インタビュー
2025.01.24
月刊誌『音楽の友』連動企画 フレッシュ・アーティスト・ファイル 【Q&A】

【Q&A】戸澤采紀さん(vn)~カラヤン・アカデミーで研鑽中! マーラーの交響曲は泣けます。

月刊誌『音楽の友』で、若手演奏家を紹介している連載「フレッシュ・アーティスト・ファイル」。当記事は雑誌のインタビューとはひと味ちがう切り口で、演奏家たちの素顔を紹介していきます。第8回は、ヴァイオリニスト・戸澤采紀さんにご登場いただきました。

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

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2001年東京都出身。2016年、当時15歳の若さで日本音楽コンクール優勝。その後東京藝術大学を経て、現在はドイツ・ベルリン芸術大学に在籍。昨年、ベルリン・フィルハーモニー「カラヤン・アカデミー」のオーディションに見事合格。オーケストラでのさらなる研鑽に加え、ソロ、室内楽など多方面で活躍中の俊英だ。

ベルリンでの新生活はコーヒーとともに

Q1 ニックネームを教えて。

いまは名前(采紀/さき)で呼ばれることが多いですが、小さいころは大人から「枝豆ちゃん」と呼ばれていました(笑)。顔のかたちが“枝豆らしい”そうです。

Q2 昨年5月に受けたベルリン・フィルハーモニー「カラヤン・アカデミー」オーディションはどのような内容だった?

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のオーディションは、世界で唯一オーケストラ・スタディの試験がないことで知られていますが、アカデミーも同じです。書類審査後、演奏試験が1次、2次と計2回あって、いずれも演奏時間がすごく短い。1次試験ではモーツァルト「協奏曲」、2次試験でシベリウス「協奏曲」を弾きましたが、どちらも5分程度でした。

Q3 気分転換はどのようにしている?

散歩です。(日本の)実家にいるときは飼っている犬と散歩に出かけます。ベルリンではまだ散歩に行けていませんが、リューベックにいたころは景色がとても綺麗な場所だったので、天気がよい日、練習に行きづまったりした日には必ず散歩に出かけていました。

あとコーヒーが大好きです! ベルリンに引っ越しをしたタイミングでエスプレッソ・マシンを買いました。毎日朝、昼に一杯ずつ淹れて、テンションを上げています。

Q4 自身をどんな性格だと思う?

頑固だと思います。ですが、最後はなんとかなる! と、わりとポジティブ思考です。周りからはすごくストイックな性格だと思われがちですが、テキトーな部分も多いのです(笑)。

Q5 好きな食べ物は?

辛いものです。たとえば、担々麵やスンドゥブチゲ、麻婆豆腐など。完全に「辛党」ですね。ベルリンで外食するとしたら、中華料理か韓国料理。食べるとスカッとするというか、汗をかくのですっきりします。

Q6 本番前の勝負飯は?

「速攻元気ゼリー」です。パッケージデザインと名前に惹かれて、弾く前にそれを飲むことが高校生のころからのルーティンです。

昨年夏から留学しているベルリンの街について「色々なものが詰まっている刺激あふれる街ですね。両親がベルリンにいたこともあったので、街そのものにとても憧れがありました」と語る戸澤さん。気さくな語り口が魅力的

大好き!マーラーの交響曲

Q7  好きな作曲家は?

マーラーです。楽器をはじめるきっかけとなったコンサートでもマーラーが演奏されていました。聴いても、弾いても、音楽の渦に巻き込まれていくような、あの感じ……。複雑さのなかにふっと現れる童心、ピュアな部分が、人間のもつ二面性のようでとても惹かれます。

Q8 いちばん好きな作品は?

マーラー「交響曲第9番」です。以前は本番の前日に第4楽章をよく聴いていました。自宅の部屋を真っ暗にして、号泣してから寝る。第4楽章最後の「許されている感じ」が泣けるのです。私はこの曲を聴くと、生きることへの執着がなくなってしまうというか、聴いたら死んでもいい! となってしまう危険な作品でもあります。さすがに最近は本番の数が増えて、本番前には聴けていないのですが(笑)。

Q9 いつか演奏してみたい曲は?

もちろんマーラー「交響曲第9番」です。マーラーの交響曲は、生きているうちに全曲制覇したいと思っています。

Q10 憧れの演奏家は?

指揮者のクラウディオ・アバドさん(1933~2014)です。魔法使いのようなかただと思います。私は世代的に生演奏を聴けず残念でしたが、彼はライヴ録音をたくさん遺しているので、それをよく聴いています。

アバドさんに関するドキュメンタリーをみていると、「本番でなにかが降りてくる」というエピソードをよくみかけます。たとえば、ブラームス「交響曲第4番」を弾く本番で、アバドさんは冒頭、手を振り上げたまま下ろさない。あるタイミングで楽団員たちが「ここで入らなきゃ」と確信する奇跡のような瞬間があり、アバドさんはみんなが音を出したのを聴いてその次の拍から振り出した。そういうマジカル、ミラクルなことを起こすような姿にも憧れています。

Q11「Q10」で挙げたアーティストで、とくに好きな演奏は?

