インタビュー
2021.07.19
細野晴臣や矢野顕子などを手掛けるレコーディング・エンジニア

寺田康彦がイクリプス小型スピーカーTD307MK3を “クラシックも聴ける” と語る理由

卵形のデザインが存在感を放つイクリプス小型スピーカーTD307MK3。
その試聴感を、ユーミンやYMO、スピッツなど、さまざまなビッグネームのアーティストを担当してきたレコーディング・エンジニア、寺田康彦さんにお話をうかがいました。

取材・文
今津甲
取材・文
今津甲 インタビュアー/ライター

90年代から活動を開始し、のべ数千人をインタビュー。10年前よりアメリカの大学生に向けて雅楽からJポップに至る日本の音楽文化のレクチャー『Japanese music...

写真:川村惇

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「正確な音」でレコーディング・エンジニアにも愛されるスピーカー

音楽の達人たちに愛されてきたスピーカー。イクリプスにはそういう印象があります。

筆者の個人的体験からお話すると、その存在を強くアピールしてくださったのは故・佐久間正英さん。BOOWY、GRAY、ジュディマリと数々の大物たちのプロデュースをしてきた氏に、最後にインタビューさせていただいのは亡くなる1ヶ月前のことでした。もう立ち上がるのも大変そうなそのとき、取材の内容とは関係なく「こんな小さいのに正しい音が聴こえるんです」と熱く語っていたのがイクリプスだったのです。

そんな体調にもかかわらず、自主的に称賛してしまうほどのスピーカー。ということで強く印象に残り、やがて自分も購入することになりました。

それから5年ほど使った今、今度はレコーディング・エンジニアの寺田康彦さんに試用していただいた感想をお聞きすることになりました。

寺田康彦(てらだ・やすひこ/写真右)
シンクシンクインテグラル代表。日本ミキサー協会理事。1975年アルファアンドアソシエイツ入社。荒井由実、 ハイファイセット、吉田美奈子等のレコーディングのアシスタントとしてキャリアをスタートし、YMO「X∞増殖」や坂本龍一「B-2 UNIT」、細野晴臣「はらいそ」「S-F-X」「メディスン・コンピレーション」、カシオペア、ソフトバレエ、PINK、TOKIO、スピッツ等々ジャンルを問わずミキシング作品に多数携わる。1994 年クリエイター集団シンクシンクインテグラル設立。翌年音楽ユニット、スクーデリアエレクトロ結成。近年では矢野顕子ニューアルバムのレコーディング、シンガーソングライターさとうもかの初期プロデュース、新進気鋭のクリエイターESME MORIのミックスなどを担当。2005年よりくらしき作陽音楽大学特任教授として音楽制作やスタジオ録音の授業を行なう。
写真左は筆者。

佐久間さんとほぼ同世代の寺田さんは、やはりさまざまなビッグネームを担当してきた方。たとえばこんな具合です。

「初めて体験したレコーディングは荒井由実3枚目のアルバム『コバルトアワー』。参加ミュージシャンには細野晴臣さんや松任谷正隆さんもいました。初めて自分がメインのエンジニアで担当したのはカシオペアのデビュー・アルバムなんですけどね」

つまり独身時代のユーミンの名盤に参加して、そこには彼女の未来のダンナである松任谷さんや、のちに音楽界の重鎮となる細野さんがいた。そして日本のフュージョンの幕開けともなるアルバムを担当した、というわけです。

初めて携わった荒井由実『コバルトアワー』

イクリプス「TD307MK3」を眺める寺田康彦さん。インタビューは三軒茶屋にあるスタジオファミリア(東京都世田谷区太子堂3-26-9DC太子堂 Tel.03-6805-2131)にて行なわれた。

「その後はYMOや細野さんのソロ作品、ソフトバレエスピッツのアルバムなんかもやりましたね。近年では矢野顕子さんの作品もやらせてもらってます。あとは自分が教えている音大の卒業生の音を担当することもあったり」

他にもゲームやアニメの音楽をやったりと、とにかく守備範囲の広い寺田さん。そんな寺田さんが、「どんなお仕事にも欠かせない」と語るのが、信頼できるスピーカーの存在。自宅録音をやったことがある人なら実感していると思いますが、たえず音を確認しながらやるのが作品づくり。スピーカーはもう、自分の耳の延長なんです。

