インタビュー
2026.11.04
ついに機が熟し、初めての録音が完成! 

巨匠オーギュスタン・デュメイ ブラームスのヴァイオリン協奏曲と歩んできた道を語る

現代ヴァイオリン界を代表するフランスの巨匠、オーギュスタン・デュメイさんが、2026年10月28日に最新アルバム『ブラームス:ヴァイオリン協奏曲、ホルン三重奏曲』をリリースしました。
ブラームスは常に彼の音楽人生の中心にありましたが、ベートーヴェン、メンデルスゾーンと並んで三大ヴァイオリン協奏曲と呼ばれるブラームスのヴァイオリン協奏曲はなぜか録音がなく、今回が初めての録音となります。
初録音に込めた、デュメイさんの深く熱い想いを伺いました。

西村 祐
西村 祐

音楽レヴュアー・フルート奏者。桐朋学園大学中退。演劇、モダンダンス、日本舞踊などの公演に音楽制作・フルーティストとして多く出演。評論家・レヴュアーとしては、『レコード...

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©Thibault Daguzan

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灯りをともし音楽人生を照らし続けた、ブラームスのヴァイオリン協奏曲

――これまで多くの録音やコンサートで私たちを魅了し続けてきた、デュメイさん。ブラームスのソナタや室内楽で名盤をリリースしてこられましたが、今回ヴァイオリン協奏曲ほかを録音されました。

デュメイ ヴァイオリン協奏曲とホルン三重奏曲はどちらも、私がキャリアを歩み始めてからずっと弾き続けてきた作品です。そういう作品を、古い友人であるエリアフ・インバルさんをはじめとする大好きな演奏家たちと録音できたのは、とても嬉しいことでした。

オーギュスタン・デュメイ(ヴァイオリン、指揮)
10歳でパリ音楽院に入学し、13歳でプルミエ・プリ(一等賞)を獲得。ヘルベルト・フォン・カラヤンとの出会いが国際的なキャリアを切り開き、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と共演。以来、世界有数のオーケストラや指揮者と共演を重ねる。近年は指揮者としての活動にも力を注ぎ、日本では関西フィルハーモニー管弦楽団とは特に縁が深く、2011年から2024年まで音楽監督、現在は名誉指揮者を務める。使用楽器は、かつて名手レオニード・コーガンが愛用した1743年製グァルネリ・デル・ジェス。
©Elian Bachini

――デュメイさんとブラームスの協奏曲との関わりはいつからですか?

デュメイ 私がこの協奏曲を弾き始めたのは10歳の時で、それ以来、ブラームスは私の中に新しい灯りをともし続けてくれる作曲家になりました。そして13歳の時、第3楽章を弾いてパリ音楽院を卒業したのです。

――それでも録音は今回が初めてとは、とても意外な気がします。

デュメイ それはひとえに、作品の偉大さに対するリスペクトからです。ブラームス、そしてベートーヴェンの協奏曲はヴァイオリニストにとって本当に重要で偉大な作品で、個人的な成長とともにどんどん解釈が変わっていくところがあります。私もブラームスの協奏曲を演奏するたびに、ゆっくりといろいろなことを発見していきました。

協奏曲では指揮者の存在がとても重要で、彼らと音楽的な対話をすることで、解釈が成熟し変化してゆきますが、今回インバルさんという素晴らしい指揮者と、大好きなフィルハーモニア管弦楽団と共演できたこともあって、ようやく録音の機が熟したというわけなのです。

常に変化しながら生きる

――デュメイさんは指揮者としても活躍なさっておいでですが、指揮者として作品を見ることで変化した面はありますか?

デュメイ たくさんあります。指揮者としてソリストと共演することで、作品を別の視点からも理解することができるようになり、解釈を豊かなものにしてくれました。

ヴァイオリン協奏曲にはブラームスらしい交響的な側面があり、それをより深く理解することができるようになりました。ソリストとして私の先輩の指揮者たちだけでなく、たとえばダニエル・ハーディングさんやロビン・ティチアーティさんのような若い世代の指揮者とも共演していますが、彼らはアプローチが全く違います。いろいろな世代の方と一緒の舞台に立つことで、自分の中に変化が起こり、新しい視点が生まれるのです。

