レポート
2021.08.29
反田恭平プロデュース

室内楽の新時代到来!——驚異の若手スター集団ジャパン・ナショナル・オーケストラ(JNO)

5月に株式会社化された反田恭平率いるJNO(ジャパン・ナショナル・オーケストラ)。7月に開催された3人のソリストによる「コンチェルトシリーズ」は、聴衆の熱狂を得て、多幸感あふれた空間に。
気鋭の若い音楽家たちによる試みについて、その場に立ち会っていた音楽評論家・小倉多美子さんがメンバーに追取材、国内外のこうした潮流にも触れながら紹介します!

取材・文
小倉多美子
取材・文
小倉多美子 音楽学/編集・評論

武蔵野音楽大学音楽学学科卒業、同大大学院修了。現在、武蔵野音楽大学非常勤講師。『音楽芸術』、『ムジカノーヴァ』、NHK交響楽団『フィルハーモニー』の編集に携わる。『最...

反田恭平プロデュース ジャパン・ナショナル・オーケストラ コンチェルトシリーズ Vol.1(2021年7月28日、29日 浜離宮朝日ホール)©S.Ohsugi

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イノベーショナルとも言える魅力を放つスーパースター集団

最高峰の若手俊英から成る室内管として、大きくクローズアップされているJNO(ジャパン・ナショナル・オーケストラ)。今年2、3月の全国10都市ツアー(佐渡裕・指揮)や株式会社になったあとの5月公演はソールドアウトも出る人気を博している。

JNOは、2018年にピアニストの反田恭平がプロデュースした「MLMダブル・カルテット」(弦楽八重奏)が「MLMナショナル管弦楽団」へと発展、2021年1月JNOに改称した同団のメンバー表を見ると驚く。

MLMナショナル管弦楽団のトップ・トラック

ヴァイオリンには、今夏のドレスデン・モーリツブルク室内楽音楽祭に出演したばかりの岡本誠司(極く少数精鋭を巨匠たちがレッスンする、世界の若手垂涎のクロンベルク・アカデミー在籍)をはじめ、そのクロンベルクも修了しソロ・室内楽に大活躍中の大江馨(桐朋&慶應両校在学中の日本音楽コンクール優勝は鮮烈だった)、札幌交響楽団第2ヴァイオリン首席の桐原宗生コントラバスに読売日本交響楽団首席の大槻健、オーボエには巨匠ハインツ・ホリガーともトリオを組んだ俊才・荒木奏美(東京交響楽団首席)、世界屈指の室内オーケストラであるドイツ・カンマーフィルのアカデミー生でもあった有田朋央など、全メンバーの経歴を紹介したいくらいだ。国内外一級のコンクール上位入賞やアカデミーでの研鑽、若くしての首席といった、次代を牽引する最高峰の若手俊英ばかりが集う。

7月28、29日は「コンチェルトシリーズ」第1回を指揮者なしで開催したが、そのステージは、日本の室内管“新元年”と呼びたいほど、一瞬も聴き逃せないワクワクドキドキの連続だった。

モーツァルト「ヴァイオリン協奏曲第1番」 ソロ:岡本誠司
©S.Ohsugi

追加公演も含めて2日間開催され初回に彼らが選んだのは、モーツァルト「ヴァイオリン協奏曲第1番」(ソロ:岡本誠司/コンサートマスター:大江馨)、クロンマー「フルートとオーボエのためのコンチェルティーノ」(ソロ:フルート八木瑛子とオーボエ荒木奏美/コンサートマスター:岡本、以下同)、シューベルト「交響曲第5番」。すべて指揮者なし。

室内管に大きな局面をもたらしたと言ってもいいほどイノベーショナルな音楽づくりを、スーパースター集団がどのように拓いていったのであろう? 岡本誠司さんに伺ってみた。