寺田さんが制作に関わった主なアルバム

「といってエンジニアの場合、オーディオ好きの人たちとは求めるものがちょっと違うんですけどね。僕らの仕事では最初から気持ちいい音が出すぎると詰めが甘くなってしまう。そうするとみんながいい機材で聴いてるわけじゃないのであまりよくない音としてリスナーに届く。だから仕事で使うスピーカーは脚色がないものが一番なんです」

実は寺田さん、イクリプスのスピーカーの存在自体はお知り合いが関わっていたこともあり、2004年の登場時からご存知だったとのこと。そのあと、日本人で初めて英米NO.1ヒットを送り出した屋敷豪太などが使っているのを知って、ズッと気にはなっていた、と伺いました。

とはいえ、寺田さんはお仕事と同じぐらい幅広い音楽の愛好家。今回はリスナーとして、エンジニアとして、両方の耳でイクリプスのスピーカーを試聴していただきました。その結果……。

クラシックも聴ける!イクリプスTD307MK3

「ポップスやロックはもちろんのこと『あ、クラシックも聴けるじゃん!』と思いました。音色を楽しむのならいい録音のクラシック、と思っているので。以前、自分のスタジオにムジークというドイツ製のスピーカーを導入したとき、調整しに本国から社長が来てくれたんです。そのとき、彼がプレゼントしてくれたCDが素晴らしい音で、今回もこれをチェックに使いました」

そのCDとは、クルト・マズア指揮ゲヴァントハウス管弦楽団のベートーヴェン。そのどんな部分に着目して “クラシックも聴ける” ということになったのでしょうか?

クルト・マズア指揮ゲヴァントハウス管弦楽団のベートーヴェン

「これは僕にとって一番重要なことなんですけど、キツくていやな音がしないんです。いまレコーディングで使われている小型スピーカーの多くは、そこがあまり気持ちよくなかったりするんですが、イクリプスは違いましたね」

確かに一般のスピーカーでも高音を強調して解像感をアピールしているものもあり、ヴァイオリンの強奏などはつらいですよね。しかも、そういうタイプは、低音も同時に強調されていることがほとんどで。

「イクリプスはそれもなかったですね。もちろん小型のスピーカーだから大きなスピーカーのような低音は出ない。でもすごく自然な低音なんです。ベースの音なんかもちゃんとわかるし」

音が明瞭だから定位もよくわかっておもしろい

ただでさえ高音と比べれば聴こえづらい低音は、スピーカーが小さければ小さいほどさらに聴こえにくくなる。それがちゃんと聴こえるというのは、音を濁らす要素が少ないということでもあります。スピーカーにとっての音を濁らす要素。それはスピーカーを収めた箱の振動や吸音に問題があることが多いのですが。

「音が鳴ってるときにボディに耳をつけてみたんです。そしたら全然振動してないんですね。普通だったら低音で振動しているはずなのに。じゃあこの低音はどこから出てるの? ってすごく不思議でした。メーカーの方に聞いてみたいぐらいで(笑)」

スピーカーの音を聴く寺田康彦さん。LUXMAN L-580 (プリメインアンプ)、ProAc STUDIO100(スピーカー)、Technics SL-1200MK3(アナログプレーヤー)DENON DCD-1550G(CDプレーヤー)のシステムにアドオンされた。

試聴ディスクは、ベートーヴェン/Gewandhausorchester Leipzig Kurt Masur、Led Zeppelin Ⅱ、バーシア/THE SWEETEST ILLUSION、コールドプレイ/VIVA LA VIDA、マイルス・デイビス/Kind of Blue、JOHN COLTRANE Best、細野晴臣/メディスン コンピレーション、YMO/マルチプライズ。

音が明瞭だから定位もよくわかっておもしろい、ともお聞きしました。定位とは2つのスピーカーの間、左から右までのどこに音が位置するか。オーケストラで言えばハープからコントラバスまで、あるいは第1ヴァイオリンからチェロまでがどこで鳴っているか克明にわかる。これはシンフォニーなどを聴く大きな楽しみでもありますね。

「今後は仕事でも使ってみます」という寺田さん。その成果である音源がみなさんの前に登場する日も遠くはないのかもしれません。

取材・文
今津甲
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今津甲 インタビュアー/ライター

90年代から活動を開始し、のべ数千人をインタビュー。10年前よりアメリカの大学生に向けて雅楽からJポップに至る日本の音楽文化のレクチャー『Japanese music...

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