スウェーデン大使館に行って、本場の夏至祭りについて聞いてきた。
スウェーデンの児童文学に出てくる北欧の夏至祭りに、ずっと憧れを抱いていたという絵本作家の本間ちひろさん。編集部で企画した夏至祭にお誘いすると、それなら準備をしなければ! ということで、スウェーデン大使館の広報文化担当官、アダム・ベイェさんに本場の夏至の過ごし方を聞きにいくことにしました。
1978年、神奈川に生まれる。東京学芸大学大学院修了。2004年、『詩画集いいねこだった』(書肆楽々)で第37回日本児童文学者協会新人賞。作品には絵本『ねこくん こん...
6月のある日、音楽之友社に原稿を届けに行ったら、ONTOMOの編集長に、「あ、そうだ、来週、夏至祭りしますけど、いかがですか?」
なんと~、夏至祭りに誘われるとは!
憧れというものは、いつかは、叶うものなのかもしれない。
スウェーデン大使館で本場の夏至祭りについて教えてもらう
せっかくやるのなら、誰かに教えていただこう、ということになり、スウェーデン大使館のアダム・ベイェさんに、夏至祭について、お話を伺うことにした。そして、6月9日に大使館で開催されたナショナルデー(建国記念)のイベントで、夏至祭りの踊りにも参加することにした。
――スウェーデンの方々にとって、夏至祭りってどんな感じですか?
アダム・ベイェさん: 夏至祭りはキリスト教が伝わる前に信じられていた宗教と関係があると言われています。スウェーデンでは、クリスマスの次に盛り上がる。最近は6月19日~26日のあいだの金曜日を「夏至の前夜祭」として祝日にし、土曜祝日を「夏至祭りの日」としています。子どもは6月初めから夏休み、大人も夏至祭りから長い夏休みをとる人が多いです。
――児童文学者アストリッド・リンドグレーンの『わたしたちの島で』の、夏至祭りの踊りの場面が、楽しそうで好きです!
アダムさん: そうそう。同じ北欧のフィンランドでは、夏至祭りに焚き火をたくそうですが、スウェーデンでは春の再来を喜ぶ4月30日のワルプルギスの夜という祭りでは焚き火をたくけれど、夏至祭では焚き火はないです。
では、夏至祭りで何をやるかというと、ほら、(写真を見せて)ミッドソンマルストング(マイストング、メイポール)を立てます。
――わ~、結構でかい!
アダムさん: 地域によって、大きさや形には違いがあります。自分の家の庭に立てる場合は、規模が小さいですが、町や村で立てるものは、大きいですね。
――このカタチに何か意味があるのでしょうか。
アダムさん: 男のシンボルという説が……。
――ほんと!?
アダムさん: 検索して調べると……これは都市伝説だそうです(一同笑)。キリスト教のさまざまなシンボルの影響という説もあるようです。謎ですね。
――作るとしたら、棒で十字架の上を三角にして、丸いのを2つつければいいですかね? 周りの緑は何ですか?
アダムさん: 葉っぱや白樺などの枝を使います。何のために建てるかというと、踊るんですね、周りを。ニッケルハルパや、ヴァイオリンとともに、伝統的な歌をうたいながら。
ニッケルハルパはウップランド地方の楽器で、最近では他の地域でも弾かれますが、ストックホルムのあたりでは、ヴァイオリンが多いです。踊りのあとは、ごちそうを食べたり、お酒を飲みます。踊りは、たいてい昼過ぎかな。夕方になると食事して、お酒を飲んで。白夜で明るいので、酒を飲んだあと、また踊りにいったり、お酒を飲んだり……。
――お酒はどんなものを飲むのですか?
アダムさん: このときに飲むのはウォッカで、飲むたびに歌をうたいます。一緒に歌って、スコール!(乾杯)といって、飲み干す。この乾杯の歌がいろいろあります。うちの家族は代々この歌、など、それぞれにこだわりがあります。
――何歳からそのお酒の輪に入れるんですか?
アダムさん: 法律的には18歳から飲んでいいのです。
――楽しそう! でも、二日酔いになりそうです。
アダムさん: あ、だから、夏至の前夜祭は、金曜日。飲んで踊って次の日、土曜日。
――乾杯の歌。どんな歌がありますか?
