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2023.03.17
音楽ホール 最新事情2023~サントリーホール

サントリーホール~コロナ禍を経たからこそ分かる音楽の真の<感動>をすべての人へ

日本を代表するコンサートホールといえばサントリーホール。「このホールだからこそのクオリティとオリジナリティを持ち、お客様、アーティスト、そしてスタッフも感動する企画」を念頭に、これまで積み重ねてきた企画と新しい企画の両輪でアフター・コロナを意識した<新時代>を迎えようとしています。2023年のラインナップについて、折井雅子総支配人と、副支配人・企画広報統括部長の白川英伸さんにお話を伺いました。

片桐卓也
片桐卓也 音楽ライター

1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...

サントリーホールの内観 ©サントリーホール

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新型コロナウイルスの流行もようやく下火になりつつあり、次のステップへの期待がふくらむこの春、各地のコンサートホールもそれぞれに準備を重ねている。

日本を代表するコンサートホールであるサントリーホールの取り組みについて、折井雅子総支配人から話を伺った。

お話を伺ったサントリーホールの折井雅子総支配人(撮影:ヒダキトモコ)

2023年度ラインナップはアフター・コロナの新時代へ

折井「2020年はじめに緊急事態宣言が出されて、私たちも色々なことを学びましたが、その中でいちばん大事に考えていたのは、お客様にいかに安全にコンサートを楽しんでいただけるかということでした。サントリーホールのスタッフがマスクの着用を始めたのは2020年2月7日からでした。そこから丸3年がたった訳ですが、感染を防ぎつつ公演を維持するにはどうすればよいか、それを考え続けた3年でもありました。

また、その中で『デジタルサントリーホール』のようなWEBでの新しい試みにも挑戦しましたが、これからは私たちがこの3年で学んだことも糧にして、あらためて音楽の本来の楽しさ、コンサートホールの楽しさを提供していく時期に入るのだろうと思っています」

常に聴衆、演奏家のための安全で安心なコンサートホールの運営がまず基本だと語る折井さん。そして、この新型コロナ流行の時期にコンサートから離れてしまった聴衆を再び呼び戻すために、これまでに積み重ねて来た企画と新しい企画の両方を準備しているとも語ってくれた。その企画のラインナップに関しては、白川英伸さん(副支配人・企画広報統括部長)が語る。

サントリーホールでしか実現できない世界的な演奏家の豪華共演

白川「2023年のコンサートに関しては、アフター・コロナを意識した点が特徴として挙げられると思いますし、それを<新時代>と言い換えることもできるかと思います。サントリーホールの主催事業は、サントリーホールだからこそのクオリティとオリジナリティを持っていることが大事で、同時にお客様、アーティスト、そしてスタッフも感動する企画を、ということも心がけています。

その代表的な例としては、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の公演をオーストリア生まれのフランツ・ウェルザー=メストが指揮する『ウィーン・フィルハーモニー・ウィーク・イン・ジャパン』が挙げられます。リンツ生まれのメストとウィーン・フィルによるオーストリア的な方言の感じられる演奏とあえて言ってもよいと思いますが、これは楽しみにされている方も多いでしょう。

今年の「ウィーン・フィルハーモニー・ウィーク・イン・ジャパン」を指揮するフランツ・ウェルザー=メストは、1月のウィーン・フィル ニューイヤーコンサート(写真)でプログラムに初登場曲を大胆に盛り込んだことでも話題となった ©Wiener Philharmoniker/DieterNagl

また、世界的なピアニストである内田光子さんがソリスト集団であるマーラー・チェンバー・オーケストラと共演をしますが、内田さんいわく『サントリーホールでの演奏は本当に奇跡が起こる』ともおしゃっていて、期待していただきたいと思います」

これらは本当にサントリーホールでしか実現できない世界的な演奏家の豪華な共演となる。

サントリーホールと関わりの深いアーティスト、内田光子。昨年はネルソンス指揮ボストン響のソリストとして登場した(写真)。今年はマーラー・チェンバー・オーケストラを弾き振りする © N. Ikegami|SUNTORY HALL

