演奏が中断するとアラビア語が飛び交う!? エジプト随一のシンフォニーオーケストラ
世界各国のオーケストラで活躍する日本人奏者へのインタビュー連載。オーケストラの内側から、さまざまな国の文化をのぞいてみましょう!
第7回は、 カイロ交響楽団テューバ奏者の岡島征輝さん。
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
ドイツでオーディションを受けて大学院在学中にカイロに
——所属されているオーケストラについて教えてください。
岡島 エジプト公共放送専属楽団を前身とするカイロ交響楽団は、オーストリア人指揮者フランツ・リッシャウアーを迎え、エジプトに本格的なシンフォニーオーケストラをと1959年に設立されました。現在、ほぼ毎週土曜日の夜にカイロ・オペラハウスで公演を行なっています(オペラ、バレエ公演の演奏は専属のカイロ・オペラ・オーケストラが担当)。
エジプトのオーケストラに所属していると言うとアラブ音楽ばかり演奏しているのかと聞かれることが多いですが、カイロ交響楽団はいわゆるクラシック音楽中心の“普通”のオーケストラです。毎週、異なる指揮者と異なる演目をこなすので、楽曲の経験値だけは上がります。
——なぜこのオーケストラに入ろうと思ったのですか?
岡島 ドイツで大学院在学中にカイロ交響楽団の求人をみつけ、応募してオーディションに受かりエジプトに来ました。オーディションはドイツのケルンで行なわれました。 演奏して給料がもらえるならどこでもよかったのです。というのも、テューバ奏者の席は通常1つの楽団に1席しかありません。楽団の規模によっては正規雇用しない楽団もあります。実は私がドイツに渡ってすぐの2005年春にもカイロ交響楽団の募集があり、受けてみようかと思ったのですが、テューバの先生に「受かったら行きたくなるでしょう? せっかくドイツに来たのだから今はしっかり勉強しなさい」と言われました。結局その2年後にも募集があり、現在に至ります。早くからエジプトには不思議な縁があったのでしょう。
不思議な縁といえば、私が日本で大学受験準備から大学在学中に渡ってお世話になったテューバの大澤健一先生は、1977年に来日したエジプト国立カイロバレエ団の日本公演で当時設立から間もなかった東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の初代テューバ奏者として演奏したそうなので、これまたエジプトとの深い縁を感じます。
ちなみに私の前任者はドイツ人。彼はエジプトの生活に馴染めずに1年で帰国してしまったそうです。後年、ドイツで彼と会うのですが非常に優れた奏者で驚きました。もし同時期に採用試験を受けていたら私に勝ち目はなかったと思います。
——楽団員とのコミュニケーションは何語でされていますか?
岡島 エジプト人とはアラビア語(エジプト方言)、その他の楽団員とは英語です。現在は楽団員数75名のうち外国籍は14名しかいないので、どうしても楽団内ではアラビア語が多くなります。
私はアラビア語を学校に行ったりして勉強したわけではないのでひどいものです。入団当時から私を知る楽団員は「君がエジプトにきた頃に生まれたうちの子どもたちはもう大人と対等に会話ができるのに、まだ単語でしか話せないのか? 文章で話せ!」とからかわれます。
入団した2007年は楽団員数が120名ほどで半数以上が外国籍でした。旧ソ連の出身者が多く、団内ではロシア語が第2共通言語でした。金管打楽器奏者にもロシア語話者が多かったので「アラビア語よりも先にロシア語を覚えろ!」と真剣に言われたくらいです。
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