アダムさん: ヌッベヴィーサ(乾杯の歌の意味)には、いろんなのがあるんですけど、もっとも一般的に歌われているのは、「へーランゴール」。みんなが知ってる歌です。♪ヘーランゴール (アダムさん歌う)
――おお!明日歌います!
アダムさん: あと、夏至祭の前の日に7種類の花を摘んで、枕の下に敷いて寝ると、夢に出てきた相手と結婚すると言われています。
――わ~、ロマンチックですね!
アダムさん: まあ、迷信だとは思いますが(笑)。あと、草花で、冠を作ります。男女問わず、花冠をかぶります。民族衣装は、こだわる人は着るけど、みんなが着るわけではないですね。
――夏至祭りでは、やっぱ恋が生まれることが多いですか?
アダムさん: はい。それで、4月に生まれる子が多いと言われています。
――ミッドサマーストングの周りで、踊るのは、どんな歌がありますか?
アダムさん: たいていは、ふざけた感じの歌です。楽器を弾く身振りの入った歌や、動物の真似をして踊るもの、いろいろあります。一緒に踊る、というのが基本ですから、難しくない、みんなで踊れる踊りです。
――6月9日の大使館のナショナルデーのイベントでは、時期が近いので夏至祭りの踊りもあり、「ヤンタ オ ヤ(Jänta å ja)」から踊りが始まりました。この歌のメロディは、「トットトコ」というタイトルで日本でも歌われています。
アダムさん: 「ヤンタ オ ヤ」の踊りは、手をつないで歩くロングダンスで、他の国では消えてしまった中世の頃の一般的な踊りです。中世の教会に描かれた絵などに出てきます。ミッドソンマルストングの周り、クリスマスツリーの周りでも踊ります。最近の家庭ではやらないかもしれませんが。あと、「ヤンタ オ ヤ」は、替え歌があります。
――子どもたちが、ふざけて作ったような替え歌ですか?
アダムさん: だれが何のために…。子どもじゃないと思います。大人が作ったんじゃないかな、けっこうな下ネタです。
――夏至祭りのごちそうは、どんな感じ?
アダムさん: クリスマス料理と比べたら自由です。夏の日によく食べるものを食べます。新ジャガに、グレッドフィールというサワークリームみたいな、でもちょっと違うのと、青ネギ、いろんなニシン。酢漬け、マスタード漬け、酒漬け、とにかくニシンばっかり。
あと、サーモン料理。漬けたサーモンは、昔、保存のために土に埋めたので「埋めた鮭」と呼ばれています。
上:新じゃが ©alexander hall
写真提供:スウェーデン大使館
それから、ハーブのディルをよく使います。ケーキは必ず食べますね。野イチゴのケーキ。あと、ヴェステルボッテンオスト(Västerbottenost)のキッシュ。濃厚な熟成ハードチーズで、そのままでもおいしいし、料理に使うとすごくおいしい。スウェーデンでは、みんなが大好きなチーズです。
クリスマスは、親戚が集まるけど、夏至祭は、どっちかと言ったら、友だちと楽しむ感じかな。夏至の頃から7月いっぱいは、あまりスウェーデンの社会に期待しないほうがいいです。夏休みが長いからね。
――夏、みんな好き?
アダムさん: そうですね、夏は、みんな気持ちがオープンになりますね。夏の間だけ。冬の間とは、ちょっと違う。
――明日、わたしたちは夏至祭りをしますが、何かアドバイスはありますか?
