
指揮者マルヴィッツがコンツェルトハウス管の契約延長/ベルリンの文化生活は今

海外のクラシック界のニュースやコンサート、オペラ公演の様子を、現地在住の筆者がいちはやくお届け。今回は7月のドイツの音楽シーンから、ベルリンのニュースをお届けします。

1975年、神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、2000年よりベルリン在住。著書に『明子のピアノ』(岩波ブックレット)、監修を務めた『おとうさんのポス...

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
マルヴィッツの秀でたコミュニケーション能力がコンツェルトハウス管を成功へ導く
7月8日、ヨアナ・マルヴィッツがコンツェルトハウス管弦楽団首席指揮者の任期を2032/33年シーズンまで5年間延長した。その蜜月ぶりは現地でも話題になっている。
マルヴィッツがこのポストに就任したのは2023年9月。以来、過去3シーズンの間に次々と新風を吹き込んだ。コンツェルトハウスは昨シーズンの平均稼働率を約90%と公表しているが、マルヴィッツが指揮するコンサートはほぼ毎回がソールドアウトの盛況が続いている。
その成功の大きな要因は、音楽の魅力を伝達する彼女の並外れたコミュニケーション能力にあるといえる。就任以来、コンサートの前に作品解説を行うスタイルを定着させ、ベルリンのコンサートライフの定番にまでなった。みずからピアノを弾いて聴衆に語りかけ、ときにはオーケストラを前に特定の箇所を演奏させて、聴きどころを解説する。そのエネルギッシュかつ親しみやすい語り口は自然と引き込まれるものがあり、単にわかりやすさを目指すのではなく、聴く耳を育みながら共に音楽を楽しもうという意欲にあふれる。
コンツェルトハウスのインテンダント、トビアス・レンペが、マルヴィッツについて「卓越した芸術的才能と、クラシック音楽を自然な形で魅力的に伝える能力をこれほど兼ね備えた指揮者は他にいません」と絶賛する所以だろう。
残り2シーズンを残したタイミングで、新たに5年間の契約を結ぶのも異例だ。契約更新にベルリンのカイ・ヴェーグナー市長が同席したことからも、他の都市に引き抜かれる前に確保したいという意図が透けて見える。マルヴィッツ自身は、「社会が困難な時代だからこそ、人々が共に耳を傾ける場所が必要です。今後もコンツェルトハウスが私の芸術的な拠り所であり続けることを、この上なく嬉しく思います」とコメントした。
コンツェルトハウス管の響きも、柔軟なフレージングと響きの透明さにより、室内楽的な対話を重んじるスタイルに変わりつつある。来シーズンはExpeditionskonzert(探検コンサート)のシリーズで、ベートーヴェンの交響曲を「第1番」から「第5番《運命》」まで、毎回1曲ずつというぜいたくな枠組みで取り上げる。
作品の完成度を極限まで突き詰めるペトレンコ&ベルリン・フィルに対し、マルヴィッツ&コンツェルトハウス管は聴衆とのコミュニケーションを重視する独自のスタイルで新たな方向性を確立した。新シーズンに始動する山田和樹&ベルリン・ドイツ交響楽団がここにどう割って入るか。ベルリンのオーケストラ・シーンから目が離せない。

ベルリンの文化生活に影を落とすシンプルな要因
ドイツの文化参加研究所(IKTf)が、昨年夏に行ったベルリンの文化イヴェントへの参加に関する調査の結果を発表した。対象となったのは、クラシックのコンサート、演劇やオペラ、バレエ、展覧会など。それによると、2023年と比較して来場者数が回復傾向にある一方、コロナ禍による長期的影響が、文化運営に依然として大きな重荷になっていることも明らかになった。
文化イヴェントへの参加においては男女間の格差も広がり、とくに50歳以上の一人暮らしの男性は、例年の調査に比べて参加の機会がますます少なくなっているという。大きな障壁の一つは、シンプルに「お金」。物価上昇のなか、回答者のほぼ3分の2(65パーセント)が「文化イヴェントへの費用を賄うのが以前より難しくなった」と答えている。入場料が障害になっていると答えた割合は、2019年の35パーセントから47パーセントへと上昇した。
IKTfがまとめた提言には、「第一に、これまでアプローチできていなかった層に対する魅力的なプログラムや解説などで伝達する要素。第二に訪れる上で壁になっている要因を取り払うこと」と書かれている。もっとも、その壁の要因になっているチケット価格を下げることは、文化予算を削減しているベルリン市の財政状況を考えると期待できない。こうした現状を鑑みると、ベルリン市にとっても「希望の星」であるマルヴィッツの異例ともいえる早期の契約更新の背景が浮かんでくる。





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