
ジェノヴァのカルロ・フェリーチェ劇場で《トスカ》上演

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回は4月のイタリアの音楽シーンから、主にオペラのレポートをお届けします。
プッチーニのオペラのなかでも、《トスカ》はとりわけ完成度の高い作品といわれている。題材と台本のよさが大きく寄与していることはまちがいないが、それらに刺激されたプッチーニの創造力もまた大きな成果を生み出している。そのため世界中で何度となく上演されるわけだが、今回とりあげるジェノヴァのカルロ・フェリーチェ劇場の公演は、同劇場の制作ではなくローマ歌劇場のものである。
筆者はローマでの公演を観ていないので公演自体を比較することはできないが、舞台装置についてはなるほどローマでの制作に違いないと納得させられた。というのは、このドラマのロケーションはローマ市民にとってはなじみの場所であり、あまりに現実と違う装置では違和感をもたらしてしまうからだ。
同様のことは以前にミラノ・スカラ座で観たヴェルディ《十字軍のロンバルディア人》でも見られた。サンタンブロージョ教会がほぼ実物どおりに見えたのを記憶している。
さて、ジェノヴァに話を戻して今回の公演について。今回の制作はダブルキャストで、トスカは3人のソプラノが交代で演じた。筆者が観たのは4月17日の公演で、当日の配役はトスカがカルメン・ジャンナッタージオ、カヴァラドッシがジョルジョ・ベルージ、スカルピアがルーカス・ミーチェム、アンジェロッティがルカ・ティットート、堂守がファビオ・カピタヌッチ、スポレッタがマヌエル・ピエラッテッリ。指揮はジュゼッペ・フィンツィ、合唱指揮はクラウディオ・マリーノ・モレッティ、演出はアレッサンドロ・タレーヴィ。
第1幕を通してとくに印象に残ったのは、堂守を演じたカピタヌッチであった。このような役にはまさにうってつけと言ってよい声と演技で、脇役ながらその存在感は高く評価される。この役はじつは第1幕においてはかなり重要で、カヴァラドッシやスカルピアに対する態度を通してドラマのテンションを上げ、圧巻のテ・デウムにつなげていくのである。このような名脇役と言える歌手は、いまでは少なくなっている感があるが、今回そういうアーティストに出会ったことはポジティヴな経験だった。
カヴァラドッシを演じたベルージは優れたテノールだし今回の公演では好演だったのだが、手放しで賞賛するにはなにかが足りない気がする。声やフレージングがどうのこうのというのではなく、全体に型どおりに過ぎると言ったらよいのだろうか。聴いていて、また見ていて、次に起こることが簡単に予想できてしまう。もちろんそれは音楽や演出の通りにやっているから当然だし、出演者の立場としてはそうしなければならないのだけれども、なにかサプライズの要素が加われば、本当にすばらしいパフォーマンスになっただろう。

同様の印象は、主役を演じたジャンナッタージオにも当てはまる。とくにこの役では、第2幕のアリア〈歌に生き、恋に生き〉の場面を聴衆がみな待っているわけで、彼女にしてみれば、ほかの場面が思い通りに歌えなくてもこのアリアだけはなんとしても成功させなければならないというプレッシャーがあるはずだ。しかも、そのプレッシャーを感じていることを表に出さずに歌うことが要求される。そのせいかどうか、当夜のアリアはある程度抑制された歌唱に感じられた。誤解のないように言い添えるが、物足りないわけではない。ひじょうにうまく歌ったし大きな拍手もあった。ただ欲をいえば、もっと大胆な表現をしてもよかったのではないかというのが感想だ。
スカルピアを演じたミーチェムも悪くはないが型通り。憎々しさを感じさせるほどではなかった。
総じてこの日はよくできた公演だったが、感動的というにはなにかが不足していたのだった。一点だけ気になったのは、第2幕の舞台裏(おそらく袖)で歌われる合唱。ヴォリュームが大きすぎて、ソリストのセリフが聞こえにくかったのは残念。これは稽古中にちゃんと調整できたはずだが、最終的には指揮者の責任だろう。
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