アダムさん: 子どもには酒を飲ませない、かなあ(笑)。大人は、乾杯の歌をうたうと、楽しいかもね。
リンドグレーンが書いた夏至祭りに憧れて
ああ、いつか、夏至祭の飾り柱のまわりで踊ってみたい。そう思っていた……。それには理由がある。
スウェーデンの児童文学に、『わたしたちの島で』(アストリッド・リンドグレーン 作/尾崎 義 訳/岩波書店)という作品がある。
ちょっぴり頼りない作家のパパと、お姉さんのマーリン、3人の弟が、ウミガラス島に家を借りて、夏を過ごす(クリスマスも)物語。夏至祭の前夜祭の日の章がある。わたしはこの前夜祭の日の、朝のシーンが好きだ。
わたしはぱっとはね起き、さっと服をきると、外にとびだした。目にはいったのは、海が青々と光っていたこと、愛すべき弟たちが起きてはいたが、手持ちぶさたでいることだった。そこで、わたしは弟たちをヤンソン牧場へ引っぱっていった。わたしたちは、野の花や緑の木の葉をいっぱいかかえて帰り、スニッケル荘をすみずみまで、夏の香のただよう葉っぱ小屋にかえてしまった。
この「葉っぱ小屋」という言葉には注がついていて、「夏至祭には、シラカバの若葉の枝で、家の外側も部屋のなかも飾る」とある。若葉を摘んで飾る、その爽やかな感覚から、わたしは、スウェーデンの夏至祭にちょっと憧れを抱いていた。
夏至祭の様子がわかる部分もある。
メルタおばさん自身は、プリーツのある綿スカートに白い三角のショールの主婦らしい服装で、とてもかわいらしく、きれいに見えた。ほんとうに、このメルタおばさんって人は! ウミガラス島に、夏至祭の飾り柱が立てられるのも、夏至祭の遊戯をして楽しめるのも、いったいだれが世話をするのかといえば――それはメルタおばさんなのだ!(中略)ウミガラス島の人間を、ひとりのこらず夏至祭の飾り柱のまわりで躍らせ、『かわいい、かわいいカエルさん、見ても愉快なカエルさん』を歌わせるのは、いったいだれかといえば――それこそほかならぬメルタおばさんだった。
『わたしたちの島で』を原作に、リンドグレーンが脚本で参加している映画『チョルベンと水夫さん』
ONTOMO夏至祭の準備に入る――日本では枝一本用意するのも難しい!
さて、大使館のアダムさんのお話と、イベントでの踊りから、私がやりたいこと、できそうなことが決まった。
①ミッドソンマルストングを作る。
②踊りは、ロングダンス。
③乾杯の歌をみんなで歌えるようにする。
わたしたちの夏至祭りのために準備をしなければ! しかし、東京では枝一本、葉っぱを準備することさえ難しい。枝を手に入れるって、ほんとうは、もっと簡単なことであってもいいのではないだろうか。
北欧の国々では、「自然享受権」という権利が認められていて、ルールはあるが、自由に湖や川で泳いだり、釣りをしたり、森でピクニックをしたり、ベリーを摘んだり、キノコやドングリを獲ることができる。
だから、ミッドソンマルストングを飾る葉っぱや花、夏至に枕にしいて眠る、7種の花を摘むことを楽しめるのだろうか。
日本の場合だったら、自分の土地がない場合は、まずは、土地の所有者に、花を7種類摘んでもいいですか? と尋ねなければならないかもしれない。ただ、自然の植物に対して、心ない荒らし方をする人がいるのも、確かだし、一度に人が草花をとりすぎてしまうと、絶えてしまうかもしれないから、いまの状況では仕方ないかもしれないが。人々が自然と親しんでこそ、自然が守られていくという側面も、日本でももっと、考えられていくといいな、と思う。
短い夏を楽しむ夏至祭りに学ぶ「今」の楽しみかた
スウェーデンは、税金は高いが、高福祉政策で、老後の心配がない。だから、長い夏休みをしっかりとって、めいっぱい楽しめるのだと人から聞いたことがあるが、そういうもんだろうか。日本の場合は、何でかわからないけど、いつでも、忙しくしている人が多いのは、社会保障や、自分の老後への不安からだろうか?
でも、日本の夏は、緑豊かで花が咲き、風が気持ちいいのだから、夏を楽しみ、もっと満喫してもいいのではないか。老後の心配や、社会保障のことは、すぐに、どうにかなるわけではないけれど、自分の心、気分なら、今だけでも、ちょっと変えられる。
さあ、老後の心配は、とりあえず今は忘れて、自分たちの夏至祭りを、楽しもう。心は準備万端である。
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