7月28、29日の「コンチェルトシリーズ」第1回で、ソリスト、コンサートマスターを務めた岡本誠司。
©S.Ohsugi

「みな個性的で、どう表現したいかも明確に抱いているメンバーです。どう弾きたいかという部分的な解決の前に、時代や個人様式など作品のバックボーンを全員で共有しました。しかし、細部は決め過ぎず、例えば、同じフレーズを繰り返す2回目はエコーとするかクレシェンドするかはその場の自発性に任せ、しかし、作品への大きな解釈は共にある状態をめざしました」。

本番でバラバラになりかねないリスクは、さらに、3日間のリハーサル(通常のオーケストラでは2回)やゲネプロでの試行錯誤で高みへと変換されている。

「デュオのときのような、一瞬の閃き、その場で発生したことを響かせていく創り方が、今回20人弱でできるかを確かめたリハーサルでもありました。4~5人でもやらないことかもしれません。どういう選択肢を自分たちが持てるのか、徹底的にディスカッションもしましたし、どういう表現の可能性があるか、全員からさまざまなアイデアが出ました。

1つできたと思って頂上に来てみたら、さらにその奥にもう1つ高い山があり、それも登ってみたい……と、正解のない世界を追究する志向性の高いメンバーばかりで、いくつものパターンを試してストックしました。そして、どの引き出しを開けるかは、その場の空気感で決めていきましたので、私たちにとっても胸の高鳴る本番でした」。

個々の力量発揮に留まることなく、彼らの間で起こることを、時間芸術として瞬間に起こる、そして出来得る最高の瞬間を、ライブとして送り出そうとしているのであろう。

JNOがどこからビッグバンを起こしてきたかといえば、MLMダブル・カルテットからであり、アンサンブルからの出発だった。大規模オーケストラの中で個々の感覚を突き詰めていくことは難しいかもしれないが、しかし、アンサンブルとして出発した彼らにとって、個の感覚とアイデアは、むしろ増幅し、掛け合わされていく。ファウンダーである反田恭平には、ダブル・カルテットから倍のメンバー数に、さらに倍へとの構想があるが、核となるアンサンブル感覚で拡がっていくのであろう。

海外を見渡してみても、クラウディオ・アバドが創設し、現在ウラディーミル・アシュケナージが音楽監督を務めるEU(欧州連合)加盟国の若手音楽家からなるEUユース管弦楽団や、フランクフルトを拠点に18~28歳の約260名のメンバーが所属するユンゲ・ドイチュ・フィルハーモニー管弦楽団、ヴァイオリニストのギドン・クレーメルがラトビアを本拠地に創設したクレメラータ・バルティカなど、若手逸材集団によるオーケストラや室内管の実力や魅力は、確固たる地歩を築いている。

アンサンブルを核に拡がりを見せる、イノベーショナルとも言える魅力を放つJNOへの期待も、高まるばかりだ。

EUユース管弦楽団の紹介動画

ビジネス的に厳しくても、隠れた名曲をプログラミング

今回フルートの八木瑛子が提案した曲目「コンチェルティーノ Op.65」の作曲家フランツ・クロンマー(1759-1831)は、モーツァルトやベートーヴェンと同時代のウィーンで活躍したボヘミア出身の人気作曲家。再評価の気運にあるとはいえ、プログラミングされる機会はまだまだ少ない。

前身MLMナショナル管時代のインタヴューで反田恭平も、演奏家というのは残された楽譜を弾いて世に広めることが一つの使命でもあると思う……そういう隠れた名曲が演奏できるコンサートにしたい」(『SPICE』5月17日インタビュアー:山田治生)と語っている。

「ある程度有名な曲を入れないと、ビジネス的に厳しいのではと言われますが、それが彼らの特長・個性なので、いいと思っています。事前に魅力を伝えられるオンラインサロン、Solistiade(ソリスティアーデ)も設定しています」

また、「室内楽の集客は難しいとも言われてきましたが、ソリストとして伸びる時期にアンサンブルの能力を身につけることは、この先オーケストラに入るにしても、ソリストとして活躍していくにしても、とても大切なこと」と、プロデューサーとしても全面バックアップ。

クロンマーでのソリスト、八木瑛子(フルート)と荒木奏美(オーボエ)。
©S.Ohsugi
ファゴット・セクション1番と2番が入れ替わる!?

