
昭和初期の名作建築・土浦亀城邸で、音楽の色彩を体感するプログラム

「建築家が聴いた音楽―建築家・土浦亀城の思考に響いた音」は、昭和初期の住宅建築を代表する土浦亀城邸で、音楽作品を演奏し、対話によって思考を深める、全6回の対話型演奏会シリーズ。
シリーズ第4回は、「色彩としての音楽」をテーマに、11月16日(月)に開催されます。
本演奏会シリーズで総合監修・ナビゲーターを務める音楽学者の久保田慶一先生、フルートの岩下智子さん、ピアノの金井玲子さんに、聴きどころを伺いました。

東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
音楽家の息を感じる演奏会
——シリーズ第4回目「色彩としての音楽」について、テーマの意図をお聞かせください。
久保田 シリーズ第4回のテーマは「色彩としての音楽」です。
建築物の外壁そして日常生活の場である室内の壁が、どのような材質の素材であるのか、とりわけ色は大切な要素です。また室内の壁はひとつの色だけでなく、いくつかの色に配色されています。つまり、いくつかの色が配置されることで、色彩となります。
わたしたちのこうした色彩感覚は、音楽を作曲したり、演奏したり、また聴く際にも重要なファクターです。多くの人は色彩というと、印象派の絵画を連想してしまいがちですが、以上のように考えますと、印象派に限定できないことは明らかでしょう。音楽の場合にも、印象派の同時代のフランスの近代音楽だけを、色彩、音楽では音色の観点から、とりあげることは、音色の多様な世界を狭めてしまうでしょう。
当日の演奏会では、ジプシー、スペイン、ハンガリーなどの民族「色」を楽しみたいと思います。またお話では、音楽ではどのようにして「民族色」が描かれるかを、音階という視点から解説したいと思っています。
色彩をテーマにした場合、どのような楽器が適しているのかを考えたとき、ピアノのような精巧なメカニックでできた楽器では、音色の効果を楽しむことはできません。楽器の構造としては、一番自然で、シンプルな楽器がいいわけです。そうなりますと、木の筒に穴を空けただけの楽器が、最もふさわしいのではないでしょうか。しかも直接、人が息を吹き込むわけですから、感情を表現したり、聴く人の琴線にも触れたりすることも、容易でしょう。ラテン語で「息」はスピリトゥスspiritusと言います。ここからinspire, inspiration, spiritといった言葉も生まれます。息とは精神を意味し、息を吹き込むことは、精神を伝えることです。
——今回演奏される、フルートの岩下智子さん、ピアノの金井玲子さんから、土浦邸で行われる本公演の魅力や期待することをお聞かせください。
岩下 この度、昭和モダニズムの薫りを今なお色濃く残す、土浦亀城邸。この歴史ある邸宅にて演奏できますことは、大きな喜びです。亀城・信子夫妻が暮らし、日々の中で多彩な音楽を慈しんでいたという空間に身を置くとき、どんな響きが立ち現れるのか、ワクワクしています。当時の美意識が残る豊かな空間で、ご来場いただく皆様とともに音楽を共有できる時間を、楽しみにしています。
金井 音楽は耳から入るものですが、演奏する空間から得られるインスピレーションも大きいと思います。建築家が美を追求した空間で、私たち演奏する側もきっと普段とは異なった新鮮な感覚が演奏を後押ししてくれるように想像しますし、久保田先生のお話が、さらにその感覚を広げ深めてくださると思います。お客様も、建築家のご自宅という、通常のホールとは違う環境の中、リラックスした雰囲気の中で楽しんでいただけるのではないかと思います。
——普段の演奏で、音楽の色彩をどのような場面で、お感じになりますか。
岩下 音楽の「色彩」とは、音域の高低、調や和声による光と影など、様々な場面で感じることができます。
金井 音楽の色彩というと、やはりフランスの印象派の音楽から多彩な色合いを感じることがとても多いですが、シューベルトやブラームスの音楽などにある陰影にも色彩を感じます。
——それを表現するのに、どのような工夫をなさいますか。
岩下 まずは楽譜と深く向き合い、緻密な楽曲分析を通して、作曲家が仕掛けた和声や旋律の構造を読み解き、その上で抽象的な音に具体的な光や影を与えるようにしています。また、作曲された背景、意図などを理解して、心の中で描いた絵画の色彩や物語のシーンを音楽で表現するように努めています。
金井 日頃から、色彩豊かなもの、微妙な変化の陰影のあるものを見て、自分の中の色彩のイメージを豊かにすること、一つの音や和音を耳と手を駆使して様々な色で弾いてみて探すことです。
——観客のみなさまに、本公演をたのしむコツやメッセージをお願いします。
久保田 演奏会では、楽器の中でも最も古い楽器であるフルートの音を通して、息をしていること=生きていることを実感していただければと思っています。
岩下 昭和の戦中、戦後の中で育まれたモダニズム文化を時空を超えて感じていただき、土浦亀城が実際に生活した空間と光と風が巡る動線の中で、フルートとピアノが紡ぎ出す音楽の調和をお楽しみいただけましたら嬉しいです。
金井 ぜひ、ご自宅にいらっしゃるようなリラックスした気持ちで、バラエティに富んだプログラムの一つひとつの曲を味わっていただければ嬉しいです。

東京藝術大学大学院修士課程修了。音楽学博士(東京藝術大学大学院)。フライブルク大学、ハンブルク大学、ベルリン自由大学に留学。東京学芸大学教授、国立音楽大学教授・副学長、東京経済大学客員教授を経て、現在、日本大学大学院ならびに放送大学講師。専門は18世紀ドイツ音楽史。『バッハ』(音楽之友社、2021年)他、著書多数。「建築家が聴いた音楽―建築家・土浦亀城の思考に響いた音」では総合監修・ナビゲーターを務める。

東京藝術大学、同大学院修士課程を経て、ドイツ・デットモルト音楽大学を修了。第1回イタリア•トリエステ•ドゥイーノ国際音楽コンクール第2位。西日本新聞社賞、読売新聞社新人演奏会、東京文化会館新人推薦音楽会、日本演奏連盟新人演奏会に出演。ドイツ・ベーム国際フルートコンクールをはじめ、全日本学生音楽コンクール、仙台フルートコンクールなど国内外のコンクールの審査員を務める。CD「ゴーベールの世界」「フランスの香り」をリリース。NHK-FMにもたびたび出演。アジア・フルート連盟理事。現在、武蔵野音楽大学講師。

東京藝術大学附属音楽高等学校、同大学・同大学院修士課程を経て、ドイツ・ミュンヘン音楽大学を修了。第3回日本室内楽コンクール第1位。第17回ヴィットリオ・グイ国際室内楽コンクール第2位。東京藝術大学弦楽科伴奏助手及び室内学科合奏助手を歴任。各地の音楽祭に出演。現在、浦和大学教授、Artis Piano Ensembleメンバー。
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