室内楽と現代音楽をより親しみやすく~「チェンバーミュージック・ガーデン」「サマーフェスティバル」

そして、大きなフェスティバルも。

白川「2011年から始まった『チェンバーミュージック・ガーデン』では、コアなファンの多い、普通の音楽ファンにはちょっと敷居の高かった室内楽を、より親しみやすい形で紹介するような努力も続けています。昨年から始めた<室内楽のしおり>というコンサートや午後の1時間のコンサートなどを加え、リピーターも多くなってきたベートーヴェン『弦楽四重奏曲』全曲演奏ツィクルスには、イギリスで活躍しているエリアス弦楽四重奏団が登場します。同時に若手演奏家もこの『ガーデン』にたくさん登場します。例えば各メンバーがサントリーホール室内楽アカデミー出身の葵トリオのような若いグループ、ピアノの北村朋幹さんを中心にしたアンサンブルの公演では、日本の音楽界の未来を期待させるコンサートとなりそうな予感があります。 

チェンバーミュージック・ガーデンには、ホルンの世界的なスター奏者、ラデク・バボラーク(左)が若い音楽家たちと共演する企画も(6/11)© N. Ikegami|SUNTORY HALL

もうひとつ、8月の『サマーフェスティバル』では、三輪眞弘を迎えた『ザ・プロデューサー・シリーズ』、世界の最先端の作曲家(2023年はオルガ・ノイヴィルト)の作品を紹介する『サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ No.45』のほか、『芥川也寸志サントリー作曲賞』の選考会では、2019年から会場に集まった方の投票なども企画しており、堅苦しいと思われている現代音楽をより身近に感じられるものにできないかという取組みも行なっています」

さまざまな世代の方に音楽を~平日午後の新シリーズ「にじクラ」

<裾野>を広げていく取組みも、サントリーホールのプロジェクト全体に感じられる点だ。

白川「やはり次世代の聴衆を育てるテーマでは、人気が定着したと思える東京交響楽団との共催による『こども定期演奏会』があり、街がイルミネーションで華やぐ時期にはバッハ・コレギウム・ジャパンとのクリスマス・コンサート『聖夜のメサイア』、そして『サントリーホールのクリスマス』があります。日本フィルハーモニー交響楽団と共催で行なってきた平日午後のコンサートは『にじクラ』というタイトルのもと、新しいシリーズとして展開します。シニアの方はもとより、平日午後に時間の余裕があるさまざまな世代の方にも音楽を体験していただきたい企画となります」

30年以上サントリーホールの恒例となっているウィーン・フォルクスオーパー交響楽団の大晦日とニューイヤー・コンサート。さながらウィーンで年越しをしているようなゴージャスな雰囲気を味わえる © N. Ikegami|SUNTORY HALL

コンサートホールの未来を見据えた取り組み

折井総支配人は、コンサートホールの持つ意義について語ってくれた。

折井「いつでも、そこに行けば音楽があるという安心感、期待感、それを持ち続けていただけるコンサートホールでありたいと、サントリーホールは願っています。また、さまざまなサステナビリティに関する取組みもスタートしています。見えないところでは、例えば会場で出されるゴミの資源化などです。その他にも地域社会とのつながりの意識なども大きな課題ですね。音楽的な内容も多彩であり続けたいですし、サントリーホールは<包容力>のあるホール、ダイバーシティを意識したコンサートホールでありたいと考えています」

未来を見据えた取組みはすでに始まっている。聴衆の私たちもそれを意識する存在でありたい。

サントリーホール、朝の風景。サステナビリティ、ダイバーシティといった未来を見据えた取組みが始まっている ©サントリーホール
サントリーホール 

[運営](公財)サントリー芸術財団

[座席数]大ホール:2006席、ブルーローズ(小ホール):384席(A型)・432席(B型)・380席(C型)

[オープン]1986年

[住所]東京都港区赤坂1-13-1

[問い合わせ]Tel.0570-55-0017(チケットセンター)

suntory.jp/HALL/

片桐卓也
片桐卓也 音楽ライター

1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...

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