©S.Ohsugi

シューベルト「交響曲第5番」第3楽章のトリオでリピートするとき、なんと、1番ファゴットを担っていた皆神陽太(写真左)と2番ファゴットの古谷拳一の立ち位置が入れ替わった。

異なる音色や表現でのリピートとともに、曲中に歩いて入れ替わるパフォーマンスにも、目が覚める思いだった。首席は「首席」のオーディションを受け、契約する通常のオーケストラでは、なかなかあり得ない交替と言えよう。「ちょうど2声になる部分であり、入れ替わったからといって音楽が欠けるわけではないので」と、1番を吹く皆神からの提案だった。。こんな実験もスンナリいけてしまうのもJNOならでは。

ところで、ツーブロック、金髪の、イケメン。2人でタンゴも演奏すれば、東京シティ・フィル首席でもある皆神さんはアコーディオンのcobaと共演したり、JNO公演後ベルリンに戻った古谷さん(ベルリン・フィル「カラヤンアカデミー」在籍)は、組んでいる木管五重奏とジャズ・シンガー&ドラマーとのライブが控えており、興味の対象にジャンル感はない。

日本の室内管シーンも、8月中旬に聴いた「九響スペシャル 室内オーケストラの愉しみ」では、かなりレアなモーツァルトの第37番(M.ハイドンの交響曲にモーツァルトが序奏を付け足しただけ)、グノーの9管楽器のための小交響曲と、攻めたプログラミングで地元聴衆に室内管の魅力を熱く届け、地方からの機運の高まりも感じる。

今年4月に佐藤俊太郎(指揮)・神谷三千子(ヴァイオリン)を音楽監督にN響首席ヴィオラ奏者・佐々木亮が協力して立ち上げられた気鋭の若手奏者たちによるアンサンブル・アール・ヴィヴァン(現在弦のみ)が早くも10月に第2回公演を予定している。一方、東京ヴィヴァルディ合奏団のような老舗も、気鋭の若手も起用し、また毎回豪華なソリストを迎えて気を吐いており、創立60周年を迎えた今年、9月11日には名手・成田達輝を迎え、11月には六本木ヒルズ51階で、12月にはペルー出身のシンガーソングライター、エリック・フクサキを迎えてと、創意に満ちた公演を予定している。

JNOでは2022年2、3月、メンデルスゾーンを予定している。“メンコン”こと「ヴァイオリン協奏曲」だけではなく「ピアノ協奏曲」も組まれるとのことで、JNOならではのメンデルスゾーンへの期待が増すばかりだ。

公演情報
反田恭平プロデュース JNO Presentsリサイタルシリーズ Vol.2 ファゴット皆神陽太の世界

日時/会場:

2021年9月17日(金)15:00開演 DMG MORIやまと郡山城ホール(奈良)

2021年9月19日(日) 18:30開演 浜離宮朝日ホール(東京)

出演: 皆神陽太(ファゴット)、大江馨/島方瞭(ヴァイオリン)、長田健志(ヴィオラ)、富岡廉太郎(チェロ)、水野翔子(コントラバス)

曲目:

  • バッハ:フルートパルティータBWV1013
  • アーノルド:ファゴットのためのファンタジー
  • 藤倉大:Calling
  • アラール:パガニーニの主題による変奏曲
  • モーツァルト:フルートカルテット K285
  • エルガー:ロマンス
  • フランセ:ディベルティスマン

料金: 4000円

詳しくはこちら

取材・文
小倉多美子
取材・文
小倉多美子 音楽学/編集・評論

武蔵野音楽大学音楽学学科卒業、同大大学院修了。現在、武蔵野音楽大学非常勤講師。『音楽芸術』、『ムジカノーヴァ』、NHK交響楽団『フィルハーモニー』の編集に携わる。『最...

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