIES作曲家自作自演」は、いま振り返ってみても画期的な企画であった。

前者は、まだ訳詞上演が多かった日本のオペラ界において、原語でモーツァルトのオペラを珍しいものまですべてやり切ろうというもので、指揮の河地良智、バス歌手の岸本力といった演奏家たちが、熱気あふれる舞台を繰り広げていた。

後者は、高田三郎、林光、中田喜直、池辺晋一郎、三善晃、荻久保和明、新美徳英、服部公一、野田暉行、間宮芳生といった、そうそうたる作曲家たちが次々と登場し、自らピアノを弾くなどして作品を紹介するという格調高いシリーズであった。

来日演奏家も、しばしば重要な局面で音楽の友ホールに登場した。

筆者が覚えているのは、1990年代の終わりにユニバーサル ミュージックが、当時デビューしたてのピアニスト、ラン・ランを日本の音楽界に紹介するために、リサイタルを兼ねた記者発表会をここで開催したときのことである。

まだ無名の若い青年だったラン・ランがここで熱演し、その後ホワイエでのパーティで、記者や評論家一人ひとりに挨拶して回ったときの印象は、これからのクラシック界が、アジアのスターを中心に展開していくことを予期させる強烈なものであった。

音楽の友ホールのオープニング・コンサート(1983年3月28日)の模様を伝える、「音楽の友」誌のレポート。4月にはウィーンの名ピアニスト、イエルク・デムスのリサイタルが開かれた

格調高い雰囲気と豊かな音響を誇る

現在の音楽の友ホールは貸館専門となっているが、当時の熱気をなつかしく思い出しつつ、いまのコンディションを見学・取材させていただいた。

最大208席の小ホールながら、7.3メートルと高い天井、そして、天然大理石やマホガニーレッドの御影石が多用された内装が醸し出す、重厚で落ち着いた雰囲気は、相変わらず美しい。

これまでに繰り広げられた名ステージの余韻が、まだ息づいているかのようだ。

ピアノの達者なONTOMOの若手編集者に、音楽の友ホールが所有するベーゼンドルファー・インペリアル290(ウィーンのピアニスト、ハンス・カン選定)を弾いてもらい、さまざまな場所で響きを確認してみたが、残響の豊かな空間ながら、演奏のニュアンスは最後尾の席にまでダイレクトに届く。おそらく客席の入りによって相当響き方は変わってきそうである。

感覚としては石造りの教会に近いので、それをうまく生かしたときに最高のコンディションを発揮する、繊細な楽器のようなホールといえるだろう。

ベーゼンドルファーのフラグシップモデル、インペリアル290
最低音が9鍵拡張され、8オクターブの音域をもつ
ホールの響きを確かめる筆者(右)

用途によっては、ベーゼンドルファーではなく、ヤマハコンサートグランドピアノCFXを使ったほうがいい場合もありそうだ。

ギターや古楽器アンサンブル、あるいはチェンバロやフォルテピアノでも、面白いことになるのではないだろうか。ぜひ関係者はチェックしてみていただきたいと思う。

ヤマハコンサートグランドピアノCFXも備える
可動式のイスを並べた状態。最大208席

地下鉄東西線神楽坂駅のすぐ上にある音楽の友ホールは、遮音性は完璧なのだが、開館当時は、地下鉄の走行の振動が座席のお尻からわずかに感じられるという指摘があった。

だがそれから40数年、東西線の車両の軽量化にともない、その問題点はほとんど克服されたことを付記しておこう。

ホワイエには音楽之友社秘蔵の楽譜コレクションが展示

グレーの御影石に囲まれた美しいホワイエは、中央にクリスタルグラスのシャンデリアが吊られている。格調高い空間である。

ガラスケースには、1970年代に音楽之友社が楽譜出版のリサーチのため、ヨーロッパで入手した貴重な楽譜類が展示されている。

今回の取材でその中身を精査したところ、モーツァルト《ドン・ジョヴァンニ》やバッハ《マタイ受難曲》の初期譜、クレメンス・クラウスやリヒャルト・シュトラウスの自筆サインのある《ダナエの愛》ヴォーカル・スコアなどが含まれていることが判明した。これについては、さらに調査を進める予定である。

楽譜出版の歴史を感じさせるこうした資料を身近に感じながら、コンサートを楽しむことができるのも、音楽の友ホールならではの体験と言えるだろう。

貴重な楽譜が展示されたコーナー

貸館としての音楽の友ホールは、当日スタッフ2名(事務と技術)がつき、主催者がホワイエで物販をする場合は手数料を取らない。プロ演奏家による室内楽や声楽などのコンサートやレコーディングをはじめ、ピアノの発表会やコンクールの利用も多いという。

神楽坂駅から徒歩1分という抜群のロケーションにある、歴史あるサロン・コンサートの殿堂。今後ますます注目が高まっていきそうである。

調光室。照明の操作やレコーディングなどが行なえる
録音機材にスイス・スチューダー製の調整卓を備える
林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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