インタビュー
2026.10.21
特集「鑑賞のヒント」

名曲・名演って何? 飯田有抄の心を揺さぶる「お気に入り3選」

「名曲」「名演」という言葉はよく使うけれど、何をもってそう呼ぶのでしょうか? 長く愛されてきた作品だから? 完璧な演奏だから? クラシック音楽ファシリテーターの飯田有抄さんに、名曲・名演とは何か、そして心に残る音楽との出会いについて教えてもらいました!
※本記事はポッドキャスト番組『ONTOMO Radio』で語られた内容を再構成しています。

ナビゲーター
飯田有抄
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飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

まとめ
ONTOMO編集部
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

ゲスト:飯田有抄さん(クラシック音楽ファシリテーター)
MC:和田響子(ONTOMO編集長)

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ひとことで言うと名曲とは…

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——そもそも、何をもって名曲と呼ぶのでしょうか。

飯田 この『クラシック音楽への招待 子どものための40の楽曲たち』でおすすめした曲も、50年後も100年後も受け継がれているんじゃないかなと感じるものを選んでいますが……やっぱり、長く続くものが名曲なんですかね!?

——結果的に!?

飯田 結果的に(笑)。

——そうすると、いま生まれている曲が、本当に100年、200年と残っているのか、ということも気になるのですが……。

飯田 確かに。でも、こういう方程式だから名曲になるのです、という誰にでもわかる公式はないんだと思います。

先ほどAIはなんて答えるんだろうって、試しに問いかけてみたんです。そしたら長いんですけどね、たとえば「作品自体が持つ構造的・歴史的価値」とか、「演奏解釈の独創性と説得力」、「社会的・文化的文脈による後押し」とか言ってくるわけです。

私も日頃、音楽講座で話すときには、こういう切り口から「いかにこのベートーヴェンの作品が、こういう文脈で受け継がれてきているのか」と、2時間もあれば説明するわけなんですけれど、このONTOMOラジオでそれをやるわけにはいかないですよね?

——はい。先ほど飯田さん、ひとことで言えるって、おっしゃっていたので、楽しみにしていました。

飯田 すごいプレッシャーのなかで、考えたんです。すごい簡単な言葉で言っちゃいますよ。要は……

 

人々に「グサッ!」ときた音楽

 

なのではないでしょうか!

——笑

飯田 「グサッ!」ときたってことです、名曲って。

——まぁ……間違いないですね。誰かがグサッときて、再演されるようになったわけですから。

飯田 「グサッ!」って何なのか、ということですけど、ショックで頭の中が真っ白になることってありますよね。名曲とされる作品には、受け止めた人をそういう状態に陥れるパワーがあるのだと思います。

ベートーヴェンの「交響曲第9番」のときは、フランス革命やナポレオン戦争があって、ヨーロッパの社会がドラスティックに変わり、誰がえらくて誰がえらくなかったのか、秩序を取り戻そうと言って人を糾弾したりと、価値観がぐちゃぐちゃになった時代だった。

世の中が窮屈で生きづらい状態になってきたときに、ベートーヴェンが「いやいや、私たちはみんな平等なのだから、もう一度手を取り合って、自由に生きていこう」と交響曲に言葉、合唱を入れたわけです。それはもう、聴いた人はびっくりしたと思うんですよ。

もし歴史的な背景を知らなくても、合唱の厚みやオーケストラの豊かさにショックを受けたり、ショックの量は人によって違うけれども、名曲として愛されているものは、何かしら人々にガーンという衝撃を与えていると思います。

ただ、いい演奏家がちゃんと作品を再現したり、その解釈が作品の命を左右してしまう、ということもありますね。

——では、名演とは何でしょう?

飯田 私自身は、瑞々しさやダイレクト感のある演奏が好きです。

とても上手で、きれいにまとめられている破綻のない演奏と、少し間違えちゃったり音程が不安定だったりするけれども、マグマのように沸々と湧いてくるエネルギーがある演奏とでは、私は後者のほうに心を動かされるんです。

——同感です!

飯田 音楽は、命が通うものですから。きれいに演奏するだけでも大変なんですけれども、勢いあまって外すかもしれないというくらいの演奏に、どうも心が響いちゃうんです。アマチュアでも、好きで弾いてらっしゃる方のピアノ演奏なんかも、私は大好きです。

だから名曲名演って、これはもう褒め言葉、大絶賛の言葉として使っていいと思います。

飯田有抄(いいだ・ありさ)
クラシック音楽ファシリテーター。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquarie University通訳翻訳修士課程修了。音楽専門誌や演奏会プログラム等に執筆・翻訳、市民講座講師、音楽イベントのナビゲーター等を行う。書籍に「ブルクミュラー25の不思議」(共著、音楽之友社)、「ようこそ!トイピアノの世界へ」(カワイ出版)、「さぁはじめよう!オーディオのある暮らし」(音楽之友社)等がある。オーディオブック「心が育つ だれなにクラシック」(全26巻、パンローリング)が好評。