――常に変化し続けるというのは大切なことですね。

デュメイ 私は作曲家に対して忠実でありたいといつも思うのですが、それは作品を博物館に閉じ込めるということではありません。演奏というものは、常に変化しながら生き続けなければならないというのが私の考えです。ですからこれまでブラームスの協奏曲を録音して来なかったのですが、もっと長生きしたら、もしかしたら30年後あたりにもう一度録音するかもしれませんよ(笑)。

――ホルン三重奏曲では、若い世代のダヴィド・ゲリエさん、中堅世代のフランク・ブラレイさんとの共演ですね。

デュメイ ふたりとも古くから付き合いのある友人たちですが、ゲリエさんは音楽界でもふたりといない稀な存在です。彼はホルン奏者として、バイエルン放送交響楽団とフランス国立管弦楽団というドイツとフランスを代表するオーケストラの首席を務めたあと、今はベルリン・フィルの首席トランペット(!)奏者です。ピアノも堪能な上に声も素晴らしくて、シューベルトのリートを弾き語って感動を呼ぶほど。さらにチャイコフスキーの協奏曲が弾けるほどヴァイオリンも素晴らしいという……。サイモン・ラトルさんに言わせると、彼の前では自分がとてもちっぽけな存在に思えてしまうほどの天才。もちろん、ピアノのブラレイさんもいつも新しい魅力に満ちていて、信頼している存在です。

――違う世代の方と共演すると、どのような影響を受けられますか?

デュメイ 意識的にも無意識的にも変わってくることはあります。核となるコンセプトのようなものは自分の中に変わらずありますが、アンサンブルをすることによって無意識に起こる変化はあると思います。

音楽というのは人生や社会の鏡のようなところがありますから、世代間の対話を通して社会が発展していくのと同じように、様々なものが成長して豊かになっていくものだと思います。

ベルリンのテルデックス・スタジオで録音されたホルン三重奏曲で、オーギュスタン・デュメイ(ヴァイオリン・写真左)と名手ダヴィド・ゲリエ(ホルン・写真中)、盟友フランク・ブラレイ(ピアノ・写真右)の共演が実現。

――11月にはリサイタルと指揮で来日なさいますね。

デュメイ リサイタルは上田晴子さんとの共演です。以前からとても親しいピアニストで、またご自身もパリ音楽院で多くの弟子を育ててきた経験豊富な方です。

今回は前半にシューマンとシューベルト、後半にドビュッシー、ラヴェルという全く違う世界観の作品を一度に演奏しますが、私の中にある二つの異なる世界を表現できるプログラムだと自負しています。

指揮者としては関西フィルとの共演ですが、音楽監督として10年以上ご一緒し、ヨーロッパ・ツアーも2回するなど深くお付き合いしています。地域に根付きながら常に成長し続けているオーケストラで、これからは名誉指揮者として新しい関係を築けると期待しています。

――ますますの充実した演奏を楽しみにしています。ありがとうございました。

CD情報
オーギュスタン・デュメイ / ブラームス:ヴァイオリン協奏曲、ホルン三重奏曲

【収録曲】
(1-3)ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77
(4-7)ブラームス:ホルン三重奏曲 変ホ長調 Op.40

【演奏】
オーギュスタン・デュメイ(ヴァイオリン)
(1-3)エリアフ・インバル指揮、フィルハーモニア管弦楽団
(4-7)ダヴィド・ゲリエ(ホルン)、フランク・ブラレイ(ピアノ)

【録音】
(1-3)2025年1月6~8日、ブラックヒース・ホール(ロンドン)
(4-7)2025年10月、テルデックス・スタジオ(ベルリン)

[WPCS-13897]

SACDハイブリッド

3,410円

詳しくはこちら

公演情報
オーギュスタン・デュメイ ヴァイオリン・リサイタル

日時・会場:

11月24日(火)14時・武蔵野市民文化会館 小ホール

11月29日(日)18時30分・浜離宮朝日ホール

関西フィルハーモニー管弦楽団第369回定期演奏会

日時・会場:11月28日(土)14時・ザ・シンフォニーホール

西村 祐
西村 祐

音楽レヴュアー・フルート奏者。桐朋学園大学中退。演劇、モダンダンス、日本舞踊などの公演に音楽制作・フルーティストとして多く出演。評論家・レヴュアーとしては、『レコード...

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