マーラー「交響曲第9番」。1999年9月のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とのライヴ録音は何度聴いたかわからないほどの愛聴盤です。私の両親は、当時この演奏を現地で聴いているのですが、その話を聴いたときは悔しすぎて泣きました。なんでもう20年早くに生んでくれなかったの……と。

Q12 お酒は飲む?

はい。ワインをよく飲みます。赤ワインが好きですね。父(註:ヴァイオリニストの戸澤哲夫さん)とお酒を飲むと、マーラーについて語り合うことも(笑)。伝説的な名演の映像を流しながら、色々語っています。

1日お休みがあったら「温泉に行きたいです。あと岩盤浴も!」

自分のために弾く、人のために弾く

Q13 練習にルーティンはある?

ルーティンといえるかわかりませんが、基本的にどのジャンルの曲を弾くときも、スコアを見てさらっています。iPadで楽譜を見ているのですが、すごい勢いでページをめくりながら弾いています。元アルテミス弦楽四重奏団のハイメ・ミュラー先生は、レッスンでも合わせでも、奏者全員に対して「スコアをみながら弾きなさい!」とおっしゃられます。

Q14 楽器の練習を「辛い」と感じたこと、時期はある?

日本音楽コンクールに優勝した次の年、忙しくて自分の思うような練習時間がとれないまま本番にでることが辛くて、やめたいと思ったときがありました。それまでは”自分のため”だけに弾いていた演奏が、急に仕事として”人のため”に演奏しなければならなくなった。もちろんそれが音楽を仕事にして生きていく、ということなのですが、当時16歳だった私にとってはすごく辛かったのです。悩みを相談した友達に「自分のために弾く、人のために弾く、というのは最終的にはつながっているのかもね」と言ってもらったその言葉にはとても救われましたね。

Q15 自身の世界観を変えた言葉は?

ダネル弦楽四重奏団のマルク・ダネルさん(vn)から「リスクを起こせ!」といわれたことです。それまで本番では、練習どおりに弾くことばかり考えていました。練習の枠を超えるような熱演をする、その一歩を踏み出す勇気がでなかったのです。ダネルさんの言葉はそれを変えてくれました。

Q16 お気に入りの本は?

重松清さんの短編集『卒業』(新潮文庫)です。この本はドイツに行くときも日本に帰るときも、必ず持って歩いています。本を読むのは好きで、日ごろからよく読んでいるのですが、じつは心の底から感動した経験はあまりないのです。でもこの本は10年前に初めて読んで、ものすごく感動しました。素直になれるというか、心が温まるというか……。『まゆみのマーチ』は子どもが読む本としても有名ですね。

普段はミステリーとかサスペンスとか、最近は三島由紀夫さんの作品をよく読んでいます。

Q17 好きな映画は?

『ハリー・ポッター』シリーズです。友達と、「10歳のときにホグワーツから入学許可証が届いたら、ヴァイオリンを置いて魔法学校に行っていたよね」とよく話しています(笑)。

Q18 趣味はある?

卓球です。ベルリンのフィルハーモニーの地下にも卓球台があって、よくそこで卓球をしています。くるくる回転した速い球を打つのが得意です。

東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校に通っていたときにも、休み時間に卓球をしていました。長時間やりすぎて怒られることもありましたが(苦笑)。その卓球台は、東京藝大附属高校が御茶ノ水にあったころからある界隈では有名な卓球台です。

Q19 これまで音楽、ヴァイオリンを続けてこられた理由は?

ひとこと「好きだから」、です。私は音楽が仕事で、音楽が趣味。音楽のことを考えている時間がとにかく楽しい。私にとって音楽というのは、友達の輪を広げてくれる、自分を社会と結びつけてくれる存在だと思っています。

Q20 20年後、どうなっていたい?

ドイツと日本に拠点を確立して、バリバリ働く、カッコイイ人になりたいです!

会ってみたい作曲家は、ブラームス、シェーンベルク。「ブラームスほど今日まで時代によって演奏のされかたが変わっている作曲家はあまりいないので、ブラームス自身がどう思っているのかを聴いてみたい。シェーンベルクには、どうしてあんなに尖った音楽の方向に進んだのか聴いてみたいですね」
戸澤采紀さんInformation
◉第33回出光音楽賞入賞者ガラコンサート

日時:2月20日18時45分

会場:東京オペラシティ コンサートホール

出演:秋山和慶(指揮)、戸澤采紀(vn)、東京交響楽団、他

曲目:メンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲」第2・3楽章、他

問合せ:チケットスペース 03-3234-9999

※1月18日から同公演の観覧募集開始。テレビ朝日系『題名のない音楽会』番組ホームページから応募できる。

月刊誌『音楽の友』Information

『音楽の友』2月号(1月17日発売)の連載「フレッシュ・アーティスト・ファイル」では、戸澤采紀さんのインタヴュー記事を掲載。ぜひ併せてご覧ください!

「音楽の友」2025年2月号記事詳細はこちら

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