飯田有抄の心を揺さぶる名曲名演3選

——では、飯田さんが特に心に残っている作品・演奏を教えてください! 今回は「お気に入り3選」として挙げてもらいます。

第3位:ジョン・アダムズ《ハルモニウム》

飯田 順位をつけるのは難しいのですが、第3位については、今年の生演奏のなかから選びました。

今年5月21日、東京都交響楽団の公演で、作曲家ジョン・アダムズご本人の指揮による《ハルモニウム》、1980年に書かれた、合唱も加わる大規模な作品です。

とても緻密に、小さな単位、細胞単位のように音楽が作られているのだけれども、それが積み重なっていって大きなうねりになっていくんです。

現代音楽のジャンルに入りますが、アダムズの和声感、オーケストレーションの機微があって、難解なイメージはないのです。響きに身を委ねていると、大伽藍のような立派な建造物が目の前に現れるような、そういう演奏と作品です。作曲家自身の指揮による演奏にも、大きく感動しました。アダムズさんの言葉は、理知的でちょっと難解なのですが、私が訳したプログラム解説はまだ公式サイトにあります。

この作品そのものの動画はないので、2024年1月の来日で同じく都響を振った近しい作品の動画をおすすめしておきます。

2024年共演時のジョン・アダムズ:《ハルモニーレーレ》

2026年5月来日時のジョン・アダムズのインタビュー

第2位:ジェラルド・フィンジ《エクローグ》

飯田 第2位は、すばらしい名曲をお伝えしたいです。

20世紀前半のイギリスの作曲家、ジェラルド・フィンジによる、ピアノと弦楽合奏のための作品《エクローグ》です。これを知ったのは、ラジオ局OTTAVAのパーソナリティを務めていた2016年のことです。

リスナーの方からリクエストをいただいたのですが、リスナーの皆さんにはド定番の曲だったんです。私は初めて聴いて、「こんなにいい曲を知らずにきたんだ!」と驚きました。それ以来、今でも大好きな作品です。

あらためて動画を探して聴き比べるなかで、ピアニストのロベルト・プラーノさんという方の演奏に出会いました。調べたら、2001年のクリーヴランド国際ピアノコンクールで優勝された経歴があって、他にもグリーグのピアノ作品全集に参加しているなど、素晴らしい録音もある方なんです。

映像や音質は必ずしも理想的ではないのですが、ピアノがとてもよくて、本当にしっとり何度も聴いてしまうんです。

ジェラルド・フィンジ《エクローグ》(ピアノ:ロベルト・プラーノ)

第1位:小林愛実のショパンコンクールでの《24の前奏曲》

飯田 もうこれは、まさにガーンですよ。ズッタズタです。心が切り裂かれるような体験をした、忘れられない演奏です。

2021年のショパン国際ピアノコンクール第3次予選、現地ワルシャワで聴いた小林愛実さんのショパン《24の前奏曲》です。すごいものに出会うと、もう言葉を失いますよね。

この演奏は、鬼気迫るものがありました。演奏にすごく没頭しながらも、24曲全体を見渡す冷静さも感じられて、本当に素晴らしかったです。「緊張美」みたいな、壮絶なものがありました。

ショパンは故郷に帰れずして生涯を終えた人です。心のなかには、いつも「ここではない、帰りたい」という思いが流れていたと思うんです。その痛切な感情が、24曲のなかでめくるめく展開していく……聴いているうちに、「前奏曲とはこんなに壮絶な音楽だったのか」と、すごい説得力で、作品像がすべて塗り替えられるような名演でした。

私は今でも、ときどきこの演奏をYouTubeで見返します。何度聴いても感動するんです。最後まで聴くと、思いきり泣いたあとのように、「落ちるところまで落ちたから、もう頑張る」とすっきり生まれ変わるような気持ちにさせてくれる。

そのときの会場は、もう拍手が鳴り止まなくて、みんな心が持っていかれた感じでした。

2021年のショパン国際ピアノコンクール第3次予選での小林愛実のショパン《24の前奏曲》

飯田 今回は順位をつけていますけれども、比べられるものではないですし、ここに挙げられなかったものも山ほどありますが、まずはぜひ聴いてみていただければと思います。

ポッドキャストの視聴はこちら

飯田有抄さんの著書

後編のポッドキャストで飯田さんは、著書『クラシック音楽への招待 子どものための40の楽曲たち』に「もしかしたら一生出会いそびれてしまうかもしれないけど、 知っておくと、ちょっとだけ人生がカラフルになるかもしれない」という意図で選んだ曲も入っていると明かしてくれました。

美しいけれど忘れられないくらい怖い曲、人々をびっくりさせた曲、 鉄道にまつわる曲、映画やゲームからの曲などを、QRコードから飯田さんおすすめの動画で楽しめるので、お子さんと一緒にお楽しみください!

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飯田有抄 クラシック音楽ファシリテーター

1974年生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Maqcuqrie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。2008年よりクラシ...

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